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短信:「早期診断で差が出る認知症治療! 新薬の登場で変わる治療法。対象は軽症の認知症」

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新薬の登場で変わる認知症治療。対象は軽症の認知症

 2000年代以降、加速的に高齢化が進み、それに伴い認知症の患者数が急激に増加しています。高齢者の4人に1人は軽度認知症か認知症という時代、2017年には認知症ガイドラインが改正され、より早期の診断を目指すようになりました。「認知症の多くはアルツハイマー型で、全体の約7割にのぼります。アルツハイマー型認知症は脳にアミロイドβというたんぱく質のゴミが蓄積して、神経細胞が死滅し脳が委縮する病気です。」と総合東京病院、認知症疾病研究センターの長羽生春夫先生は話します。

 

新薬登場に期待。抗体を利用した薬が米で承認

 「現在アルツハイマー型認知症の治療薬は認知機能の低下を一時的に抑えるもので根本的な治療薬ではありません。しかし近年、免疫の働きを利用してアミロイドβを除去する薬の研究が盛んに行われ、日本でも乳がんの治療薬など実用化されているものが複数あります。「2021年6月、アルツハイマー型認知症の抗体医薬品の先駆けとなる、米バイオジェンとエーザイが開発したアデュカンヌマブが米FDAに認証されました。これにより、日本における新薬の登場に期待が持たれます」

 

アルツハイマー型認知症とは、40~50代から病気が始まる

 「アルツハイマー型認知症の原因とされるアミロイドβは発症の20~25年前から溜まり始めます。つまり、40~50代からアルツハイマー型認知症が始まっているということです。FDAで承認されたアデュカヌマブの対象は、MCIと軽度の認知症となっており、早期の段階におけるアミロイドβの除去に期待が持たれます。」

 

「前臨床期アルツハイマー病」に注目

 「ここ数年、MCIを診断し治療を行うことでアルツハイマー型認知症への移行や症状の進行を遅らせる方向へシフトしています。何も介入を行わなかった場合に比べて、早期に診断し治療を始めることで、

 認知機能や生活機能の低下を遅らせることは明確です。」さらに、その前の前臨床期アルツハイマー病が注目されています。

 「認知症の症状があらわれていなくても、病理変化が起こっている状態を前臨床期アルツハイマー病といい、アミロイドβの蓄積を調べる血液検査などの研究が行われています」

 

認知症の診断は問診、認知機能検査と画像診断が中心

 「認知症の診断は問診、認知機能検査などを行いますが、CTやMRIなど画像診断も医師の判断により行われます。その他、SPECT(脳の血流を調べる検査)や脳髄液検査が行われる場合もあります」早期診断及び治療を行うためには、認知症専門の外来を設けている設備の整った病院に相談するのが安心です。

 

MCI(軽度認知症)は専門医が複合的に診断

 MCIは認知症と正常とのグレーゾーンであることから、認知症を熟知した専門の医師による複合的な診断を受けることが大切です。

 「認知機能検査では、長谷川式評価スケールや1分間スクリーニング法などのいくつかのテストを行います。1分間スクリーニング法とは、例えば1分間に動物の名前をあげてもらい、13個以上いえないとMCIを疑います。また、画像検査ではCTやMRIの他、PETによる検査を行うことがあります。PETは、脳の中のアミロイドβの蓄積を可視化します」

 

薬の飲み忘れなど、少し前の忘れに気づく

 ちょっとした変化に気づくが、認知症の早期発見につながります。自立した生活ができないなど、家族が対応に困るほど認知症が進行する前に、医師の診断を受けることが大切です。

 「薬の飲み忘れが増えたなど、ちょっとした忘れを見逃さないようにしましょう。また段取りが悪くなった、意欲がなくなったなどが認知症の初期症状であることもあります。認知症は過去の記憶は確かでも少し前の出来事を忘れる特徴です。日常の動作ができていても認知症が進行している場合がありますので年齢のせいと思わず、専門外来へ相談しましょう。

 

認知症は生活習慣病とも密接に関わり、総合的な治療が望ましい

 「生活習慣病と認知症の関係は、以前から指摘せれていますが、近年の研究で糖尿病が認知症と深い関係にあることがわかっています。その理由はインスリン分解酵素の働きです。血糖値のコントロールは膵臓から分泌されるインスリンが行っています。役割を果たしたインスリンはインスリン分解酵素によって分解されますが、この酵素は実はアミロイドβも分解しています。血糖値があがり、インスリンの量が増えすぎてしまうと、アミロイドβの分解が追い付かず蓄積してしまいます。糖尿病など生活習慣病がある人は、その管理を行うことで認知症や進行のリスク低減につながります。」

 

 認知症の治療は、それだけの治療ではなく、その他の病気の影響も考慮して行います。検査設備が充実し、生活習慣病も管理が行える総合病院が望ましいかもしれません。

 

羽生 春夫(はにゅう はるお)先生(総合東京病院認知症疾患研究センター長)

お問い合わせ:合東京病院 認知症疾患研究センター

(もの忘れ外来)

東京都中野区江古田3-15-2

TEL 03-3387-5444(地域連携室直通)