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No.585 在宅医療の普及啓発策などを議論  厚労省の全国在宅医療会議が初会合

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■在宅医療に絞って議論する会議は厚労省として初めて

 厚生労働省の在宅医療の提供者、学識経験者、行政からなる「全国在宅医療会議」の初会合が7月6日に開かれ、在宅医療の特性を踏まえた臨床評価指標と、在宅医療に関する国民への普及啓発のあり方などについて検討を始めた。座長には、大島伸一・国立長寿医療研究センター名誉総長、座長代理には、新田国夫・日本在宅ケアアライアンス議長がそれぞれ就任。今年9月に、①在宅医療の特性を踏まえた評価方法の検討、②在宅医療の普及啓発の在り方の検討についてのワーキンググループを設置し、年明けに第2回会合を行い、3月には重点分野の確認を行う予定

 

 在宅医療は、医療計画の「5疾病・5事業および在宅医療」として位置付けられているが、時間的には間に合わないため、2018年度からの医療計画策定の基本指針に盛り込まないが、 在宅医療は、地域医療構想と地域包括ケアシステムの推進のカギとなる。在宅医療推進について診療報酬などで対応してきたが、厚労省は、本会議発足の背景として、「国民に対して、在宅医療が生活の質の向上に資する具体的な効果を必ずしも示すことはできなかった」などをあげている。在宅医療の臨床評価指標などを策定し、在宅医療の「見える化」を進め、利用する国民にとって、どんなメリットがあるかについて普及啓発していくことが、本会議の主たる狙いだ(図1 地域包括ケアシステムにおける在宅医療推進体制)。

 

 会議の冒頭、厚労省の椎葉茂樹・医政担当審議官は、「在宅医療に絞って議論するのは、厚労省としては初めて。人生の最期を迎える場所として、在宅を希望しても、必ずしも実現しない中、在宅医療の提供者、学識経験者、行政が、三位一体となり、在宅医療の推進と国民への普及啓発に取り組んでいきたい」などと同会議の趣旨を説明した。

 

■国民だけなく医療提供者への普及啓発も

 9月に発足するワーキンググループで取り上げる「重点分野」として、厚労省は、①在宅医療の特性を踏まえた評価手法の検討、②在宅医療に関する普及啓発の在り方の検討-の2つをあげている。団塊の世代の全てが75歳以上となる2025年に向けて、政府は病院・病床の機能分化・連携を推進するための地域医療構想や、地域包括ケアシステムの構築を進めている。地域医療構想では「療養病棟に入院する医療区分1の患者の70%が在宅に移行する」ことになる。

 しかし、現実には、①エビデンスに基づく「在宅医療のメリット(QOL向上など)」が明確ではなく(国民がメリットを感じていない)、②医療者側には「在宅医療の推進は、医療費削減にある」という警戒感がある、③在宅医療は小規模な組織体制で提供されており、その考え方や手法は標準化されておらず、医療者側の取り組みもまちまちである、④国民の多くは、自宅で最期を迎えたいとの希望を持っているが、家族の負担を考慮し、実際には入院から自宅への移行は多くない-などの課題がある。同会議では、こうした課題を解消するため、在宅医療に関する既存のデータ等を集積するほか、新たにデータを収集・分析、在宅医療の普及啓発に当たっての課題を整理し、効果的な情報発信の方策を検討していくことになった。

 

 初会合では、在宅医療に関する「重点分野」としてあげられたそのほかのキーワードは、小児や精神障害者の在宅医療、在宅医療の専門医、訪問看護、ショートステイ、ターミナルケア、看取り(特にへき地、過疎地域)、緩和ケア、健康サポート薬局、在宅療養支援歯科診療所、在宅医療を提供する施設等のデータベース多数など、多岐にわたっている。

関係者のコメント

 

<政府の在宅医療推進の本音は?:在宅医療の推進には、既存の法規制の緩和が必要>

 政府が今年6月2日に閣議決定した規制改革実施計画の中で、在宅での穏やかな看取りを推進するために「医師による対面での死後観察によらずとも死亡診断を行える」旨の緩和を行うことが指示された。この点について6月末に医療団体の会合で講演を行った厚労省医政局の神田裕二局長は、「医師による死後観察は必要である」点を確認する一方で、「年間の死亡者が160万人に達しようとする中で、看取りのために当直体制を整備することが現実的であろうか」とも指摘しており、規制緩和内容には一定の合理性がある旨の考えを述べた。看取り問題1つをとっても、在宅医療の推進には、従来の法規制の壁にぶつかることになり、規制緩和に反対する医師会や医学会からの反発が予想される。

