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No.578 地域包括ケアシステム構築に向け ビッグデータを活用した医療・介護の「見える化」

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官民対話で安倍首相が医療・介護の「見える化」推進を表明

 

 安倍首相は4月12日開いた第5回「未来投資に向けた官民対話」の中で、2025年の地域包括ケアシステム構築に向けて、健診結果、レセプトデータ、医療機関の持つ医療情報、介護関連情報等のナショナルデータベース(NDB)を集約した「ビッグデータ」を活用して医療・介護の「見える化」を進めることを明らかにした。医療については、①データ分析・推計により、各都道府県の2025年の医療機能別医療需要と病床の必要量を「見える化」、②NDB分析により、各都道府県の受療率・1人当たり日数・1人当たり点数等の地域差を「見える化」を推進。また、介護については、年齢調整後の1人当たり介護費・要介護度別認定率の地域差を「見える化」を進める。

 医療・介護の「見える化」については、経済財政諮問会議の経済・財政一体改革推進委員会が4月19日に開いた社会保障ワーキンググループ(主査=榊原定征・経団連会長)の会合で、医療・介護分野の「見える化」のさらなる深化に関する議論の取りまとめを行った。取りまとめでは、「医療・介護分野等における徹底的な『見える化』を行い、給付の実態やその地域差等を明らかにしていくことで、保険者や行政はもちろん、サービス利用者であると同時に費用負担者でもある国民や、サービス提供者である医療・介護等関係者が自らの行動を見つめ直す契機とすることが重要である」と強調。国が初・再診、検査などの診療行為や医療費の地域差の「見える化」を進め、都道府県にデータを提供することにより、医療専門職に地域の傾向などへの「気付き」を促す考え方が示されている。

 

 地域差の「見える化」で医療専門職に「気付き」を促す方針のほかに、①医療費適正化に関する取り組み状況と「適正化効果」の相関関係を分析し、可能な限り、取り組み効果の算定式を設定する、②各保険者による個々のレセプト分析(高額レセプトの実態分析含む)で医療の実態把握を進める、③1人当たり介護費などの地域差を各市区町村が自ら分析できるよう、地域包括ケア「見える化」システムの開発・活用を進める―といった方向性を打ち出している。

 

■医療・介護の「見える化」で分かるもの

 

 厚労省は4月8日の経済・財政一体改革推進委員会の社会保障ワーキンググループの議論の中で、「医療+介護」の見える化についての資料を提示。その中では、1人当たりの入院医療費と介護費(施設・居住系サービス)の都道府県分布のデータ)を示し、「1人当たり入院医療費(75歳以上)」が高い都道府県は、「1人当たりの介護費(施設・居住系サービス)(75歳以上)」も高い傾向があると分析している。

 

 また、地域包括ケア「見える化」ついては、厚労省が昨年7月からホームページ(http://mieruka.mhlw.go.jp)で「見える化」システムを公開している。都道府県・市町村が介護保険事業(支援)計画を策定・実行するにあたり、地域課題を抽出しやすいよう比較できるようにしたもの。2014年度のデータに基づく同省の分析では、認定率、1人当たり給付費のいずれもトップは大阪府で、府内でも保険者毎の地域差が大きいことが明らかになっている。給付費の全国平均が27.4万円に対し、大阪府は31.9万円と4万円も高い。

 要介護認定を受ける人は年齢が高くなるほど多くなることから、地域毎の年齢構成を調整。要介護認定率や1人当たり給付費の比較、施設、在宅サービスのバランスに偏りがないかなどについて今年7月からはシステム上で把握できるバージョンアップを進めている。

関係者のコメント

 

<経団連榊原会長のコメント:「見える化を進め、エビデンスに基づく予算編成を」>

 経済財政諮問会議の民間議員である榊原定征氏(経団連会長/東レ株式会社相談役最高顧問)は、4月4日の第5回経済財政諮問会議で、医療の「見える化」について、「医療サービスの地域差は非常に大きい。見える化を進め、エビデンスを集め、今後、概算要求、予算編成においては、エビデンスに基づいて、より精査な検討を行う制度に変えていく必要がある」と、医療・介護の見える化の一層の推進を求めた。

 

<塩崎厚労相のコメント:「医療の中身を分析するなら50万人のビッグデータが世界的な常識」>

 塩崎厚生労働大臣は、ビッグデータ活用した医療・介護の「見える化」について、「予防程度のデータヘルスであれば10万人でも良いが、医療の中身を分析するとなると、50万人ぐらいは必要だというのが、世界的な常識である」と、ビッグデータの活用には50万人以上のデータ収集が必要だと強調した。

 

<松田産業医大教授のコメント:「国民の納得性を担保するために、医療の「見える化」は不可欠>

 松田晋哉産業医大教授は、今年2月25日に開かれた日本経済団体連合会(経団連)の社会保障委員会での意見交換で、「少子高齢化の進展により、社会保障制度の持続可能性に対する懸念が大きくなっている」とした上で、求められる制度改革を“ブレークダウン”とすると、保険料収入の増加、サービス供給量の適正化、効率化の3点に分けることができると指摘。改革を進める上でも、国民の納得性を担保するために、医療の「見える化」は不可欠だと強調した。

 

