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569号 日本老年医学会が「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」医療機関以外に在宅医療、介護施設の医療、薬剤師の役割も新設

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■高齢者で頻度が高い薬物有害事象に対応したガイドライン

 日本老年医学会は11月4日、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」を作成し、学会のウェブサイトで公表( http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20150427_01_02.pdf )、12月下旬に出版される予定(図3:前回のガイドライン「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2005」表紙)。同ガイドラインは、高齢者では薬物有害事象の頻度が高く重症例が多いことから、高齢者の薬物療法の安全性を高める目的で2005年に作成された。今回は10年ぶりの全面改訂で、「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」約30種類と「開始を考慮するべき薬物のリスト」約10種類の2つの薬物リストを作成したのが特徴。また、筋骨格疾患、在宅医療、介護施設の医療、薬剤師の役割の4領域を新設。多剤併用における薬剤師の役割や、薬の一元管理の重要性も指摘。「かかりつけ薬局で患者の処方情報はすべて把握し、重複投与や併用禁忌、「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」該当薬等をチェックし、疑義照会が適切にできるような体制にすべき」と指摘している。

 

 ガイドラインでは、①精神疾患、BPSD、不眠、うつ、②神経疾患、抗認知症薬、パーキンソン病、③呼吸器疾患、肺炎、COPD、④循環器疾患、抗血栓薬、抗不整脈薬、心不全、⑤高血圧、⑥腎疾患、⑦消化器疾患、GERD、⑧糖尿病、⑨脂質異常症、⑩泌尿器疾患、⑪筋骨格疾患、骨粗鬆症、関節リウマチ、⑫漢方薬、⑬在宅医療、⑭介護施設の医療、⑮薬剤師の役割-の15領域を設定。系統的レビューを行い、「高齢者の処方適正化スクリーニングツール(STOPP-J)」を掲載。具体的には、ハロベリドールなど抗精神病薬、トリプタノールなど抗うつ薬などは、副作用として認知機能低下などがみられることから、すべての高齢者に対し、「可能な限り使用を控える」(エビデンスレベル:高、推奨度:高)とした。さらに、ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不眠薬は、在宅医療で高齢者の転倒リスクを高めると指摘し、「長時間作用型は使用すべきではない。トリアゾラムは健忘のリスクがあり、使用すべきではない」とした。ほかの薬剤についても、最低必要量、短時間での投与を求めている。

 

 なお、ガイドラインの適用対象は、①75歳以上の高齢者および75歳未満でフレイル~要介護状態の高齢者、②慢性期、特に1カ月以上の長期投与を基本的な適用対象とする、③利用対象は実地医家で、特に非専門領域の薬物療法を対象とする、④薬剤師、服薬管理の点で看護師も利用対象となる-と明記されている。

 

■中医協でも高齢者の多剤処方による有害事象を指摘

 高齢者の薬の多剤処方は、次期平成28年度診療報酬改定を巡る中医協の論議でも指摘された。11月6日開催された中医協総会で「薬剤使用の適正化等について」の論議で、高齢者への多剤処方に関する課題と論点」がとりあげられた。

 高齢者では6剤以上の投薬が特に有害事象の発生増加に関連していること、その有害事象は、意識障害、低血糖、肝機能障害、電解質異常、ふらつき・転倒の順に多いことが明らかにされた(図4:高齢者の多剤処方の問題点~有害事象の発生)。

「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」への関係者のコメント

<当初ガイドライン案の「ストップ」「スタート」に批判が殺到>

 

 日本老年医学会がガイドライン案を公表したのは今年4月。同案では、高齢者への投与中止を考慮するべき薬物・使用法と、投与を強く推奨する薬物・使用法をそれぞれリスト化し、名称を「ストップ」「スタート」としていた。これに対し、関連する学会や診療現場から「ストップ」リストにあげられた薬剤は禁止薬であるとの誤解から、パブリックコメントで「使えなくなると困る」といった意見が殺到。ガイドライン作成グループと日本老年医学会理事会は再度検討し、「ストップ」「スタート」リストの名称を、完成版では「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」「開始を考慮するべき薬物のリスト」に変更し、2つを合わせて「高齢者の処方適正化スクリーニングツール」とした。

 

<都内調剤薬局の薬剤師「かかりつけ薬剤師・薬局の役割が重要に」>

 ガイドラインで薬剤師の積極的な関与が求められたことについて、都内のある調剤薬局の薬剤師は、「高齢者は複数の疾患に罹患していることが多いため、多剤併用に陥り、薬物有害事象の発現頻度が高まりやすい。薬剤師が残薬確認や処方設計の介入などを行う薬学的管理を行うことで、重篤化の回避が可能になる。折しも、平成28年度診療報酬改定で、かかりつけ薬剤師・薬局の役割が評価されることになった。今後、高齢者医療でも薬剤師・薬局の役割が重要になってくる」などとコメントしている。

<患者の声「お年寄りが注意すべき薬を示してくれたことはありがたい」>

 都内で要介護高齢者と共に生活するある家族は、「お年寄りは、一度に多くのそれも多種類の薬をもらう。特に注意すべき薬を今回、老年医学の専門学会が示してくれたことはありがたい」などと、学会が「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」を示したことを評価している。