 

<鈴木日医常任理事:「在宅医療は『かかりつけ医』の延長であるべき」>

 全国会議の日本医師会代表の鈴木邦彦常任理事は、「在宅医療は『かかりつけ医』の延長であるべき」と述べ、日医として在宅医療に携わる医師向けの研修会の開催など、かかりつけ医が主体となった在宅医療を進めていくことを改めて強調した。

 

<城谷日本在宅医療学会理事長:「在宅医療で看取りが占める役割は拡大」>

 同じく全国会議のメンバーで、都内に2カ所の診療所と横浜市内で在宅医療専門の診療所1カ所を運営する城谷典保日本在宅医療学会理事長は、「在宅医療では、年々看取りが占める役割は大きくなっているが、看取りへの体制が不十分ではないか」と述べている。ちなみに、同氏が運営する鴻鵠会睦町クリニックは、年間2943人の訪問診療を行い、死亡者は129人。そのうち、在宅での看取りは70人で、在宅看取りは半数以上を占める。今年秋には、横浜市内に在宅医療がん専門の診療所を開設する予定だ。   

 

<早坂医療福祉協会長:「病院勤務医も在宅医療に関心を」>

 在宅医療を支える職能団体の1つである日本医療社会福祉協会の早坂由美子会長は、「病院の勤務医らが、在宅のイメージを持ち、患者に選択肢として提供できるか検討すべき」と、地域の診療所医師だけでなく、病院勤務医も在宅医療に関心を持つべきだと強調している。

 

 

<山口COML理事長のコメント:「在宅医療の体制が十分でない」>

 NPO法人COMLの山口育子理事長は、「高齢者が増えるということは、今よりさらに病院で完結する医療から地域で完結する医療が求められる。そのためには、地域包括ケアや在宅医療の充実が欠かせない。しかし、在宅医療の体制は未だ充実していない。COMLの電話相談にも、退院後のケアについて十分な説明がなく、『まだ治っていないのに転院を勧められた』という声がよく届く」などと、在宅医療の体制が十分でないと指摘する。(COML患者塾より)

 

<病院勤務医の声:「患者の入院前や退院後の生活に考えが及ばない」>

 宮崎県の公立病院の勤務医の声:なぜ勤務医は、在宅医療など地域医療連携の障壁になっているのか。①病気そのものしか見えておらず、患者の入院前や退院後の生活に考えが及ばない。②医師の発言は患者家族には決定的である.「この状態なら家に帰れない」と言われたら在宅医療は難しい。③積極的治療からの方針転換ができず、その後の指針が示せない-などが考えられる。(日本医師会ホームページ「勤務医のひろば」より)。

 

<訪問看護師の声:「スキルアップ図るには最初は病棟看護師から」>

 首都圏の訪問看護ステーションに勤務する30歳前の看護師。「訪問看護師の仕事は医療、介護など多面的な業務を要求される割に、待遇がいまひとつ。看護師としてスキルアップを図る点でも、最初は病棟看護師になったほうがいい」と新人看護師にアドバイスする。その背景には、昨年4月の介護報酬の改定で訪問看護ステーションの介護報酬は減額。一方で、医療機関の訪問看護の報酬は増額になっており、国の推進する在宅医療の拡充にはチグハグなところがあるようだ。

 

 

<在宅医療に不安抱く患者の家族:「末期がんの患者が在宅で過ごすには不安が…」>

 「『必要な時には入院する病院を必ず確保しておきます』と在宅緩和ケアを勧める病院の方は言うが、現実には、そのような病院はまだ数が少ない。本当に頼っていいのか不安だ」と、末期がん患者さんを抱える家族は語る。「在宅看取り」に関する国民への啓発活動と医療機関側の対応は、在宅医療推進のキーポイントである。

 

 

