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571号 医療機関の消費税問題は「2017年度税制改正で結論」与党「2016年度税制改正大綱」が決定

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■医療の消費税問題、解決年限を2017年度と明記

 自民・公明の与党は2015年12月16日、「平成28年度(2016年度)税制改正大綱」を決定した。下記の通り控除対象外消費税問題に関する記述が引き続き「検討事項」として盛り込まれた。特に高額な設備投資に対する負担が大きいという問題に触れつつ、解決に向けて「平成29年度(2017年度)税制改正に際し、総合的に検討し、結論を得る」と明記した。

 

 「医療に係る消費税等の税制のあり方については、消費税率が10%に引き上げられることが予定される中、医療機関の仕入れ税額の負担及び患者等の負担に十分に配慮し、関係者の負担の公平性、透明性を確保しつつ抜本的な解決に向けて適切な措置を講ずることができるよう、実態の正確な把握を行う。税制上の措置について、医療保険制度における手当のあり方の検討等とあわせて、医療関係者、保険者等の意見、特に高額な設備投資にかかる負担が大きいとの指摘等も踏まえ、平成29年度税制改正に際し、総合的に検討し、結論を得る。」

 

 2015年度税制改正大綱と比べると、「個々の診療報酬項目に含まれる仕入れ税額相当額分を『見える化』することなどにより」の記述がなくなり、「特に高額な設備投資にかかる負担が大きいとの指摘等も踏まえ」という文言が加わった。総合的に検討し、結論を得る時期についても「平成29年度(2017年度)税制改正に際し」と明示した。

 

■「スイッチOTC薬の年間1.2万円超えた額を所得税控除する特例」が創設

 また、2016年度与党税制改正大綱では医療に関して、セルフメディケーションを推進するため、医療用から一般用に転用された「スイッチOTC薬」の年間購入費用の1.2万円を超えた額を所得税控除する特例の創設が盛り込まれた。製薬業界などからのセルフメディケーション推進の要望と、医療界が求めてきた個人の健康増進・疾病予防の推進を要件化し、所得控除の特例を創設したもの。2017年1月から5年間、個人が購入するスイッチOTC薬の費用が年間1.2万円を超えた場合、8.8万円を限度にその超えた額を所得控除する。この特例適用を受ける場合は、医療費控除の適用は受けられず、一方で医療費控除の適用を受ける場合は、この特例の適用は受けられない。

 

 セルフメディケーションの推進に関しては、2015年6月に閣議決定された骨太の方針2015(経済財政運営の基本方針2015)に盛り込まれ、厚労省も2015年9月、「平成28年度主な税制改正要望の概要」の中で、「セルフメディケーション推進のための一般用医薬品等に関する所得控除制度の創設」)を要望していた。これらを受けた形で、2016年度税制改正大綱では、健康の維持・増進と疾病予防への取り組みを税制面から後押しすることになった。

 

関係者のコメント

 

<日本医師会「控除対象外消費税問題の解決年限の明記を評価」>

 日本医師会は、「税制改正の議論の多くが軽減税率導入に費やされ、医療に関しては注目されなかったことは残念」とした上で、控除対象外消費税について「2017年度税制改正に際し、総合的に検討し、結論を得る」と問題解決への年限が明記されたことを評価。

 

■スイッチOTC薬控除の問題へのコメント

●製薬業界「スイッチOTC薬控除の創設は、医療費の適正化にも資する」

 スイッチOTC薬控除(医療費控除の特例)の創設」について、日本製薬団体連合会と日本一般用医薬品連合会は12月17日、「自分の健康に関心を持ち、健康で長寿を目指す手立ての1つとして、健診等と共に、スイッチOTC薬の活用を進めていただくことにより、次の世代に引き継がなければならない医療費の適正化にも資するものです」などとする声明を発表した。

 

●所得税控除を契機に、「重篤な病気を見落とすリスク」も

 正しく「スイッチOTC薬」を使えば、医療機関に受診する頻度を下げることができ、医療費を削減できるというのは、「理想」だ。その「理想」の実現には、日本の「国民皆保険制度」との解離や、優遇する対象のズレなど、様々な問題がある。スイッチOTC薬の所得税控除を契機に、国民が市販薬をよく使うようになれば、当然、市販薬による副作用被害も増えてくる。

 例えば「スイッチOTC薬」である『ガスター10』は、あくまで症状を緩和するための対症療法であって、ピロリ菌感染など、胃炎や胃潰瘍の根本的原因を治療できるものではない。胃がんなど重篤な病気を見落とすリスクもあり、2週間以上の長期使用は制限されており、この点の周知が十分行われるか、心配する意見も多いようだ。

■損税問題に頭を悩ます医療団体の声

●「損税」負担は1億円以上~自治体病院協議会の消費税調査

 与党の2016年度税制改正大綱では、「特に高額な設備投資にかかる負担が大きいとの指摘等も踏まえ」という文言が加わり、病院の高額医療機器導入などに当たって消費税問題に配慮されることになった。

 ここに、病院の控除対象外消費税(損税)負担の厳しさを示すデータがある。全国自治体病院協議会(全自病)が2015年5月に発表した「消費税に関する緊急調査結果」によると、2010年度に159の会員病院(独立行政法人運営病院を除く)が負担した控除対象外消費税は、平均で年間1億2414万円、500床以上の病院では同3億2323万円にのぼる。また、消費税率が10%になった場合、損税は平均で年間2億4827万円、500床以上の病院では同6億4646万円にもなると推計している。

