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短信:住み慣れた地域に住み続けるために、求められるものは何か。 日本臨床倫理学会 理事長 全国在宅療養支援診療所連絡会 会長 新田 國夫氏(抜粋)

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 2025年に団塊の世代が後期高齢者となり、現在の医療体制の継続では対応できなくなるために、15年4月から都道府県が地域医療構想を策定し、質の高い医療と介護を地域でいかに効率的に提供していくかという施策を進めることになりました。
 これは、2025年に向けて病院の機能分化を進めるために、医療機能(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)ごとに医療需要と病床の必要量を推計し、適切な医療提供体制を実現するために、今後、医療機能の分化、連携を進めるべく施設設備、医療従事者の確保、養成を行っていくというものです。
 要介護状態となっても住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるように、住まい、医療、介護、予防、生活支援が一体的に提供される地域の包括的な支援、サービス提供体制が、地域包括ケアシステムですが、地域の特性に応じて主体的に作り上げていくことが必要とされています。
 このシステムが進められれば、地域に住み続けられる人は増えると思いますが、要介護状態によって、あるいは重篤な疾患と認められた人で、家族の介護負担を含めて地域の介護能力がなければ、病院や施設にはいることになります。 ベッド数の決定では、在宅療養も含めて考えた場合、今の枠組みでいう療養型病床群の介護療養型病床の患者が、おそらく慢性期病棟の患者となり、それが在宅に移行していくことになるだろうと思われます。
 しかし、本当にその方法でよいのでしょうか?
急性期病院における75歳以上の患者には、肺炎、骨折、脳血管疾患の後遺症の人がほとんどです。誤嚥性肺炎が高齢者に非常に増加していますが、なぜ嚥下障害や、肺炎を起こすのかをよく考え、摂食・嚥下の機能評価を在宅で行い、その人に合った食べさせ方をすれば、誤嚥性肺炎を減らすことができるのです。つまり誤嚥性肺炎をおこしても質の高い在宅医療を行えば入院しないですむのです。しかし、急性期病床数には、こうした患者も含まれてしまいます。
 このように、機能評価がなされずに病院を行ったり来たりする今の時代の状況には、かなり問題があります。地域の在宅対応など、必要なところが整備されたならば、急性期病院に入院せずに済み、その分、ベッド数も少なくて済むわけです。

 

 救急車で搬送される人は、65歳以上が50%以上を占めています。高齢者救急で、単に突然の疾患で救急車を必要とする場合ももちろんありますが、もともと要介護で予測されている場合でも、救急車を呼んでしまうことがあります。救急の医師は一般に万全を尽くして患者をなんとか元の場に復帰させたいと努めます。ところがCPA(心肺停止)状態で運ばれてきたり、、どこまで医療を行えばよいのかが疑問な例も多く、救急医を悩ませるケースもあります。これでは地域の機能は成り立たないでしょう。
 地域のかかりつけ医、在宅を専門とする診療所、看護師、介護士などを含めた地域医療の従事者たちが、「この人は事前指示として、ここまで話が出来ています」ということを、予めはっきりと意思表示しておければ、いざというときに救急車を呼ばなくて済みます。
 しかし、こうした意思表示がない中で医療が行われているので、突然、誰かが救急車を呼んでしまうことになります。そうなると、患者さん側、医療者側、どちらにとっても不幸なことになってしまいます。

 

  医療の対象者の多くが75歳以上という時代。その人にとって適切な医療とは何かを考えると、単に臓器を治療しても生活機能が低下してしまってはいけないわけです。そこで、臓器を治すことはQOL維持のための一つの手段にすぎず、絶対的な条件とはいえないという、いわば「医療の倫理観」が必要になってきます。
 突き詰めて考えると、医療者が考える最善の医療は、高齢者本人にとって最善とはかぎらないのです。救急で入院しても家に戻れず、結果として本人が望まない場所に行かざるを得ないこともあります。だからといって病院医療を否定するわけではありません。臓器を治しつつ支えていく方法があります。完璧を期さなく ても家に戻れる治療を行うという選択肢も考えていかなくてはならないと思います。
 このようなことが、これからの超高齢時代の日本の医療の基本的な考え方であると思います。

 

 問題は患者がどこの病院へ送られても、地域に戻れるシステムを作らなければならないことです。それでこそ初めて「住み慣れた地域に住み続ける」地域包括ケアがより良い形で実現するのです。
 今、急性期病院では、医師、看護師、MSWなどを含めて忙しさの中で、その患者の退院後のことまでじっくり考えた医療ができない状態です。患者本人の生活の基本に帰ることにより、全体像が俯瞰できます。
 地域において、医療者の”垂直統合”が必要だと思います。各機能分化した病院で、統一した規範をもつことです。そして施設しか行き場がない状態から、最終的には元の場に戻すことを重視する連携が必要です。
 どこの病院へ送られても、質的に担保され、元の生活の場に戻れるシステムを作らなければならないのです。それで初めて「住み慣れた地域に住み続ける」地域包括ケアがより良い形で実現するのです。
 セーフティネットとしての施設の必要性を承知の上で敢えていうのですが、私たちが生活者の立場で、老いても居心地よく過ごし、最期を迎えられるところはどういうところか、と逆から考えていくと分かりやすい構想だと思います。
 つまり、価値観の転換です。

 

以上