<マスメディアの論調:看取り体制の充実、在宅医療に対する“思い込み”を質す意見>

 在宅医療全国会議の初会合を巡るマスメディアの論調には、「高齢者の多くは自宅での最期を望んでいるが、在宅で看取りを行う医療機関は5%程度に過ぎない。終末期まで支える体制作りを」といった在宅医療での看取りの体制作りを求める意見(B紙)。「在宅医療の目的とは、自宅での暮らしを支えるものだ」「在宅医療が拡充されれば、効率化が実現して社会保障費の節約になる」「在宅医療は診療所がやるものであって、急性期病院には役割がない」という在宅医療を巡る3つの誤解をあげ、在宅医療に対する“思い込み”を質す意見(A紙)-などがみられた。

事務局のひとりごと

 

 

 人生の最期は大事な人々に囲まれて、「いい人生だったな」と思いながら静かに息を引き取りたい…。

 確かにそれが実現できれば、あの世へ行く本人としてはとても幸せなことだと思う。

 

 厚生労働省が発表した最新のデータ(※1)によれば、我が国の平均寿命は男女ともに過去最高を更新したそうだ。男性が4年連続で80.79年、女性が3年連続で87.05死因のランキングでは、ここ数年不動の順位だが、男女ともに1悪性新生物、2心疾患、3肺炎、4脳血管疾患ということだ。しかし、これらの死亡状況が改善したため、結果として平均寿命は最高を更新した。医学が病気を克服、とまではいかないが、これはやはり、医学の進歩による要因が大きいといって差し支えないだろう。

 

 共同通信社の記事(2016年7月26日(火)付)によれば、全国の自治体のうち3割にあたる552市町村では、昨年3月末現在、病気や高齢のため自宅ですごす患者を医師らが訪問して治療する「在宅療養支援診療所」(在支診)がないことが厚生労働省の集計で分かったという。

 今回のテーマである在宅医療の推進は、先に出てきた幸せな人生の最期を迎えるにあたっては、必ずや向き合わなければいけないテーマである。

 同社の同じ記事によると、国の調査によれば、「自宅で最期を迎えたい」と考えている国民は半数以上いるのだそうだ。それに対し、在宅療養を支える基盤は整っていない現状が浮かび上がったという(※2)。自宅で亡くなる人の割合に自治体間で大きな差があり、こうした医療体制のばらつきが一因として見られるのだそうだ。そして先の在支診の数は西高東低で、西日本の方が医療資源が多く、さらに「在宅みとり」の取り組みには在支診のなかで4割程度は年間に1件もみとりを実施していないという。

 

 お役人はこの状況を打破し、「在宅みとり」を広げていきたいのだ錦の御旗は「半数以上の国民の希望」を叶えんがため、そして増加の一途をたどる社会保障給付費の伸びを抑制するために。

 

 最後に、このコーナーは「ひとりごと」なので、あくまで事務局の1人がひとりごちているにすぎないのだと笑い飛ばしてくだされば結構だが、疑問を4つ挙げて締め括りとしたい。

 

疑問① 国民の2人に1人の割合で、「自宅で最期を迎えたい」という半数以上の国民。その年齢構成はどうなっているのだろうか?

 

疑問② 仮にその半数以上の方々の年齢が高齢者に偏っていた場合、若年層はどうしてそう思わなかったのだろうか。自分がみとる側にいることを想定してしまい、とてもではないが自宅で家族の最期を迎える数日間の体制や自らの境遇を考えると、病院や施設でみとられる方が理にかなっている、と考えたからのではないか。

 

疑問③ 在宅医療を推進すること自体、勿論結構なことだが、白旗を挙げる自治体があったとしても、それはそれで(その地域の住民も含めた)自治体が選択した結果であり、しょうがないのではないか。果たして国はそれを許してくれるのだろうか。

 

疑問④ 筆者は大事な人に囲まれたいとは思っているものの、果たして「自宅で最期を迎えたい」と、将来考えるのだろうか?(今は考えていないので)(※3)

<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

 

(※1)……「2015年簡易生命表の概況」
(※2)…… 本文中の各コメントにあるように、在宅療養を支える基盤を整えるにはまだまだ時間がかかりそうだ。
(※3)…… 筆者が天寿を全うして最期を迎えるであろう今から数十年後の日本。病院などでみとってもらうとなると、例えば病院の数が減っていたり、自己負担額が増額していたり、世の中の風潮が変わって「病院で最期を迎えるなんて贅沢な…」、「病院に入りたくても入れない」、「病院なんて高嶺の花だ」、仮にそんな世の中になっていれば、いやでも考え方が変わらざるを得ないのかもしれないが。

<WMN事務局>