<病院団体の声:「見える化」が医療・介護の給付抑制につながる心配が>

 病院団体のある幹部は、「国が管理する医療・介護の「ビッグデータ」を活用した「見える化」は、さらなる医療・介護の保険給付の抑制につながるか心配」と、レセプトデータと医療・介護に関する諸データが関連づけられることにより、医療・介護の給付抑制につながることに懸念を抱いている。

 

<患者の声:ビックデータ活用が早期退院を促すツールに利用されて欲しくない>

 早期退院を促され、在宅ケアの場を移された患者とその家族は、医療・介護のビックデータ活用と「見える化」に対して、「病院でのリハビリの結果、数字上はADLが改善したが、在宅ケアを受け入れる体制が整わないまま、早期退院に追い込まれた。医療・介護の見える化が、単純に早期退院を促すツールに利用して欲しくない」と危惧を抱いている。

 

事務局のひとりごと

 

 「見える化」、「ビッグデータ」、など、流行りの用語が目につく。昨今はいろいろな場所で「見える化」にお目にかかることができる。ビッグデータなど、塩崎厚労相のコメントによれば、「50万人分くらいが世界的な常識」とのこと。個々のデータのビッグさだけでなく、扱うデータ量もビッグで恐れ入る。もはや65536行しか(?)ないExcelのシートでは集計不可能だ。もちろんExcelレベルのソフトで集計しているとも思えないが…。

 

 事故にあった車がどんな状況にあったかドライブレコーダーで分かる、運転中のアクセルの使い方で環境に負荷をかけない運転をしているかどうかが分かる、建物の中で現在の消費電力が分かる、宅急便で自分に届くはずの荷物が今どこにあるか分かる、朝学校に向かった子どもが何時に校門をとおり、寄り道せずに帰ってくるかGPS等を使ってすぐ分かる…、など、センシング技術や通信技術を駆使して、世の中はどんどん便利になってきた(あるいは窮屈になってきたのかも)。

 今や言葉としては定着してきたかに見えるDPC/PDPS(※1)も、思えば医療保険制度における「見える化」ではなかったか

 それまで「出来高払い」とされていた、医療機関による自己申告(エビデンスに基づくことが前提)請求は、医療機関ごとに異なる診療内容を同じ土俵で比較することが困難であった。メーカーごとにレセコンが異なるので、データの突合せができなかったことや、診療方針は医師が決定する、という考え方が今よりも当前と考えられていたことと、回りがそれに口出しできる状況にもなかったこと(比較対象となるデータがなかったので)など、「見えない」ことが、膨れ上がる社会保障給付費の問題にメスを入れあぐねさせていたDPC/PDPSの考え方は、ある意味、「コロンブスの卵」であった。医療機関ごとにデータが違っても、「レセプト(診療報酬明細書)」に使用するデータはほぼ同一のため、厚生労働省の決めた枠の中に、統一した状態で各医療機関ごとにデータ入力させ、さらにデータとして提出させる。もちろんデータを提出すれば「加算」というインセンティブを設定し、先進する考えの医療機関を従えさせたのだ。

 見える化できてしまえばあとは早かった。「この診療方針は他院と比較してコスト的に多くかかってしまいます」、「この症例で多くの数をこなしているこの病院をモデルにしながら診療方針を決定すれば、効率的に同じ治療結果を引き出せるのではないでしょうか。」便利なデータ分析ソフトも世に出てきた

 そして多くの医療機関が最大値を求めるようになれば、高い点数が算定できる25%タイル(入院日数のはじめの1/4)をインセンティブとして、必要な平均在院日数を短縮させたり、再入院が目立って多い医療機関(高い点数の状態で算定できることを繰り返しているように見える)を公聴会に呼び出したり…。

 

 経済活動において大変効果を発揮した「見える化」が医療にもたらした効果もまた大きい。DPC/PDPSがもたらしたものは、それまで医者にしか許されていなかった土俵に(あるいは医者の土俵は今でも厳然としてあるが)、医者だけでなくアドミニストレーターとでもいおうか、事務方が入っても許される別のフィールドを登場させたことにあるのではないか、と筆者は考えている医者は納得すると動きが早い。定性的な働き掛けでは動いてくれないことも多い。そこにエビデンスに基づいた定量的なデータ(同じ職業の医者が築き上げたデータ)が雄弁に示してくれるのだ。納得度はいや増したことだろう

 今度は都道府県別の入院医療費と介護費の分布データがターゲットか。厚生労働省は過去何度もこのデータを挙げて論点として提示してきたはずだが、ついにここにもメスが入っていくのだろうか。「見える化」がもたらすもの。それが本文にあった病院団体が懸念する「給付抑制」という視点だけでないことを願いたい。

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 「美しさは皮一枚、醜さは骨の髄まで」。20年前に読んだ「マーフィーの法則」という本で読んだ法則の1つを思い出した(必ずしもこの本題にマッチするものでないかもしれないが)。見える化が、見えなくても良かったことまで晒すことになるだけのものでなく、本来 光があたるべき場所を照らすツールとならんことを願う。


<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

 

(※1)……Diagnosis Procedure Combination: 診断群分類による
       Per Diem Payment System:包括払い制度

<WMN事務局>