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No.644 消費税率引き上げに伴い、介護人材の確保・定着を目指した「新処遇改善加算」が創設

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■2025年度に必要な介護人材は約245万人、年間6万人の確保が必要に

 2019年10月の消費税率引き上げ(8%から10%)に伴い、介護事業所・施設の控除対象外消費税負担を補填するため「特別の介護報酬プラス改定」(以下、消費税対応改定)が行われる。併せて安倍内閣は、「消費税対応改定において、介護職員の更なる処遇改善を行う」方針を決め、新たに「新処遇改善加算」の創設を行うことになった。

 厚労省は2018年12月19日に開いた社会保障制度審議会介護給付費分科会に、消費税率10%引き上げに伴う介護報酬改定に関して、12月17日の予算大臣折衝を踏まえ、①2019年度の介護報酬改定(2019年10月実施)を0.39%引き上げ、②新しい経済政策パッケージに基づく介護人材の処遇改善に公費1000億円を計上することを報告した(図4 新しい経済政策パッケージに基づく介護職員の更なる処遇改善)。

 

 

 

 2018年度からの第7期介護保険事業計画を基に、将来必要となる介護人材数を推計すると、2020年度には約216万人2025年度には約245万人となり、今後、年間6万人程度の介護人材確保が必要となる(2016年度の介護職員数は約190万人)。介護の現場は、「いわゆる3K(きつい、危険、汚い)職場でありながら、給与が低い」との指摘もあり、現在でも人材の確保に苦慮している。実際、介護関係の職種の有効求人倍率は3.50倍と、全職業の1.36倍に比べて依然として高い水準にある(2017年)。しかし、介護人材の賃金は、産業計と比較すると、勤務年数が10.7年に対し6.4年と短くなっているとともに、賞与込み給与も36.6万円に対して27.4万円と低い水準にある(図5 介護人材の賃金の状況(一般労働者、男女計))。

 このため政府は、消費税率引き上げに伴い、介護事業所・施設の控除対象外消費税負担を補填するため、特別の介護報酬プラス改定を行うことに併せて、介護人材の確保、介護人材の定着の重要性に鑑み新たな処遇改善のための「加算」(新加算)を創設することにしたもの。

 

■訪問看護や福祉用具貸与などは、新処遇改善加算の対象とならず

 新加算は、現在の「介護職員処遇改善加算」と同様に、各事業所において「各利用者に提供したサービスに係る報酬」に一定の「加算率」を乗じることで、「介護職員等の処遇改善」に向けた原資を提供する。新加算も介護職員等の処遇改善を目指すものであること、特に「経験・技能のある介護職員」の処遇改善を主眼としていることに鑑み、介護給付費分科会では、次のように「加算率」を設定することになった。

 ①現在の介護職員処遇改善加算と同様のサービス種類を、新加算の対象サービスとする(介護職員が従事していない、訪問看護や福祉用具貸与、居宅介護支援(ケアマネジメント)などは対象とならない)。各サービスの加算率は、「当該サービス種類における『現在、介護福祉士の資格を有する者であって、同一法人・会社での勤続年数が10年以上の者』(以下、勤続10年以上の介護福祉士)の割合」に応じて設定する(勤続10年以上の介護福祉士が多く配置されているサービスで、加算率を高く設定)。

 

 同じ介護保険サービスであっても、事業所・施設ごとに「勤続10年以上の介護福祉士」の割合は異なる。介護給付費分科会では、「これらを一律に扱うことは好ましくない。経験・技能のある介護福祉士を多く配置する事業所では、その努力に報いるべきである(加算率を高くする)」との指摘もあり、次のように「2段階の加算率」を設けることにした。(1)「サービス提供体制強化加算」「特定事業所加算」「日常生活継続支援加算」等を算定する事業所・施設では、加算率を手厚く設定。(2)上記加算の算定等がない事業所・施設では、加算率を低く設定することにした(図6 更なる処遇改善のイメージ①)。