 自治体立病院は室料差額などの課税売上割合が4%程度と低いため、控除できる消費税が少ないのが特徴。このため、調査では、会員病院から「診療報酬を課税対象とし、税率を軽減(ゼロ税率など)」「医療機関が購入する薬品・診療材料は非課税」「仕入れにかかる消費税は全額控除対象」という意見・要望が多く寄せられたという。

 

●消費税導入1989年から2007年度までの損税は、累計約6兆円~四病協のセミナーから

 また、少し古いデータだが、日本医療法人協会、日本精神科病院協会、日本病院会、全日本病院協会で構成する四病院団体協議会(四病協)と日本医師会が2011年8月に開催したセミナーの中で、税理士から消費税が導入された1989年以降、損税負担によって損失した病院の収益は2007年度までの累計で約6兆円に上るとの試算が発表された。試算とは言え、この6兆円が病院の負担になっていなければ、どれだけ経営が改善され、医療の質向上につながることができただろうか。10%への消費税率引き上げで、「医療崩壊」が懸念される。

 

●損税解決策として「ゼロ税率(免税)」を提案~保団連

 保険医の団体である全国保険医団体連合会(保団連)は医療機関の控除対象外消費税(損税)の解決策として、「ゼロ税率(免税)」を提案している。日々の診療に必要な医薬品や医療器具の仕入れ、水光熱費の支払いなどは課税取引であり、医療機関が消費税を支払う。しかし、保険診療が非課税であることで、仕入れに支払った消費税額は控除できない。また、保険診療は公定価格であるため、窓口負担に上乗せして患者に転化することもできない。仕入れに支払った消費税は医療機関が損税として負担することになる(図3:医療機関の費用構造と医療機関が支払う消費税の対応関係(イメージ) 参照)。


 「ゼロ税率」は、実務上、保険診療を課税売り上げとみなし、消費税ゼロ%で計算する。課税売り上げとして取り扱うため、仕入れなどに支払った消費税額を全額控除することができる。損税は還付申告によって解消されると、保団連では説明している。

 保団連が「ゼロ税率」を主張する背景には、損税はこれまで基本診療料など診療報酬に上乗せする形で補填が図られてきたことの問題点がある(図4:税率8%引き上げ時の診療報酬への上乗せ率 参照)。医療機関ごとに経費構造は異なり、仕入れにかかる消費税にも格差がある。たとえ、ほとんどの医療機関が算定する初再診料に上乗せしても、設備投資の多い診療科や病院などの負担は解消され切らず、不公平が残った。また、診療報酬への上乗せは、患者負担が増えることにもつながった。

事務局のひとりごと

 今回のテーマである医療機関の損税問題は、財源問題と絡めると非常に悩ましい問題だ。本文中のコメントにもあったが、『消費税が導入された1989年以降、損税負担によって損失した病院の収益は2007年度までの累計で約6兆円に上るとの試算が発表』されたとある。少し古いデータであるが、この8年間、平均すると年間7,500億円の損税が発生していたことになる。

 

 医療においては診療報酬に消費税対応分の財源が乗せられているとされるので、複雑な形だが医療機関は前回のプラス改定で医業収入の上では増収が実現されたことだろう(あくまで病床利用率などの諸条件が一定であったという仮定の上であるが)。ところが出ていくお金(費用と消費税)もこれまた増えた。その上補填分とされたはずの報酬も、病床規模が大きくなればなるほど、補填として成り立たっていないとされる状況が今であり、2016年改定の診療報酬本体部分についていえば「プラス改定」だとされた。

 

 診療報酬改定では数百億円の攻防が行われているかたわらで、医療機関への損税の対応を、例えば「ゼロ税率」を採用したとすると、というより、どんな形であれ面倒を見るとなれば、年間約8,000億円近い財源が必要になってしまうのだ。「そんな財源あるわけない」という財務省のお役人の声が聞こえてきそうだ。であるから、財務省からすればゼロ税率であろうが還付であろうが、医療機関における社会保障に関わる収入に関しての何らかの補填をすべて認めることなど、到底容認できるものではないだろう

加えて、何らかの補填をするにしても、会計システムの改善が必須である。この投資に対する補填さえ議論になりかねない。とんでもなく大きな問題だ。

 

 また、【図3】医療機関の費用構造と医療機関の支払う消費税の対応関係 に記載されている考え方からすれば、必ずしもこれに当たらない場合があるとしつつも、人件費(非課税相当)は50%というのが考え方のベースだ。残る50%が医薬品・診療材料・償却費を含む「その他費用」なのだそうだ。今や、(もちろん例外もあるが)多くの大型病院で、医療・看護・薬剤などの国家資格者以外はアウトソースしようとする流れがある中で(※2)、病院内に労働力を提供している企業の対価(売上)は、単価は高額であるとはいえ、そのほとんどが人件費相当であろうその人件費にまで10%の消費税を払うのでは、病院もたまったものではないだろう。『「役務の提供」というサービスを消費した』というのが建前なのだろうが。

 

 あるいは厚労省は病院に関わる人が、全て病院の直接雇用であることを推奨しているということなのだろうか。そういった問題も、損税問題の補填の議論の中で採り上げられても良いのではないだろうか。

 

 診療報酬改定の短冊(個別点数に関わる議論)もこれから佳境に入っていくが、損税問題についてもその議論の行く末を注視していく必要がある。

<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

※2…急性期看護補助体制加算、医師事務作業補助体制加算については自院雇用でなければ算定できないので(派遣は可)、時代に逆行している感もなくはないのだが…。(WMN事務局)