事務局のひとりごと

 ここ数回、WMNでは「日本老年医学会」に関するニュースをとりあげることが多いが、今後の医療・福祉は、人口構成が変化し少子高齢化が進んでいくので、急性期医療はもちろん大切なのだが、高齢者医療は、医療を論じる上でかなりの主要な部分を占めることになるだろう。

 以下、今回とりあげたガイドライン総論部分の内容を抜粋・要約してみた。高齢者で頻度の高い薬物有害事象に対する考え方が理論的にまとめられているので、ご参考いただきたい。大変勉強になるテーマであった。

 なお、原文は本文中にもあるURLから、ウェブサイトでご確認されることをお勧めする。

http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20150427_01_02.pdf

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 高齢者は多病ゆえに多剤併用になりやすい。老年外来の他施設調査では平均4.5種類、レセプト調査では70歳で平均6種類以上服用していた。薬剤費の増大も問題だが、より問題が大きいのは、薬物相互作用および処方・調剤の誤りや飲み忘れ・飲み間違いの発生確率増加に関連した薬物有害事象の増加である。

 6種類以上で薬物有害事象のリスクは特に増加するようだ。多面的な実態からみて、高齢者への多剤併用の目安は5~6種類以上が妥当であろう。

 

 多剤併用の対策として、まずは多剤併用を回避するような処方態度を医師が心がけることが大切である。たとえば10種類の薬剤を服用している患者がいれば、理論的には1~10番まで優先順位があるはずであり、本来、主治医は優先順位を決定できなければならない。そのためには日頃から患者としっかり向き合い、病態だけでなく生活状況まで把握しておく必要がある。そして優先順位に基づいて、もし処方を6種類までに抑えたいと考えたら、7番目以下の薬剤が見直しの対象ということになる。

 

 高齢者では、多剤併用に服薬管理能力の低下が加わって、服薬アドヒアランス(※2)が低下しやすい。いくら良い薬を処方しても、きちんと服用しなければ十分な効果が得られないばかりか、中途半端な服薬は薬物有害事象の危険にもつながる

 高齢者では、多剤服用、認知機能障害、うつ状態、自覚的健康感が悪いこと、医療リテラシーの低いこと、独居などが、アドヒアランスの低下と関連することが報告されている。難聴や視力低下、手指の機能障害は服薬管理能力に直結する老年症候群として主疾患にとらわれず、把握しておく必要がある。

 

 現代医療においては、疾患別の診療科を受診するのが最善と取られがちだ。しかし、高齢者にとっては必ずしもそうではなく、過少でも過剰でもない適切な医療、および残された期間の生活の質(QOL)を大切にする医療が最善の医療であるという立場を日本老年学会は表明している。

 そのような最善の医療を目指した適切な薬剤変更は、多くの診療科に受診していては困難である。要介護あるいはフレイルな患者では、かかりつけ医がハンドルを握り、徐行してでも安全運転を目指すことが大切だ。処方の一元管理、資料目標や生活状況を考えながら治療薬の取捨選択を行い、必要な時に疾患別専門医の意見を求めればよい

 

 処方を一元化するのが困難な場合、せめて調剤薬局は一元化したい。かかりつけ薬局で患者の処方情報はすべて把握し、重複処方や併用禁忌、「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」該当薬等をチェックし、疑義照会が適切にできるような体制にすべきである。服薬指導や残薬確認、お薬相談もかかりつけ薬局の重要な機能である。薬局の一元化ができない場合の最後の砦が「お薬手帳」であるが、お薬手帳ですら何種類も持っている高齢者がいる。一元化と早期の電子化が渇望される。

(参考:「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」総論部分より一部抜粋・加筆・編集)________________________________________

 

 最後に、調剤薬局運営事業者からコメントをいただいたので紹介したい。

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 『これからの薬局・薬剤師は超高齢社会に向け、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」の内容を熟知し、 薬局での処方解析に生かしていかなくてはなりません。またかかりつけ薬局化・在宅医療を進めるに当たり、地域包括ケアにおける多職種連携でこれらの知識を持った薬剤師の役割が重要になってきており、かかりつけ薬局・在宅を推進して行かなければ、薬剤師が生き残れる道はないと考えております。

 その為には、人材育成・業務の効率化を進める必要があるのですが、いずれの問題に関しましても、薬剤師の人材不足が課題となっております。』

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 不景気から好景気になると、人手不足が顕著になりやすい。しかし、そういう要因だけでなく、これからの日本は構造的に働き手が不足となるであろうことは目に見えている。各企業の経営努力だけは解決しがたい問題だ。

 あらゆる利便性が大きく飛躍した現在、それが人手不足などの理由で後退するのは、何としても食い止めたい。表現としては今一つしっくりこないが、「一億総活躍」を真剣に考えなければならないのは、政治家だけではなく、むしろ国民一人一人なのだろう。

 「今、一人の自分にできること」。それを考えながら新年を迎えたい。

<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

※2…患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けることを意味する。