 また、「他職種の処遇改善」等を重視するあまり、本来目的である「技能・経験のある介護職員」の処遇改善が疎かになってはいけないので、介護給付費分科会では、次のような最低限のルールを設定。このルールの範囲内で、各事業所・施設が「工夫を凝らした処遇改善」を行うことが期待される。①経験・技能のある介護職員:対象は勤続年数10年以上の介護福祉士を基本。介護福祉士を要件とするが、「勤続10年」の考え方は事業所の裁量で設定可能。最低限のルールとして、「月額8万円の処遇改善となる者または、改善後の賃金が年収440万円(役職者を除く全産業平均賃金)以上となる者が1人以上」「平均の引き上げ幅は、「その他の介護職員」の引き上げ幅の2倍以上」を満たすよう賃金を引き上げる。②他の介護職員:対象は「経験・技能のある介護職員」以外の介護職員。最低限のルールとして、平均の引き上げ幅が「その他の職員」の引き上げ幅の2倍」以上となるように、賃金を引き上げる。③その他の職種:対象は「経験・技能のある介護職員」「その他の介護職員」以外の全職員。最低限のルールとして、「改善後の賃金額が『役職者を除く全産業平均賃金(年収440万円)』を超えない場合に、処遇改善を可能とする」旨のルール設定を検討する図7 更なる処遇改善のイメージ②)。

 新加算の取得要件は、①現行の「介護職員待遇改善加算」Ⅰ~Ⅲを取得していること、②「介護職員待遇改善加算」職場環境等要件に関して「複数」の取り組みを行っていること、③「介護職員待遇改善加算」に基づく取り組みについてホームページ掲載などを通じて見える化していること。単純な「介護職員待遇改善加算」への上乗せではなく、「より職員定着に向けた努力を行っている」事業所・施設に対して、新加算という経済的インセンティブを与えるという考え方となっている。今後、2019年度予算編成を経て、2019年3月までには介護報酬の単位数改定に関する告示・通知等が発出される見込みである。

【事務局のひとりごと】

 

 今月号の別テーマでは、小学生がなりたい職業ランキングについて若干触れさせていただいた。

 ネットを検索してみると、なりたくない職業ランキングというのもあった。こちらについては、高校生男女100人を対象にしたものらしいのだが、考え方としてあげてみると以下の通りだ。

・飲食店で働く人

・教師

・大工・作業員

・営業職

・政治家

 などがその代表なのだそうだ。どの仕事もやりがいはあるに違いないが、現代の風潮では“大変そうなので”、“時間的拘束が多いので”というのが避けたい理由として勝っているようだ。“給料よりも環境”というのが今の就活戦線のトレンドであり、労働環境は非常に重要なのだそうだ。

確かにそれもうなずけなくはない。ただし、みんなが全てそれを求めていくと、「自動化・ロボット化」などに置き換わっていかなければ、いずれ社会システム全体に何らかの不具合が起きるかもしれない、という不安も残る。

 

 今回のテーマは、今や確保がとても困難な介護人材の確保・定着を目指した加算の創設である。

 どんなルールでも、万人が諸手を挙げて賛成することなどあり得ない。ルールを作る側も、より良い社会を目指したいという思いをもって策定されたことだろうと信じたい。

 

 昨年秋から年末にかけ、妊婦加算についての報道がなされ、この加算が改定時の見直しを待たずに極めて異例ながら、「凍結」されることになったのは記憶に新しい。ただ、凍結され、中医協での議論を求めていく形となったのだが、厚労省としては加算が目指すものは依然重要と考えているのであり、この加算自体に至った経緯まで否定しているのではない。以前民主党政権が自民党政権に取って代わった時のきっかけの一つとなったのが「後期高齢者」という名称についてだったと記憶している。名称が利用者に与えるイメージについて考えさせられる。

 

 ところで、診療報酬も介護報酬も負担割合は異なるが、現物給付を受けた人(患者・利用者)が一定の割合を自己負担することになるので、基本利用料だろうが加算だろうが、その点数が高ければ、自己負担も増えるのだ(※5)。うらはらなのだ。だから、今テーマの新処遇改善加算を算定した施設に入所するということは、その方の自己負担は増えてしまうのだ(ただ、介護保険で老健や特養を利用されている方の自己負担は1割が殆どかもしれないので、もしかするとあまり直接の負担感をご本人が感じることが少ないのかもしれない)。今回の報道では“処遇を挙げることで人材確保・定着”の論調が多かったような気がするが、いざ導入されたら、“自己負担が増えた”などの意見を拾い上げ、反転の議論が起こされないことを願いたいものだ。

 

 コメントを紹介したい。

○老人保健課長:「事業所内の配分で他の職員の処遇改善にも充てられる柔軟な運用を」

 介護給付費分科会の論議の中で厚労省老健局の眞鍋 薫老人保健課長は、「更なる処遇改善(新処遇改善加算)の趣旨は、これまでの処遇改善への取り組みを一層進めるとともに、介護現場への定着促進であり、その趣旨を損なわない程度に、事業所内の配分に当たって、他の職員の処遇改善にも充てられるようにすべきだ」と、新処遇改善加算の柔軟な運用を要請している。

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 独り占めには配慮をしてよね。ということなのだろう。

 

 ところがどっこい、介護施設運営事業者から、こんなコメントをいただいた。結構重い。

 

○全国老人保健施設協会会長:「介護福祉士養成施設の入学者は減少。そもそも新たな人材の確保が必要」

 介護給付費分科会の論議の中で全国老人保健施設協会の東 憲太郎会長は、介護福祉士養成施設の入学者数や定員充足率は年々減少している実態をあげ、「そもそも、新たな人材を確保しなければ、職場定着にも至らない」と指摘した。

 

○「経験年数のある介護福祉士の引き抜き合戦になる」

 新処遇改善加算を多く得て様々な職種の職員に分配しようとして、事業者間で経験年数のある介護福祉士の引き抜き合戦が熾烈になるかもしれない。しかし、「うちの施設に来て下さい。でも、加算算定しても全額はあなたの給与に行きません。他の職種の職員の処遇改善に協力して下さい」と言っても、誰も来てくれない。何かおかしい制度だ。

 

○経験・技能のある介護職員のコメント:

 「経験・技能のある職員に加算分を全て支給するという事業者になびくのは当然だ」

 厚労省の考え方では、加算された分を加算対象職員以外にも分配するということは、加算対象となるベテラン介護福祉士に支給される額は、分配される分削られていくことになる。そうなら、「うちの施設では、加算分は他の職員に振り分けないで、あなたにすべて支給します」という介護事業者に、「経験・技能のある介護職員」はなびいていくのは当然だ。

 

○他の介護職員のコメント:

 「新処遇改善加算でルール化され、人間関係の悪化が懸念」

 介護現場において離職理由のトップは人間関係だ。同じ事業所等の中に「月額8万円の処遇改善」「改善後賃金が年収440万円以上」が1人いればよいなどといったルールが設定され、これにより、待遇面での差が明らかになり、人間関係の悪化が懸念される。

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「案ずるより産むが易し」とはいうが、これらのコメントを見る限り、介護現場が収入面で険悪な雰囲気になってしまうのではないか?と、非常に心配になってくる。あちらを立てればこちらが立たぬ、とはこのことだ。規制多い割に肝心な部分は民間の自由裁量に任せるのは、それこそ酷な話だ、と思わなくもない。

 

 最後にこんなコメントを紹介したい。

○利用者のコメント:

 「介護保険料を負担する現役世代には、介護福祉士よりも給与が低い人もいる」

 今回の処遇改善は、「経験・技能のある介護職員(概ね勤続10年以上の介護福祉士)の給与水準を全産業平均並みに引き上げる」ことを主目的にしているが、介護保険料を負担する現役世代の中には、現実に介護福祉士よりも給与の低い労働者が結構いる。こうした方の負担を重くし、それよりも給与水準の高い介護職の給与をさらに引き上げることに違和感を抱く。

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 うーむ、折角の新加算創設の話なのに、肯定的なコメントが殆どなかったのは驚きであった。

今月号は新年という、めでたい気分にもかかわらず、別テーマである医師の働き方改革、そして今テーマ、決してきれいごとでは済まされない、非常に重たいテーマであったのだなぁと痛感した。

 

 平成という元号が最後となる今年、少子高齢化の波に立ち向かう政治と我々国民は、どこまで本腰を入れてこの課題に猛進することができるのだろうか?猪年の新年を迎え、読者諸氏にも何かを感じていただければ幸いである。

 

<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

 

(※5)・・・妊婦加算はネーミングの受けが悪かった(こともあるのだろう)のもあるのかもしれないが、“妊婦というだけで自己負担が何故上がってしまうの?”“それは妊婦になったらいけないってこと?少子化対策って言っておきながら、これじゃあ逆行するんじゃないの?”というような報道や世論によって、本来考えられていたはずのこの点数に対する考え方がきちんと説明できていなかった、理解されていなかったことにこそ問題の本質がある、と筆者は考えている。もちろん、よく槍玉に上がった眼科が機械的に加算を算定していたことなどの、運用ルールがしっかり周知されていなかったのも、この凍結を起こした要因として挙げられるのかもしれないが。

<WMN事務局>