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短信:国立高度専門医療研究センター6機関の連携事業により、食品摂取の多様性が将来の認知症発症を予防することを明らかにした。

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2023年3月10日

 

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター

 

 

 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長―:荒井秀典 所在地:愛知県大府市 以下、国立長寿医療研究センター)の研究グループは、国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中窯 斉 所在地:東京都中央区 以下、国立がん研究センター)の研究グループと共同で、女性では多様な食品の摂取は要介護認知症のリスク低下と関連することを明らかにしました。日本全国の地域住民を対象とし、中年期の食多様性が、将来の要介護認知症を予防することを初めて報告したもので、研究成果は専門誌「ClinicalNutrition」に発表されました(2023年3月1日WEB先行公開)。

 

 本研究は「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究(The Japan Pubulic Health Center (JPHC)(研究))(研究代表者 津金昌一郎、澤田典絵 国立がん研究センター)が対象とする全国11保健所管内にお住まいだった14万人の方(1990年、1993年当時40~69歳)のうち、食事や認知症(要介護認定情報:2016まで追跡)に関するデータがそろった8保健所管内の38,797人(45~74歳;男性17708人、女性21089人)の方を対象とし、食品摂取の多様性(以下、食多様性)と介護保険認定情報から把握した認知症(以下、認知症)との関連を調べました。この際、脳卒中発症を伴わない認知症発症についても、同様の検討を行いました。

 解析では、食事調査票アンケートの「133項目の食品・飲料(アルコールを除く)を1日に何種類接種しているのか」の得点(食多様性スコア)に基づき、対象者を5つのグループに分類し、その後、11.0年(中央値)の追跡期間中に発生した認知症(4302人、11.1%が発症)との関連を調べました。

 

 その結果、食多様性と認知症との関連では、女性では1日に摂取する食品の種類が最も少ないグループに比べて、最も多いグループで、認知症発症のリスクは33%低下していました。一方、男性では食多様性と認知症発生との関連はみられませんでした。また脳卒中発症を伴わない認知症発症についても検討しましたが、結果は変わらず、女性では有意な関連が保たれましたが、男性では関連性を認めませんでした。しかし、一人暮らしの男性に限って同様の検討を行うと、多様な食品の摂取が要介護認知症リスクを一部軽減しました。同居者がいる男性ではこのような関連は認められませんでした。

 

 今回の研究では、中高年期の女性において多様な種類の食品を摂取することが将来の認知症を予防する可能性と、男性では独居者で同様の結果が示されました。

 食多様性が高い人では、様々な栄養素の摂取状況が好ましいため、多様な食品の摂取により脳内の栄養状態が良くなり、認知症発症が予防された可能性が考えられます。ただし、これらの関連は女性でのみ、男性では独居者でのみ一部認められました。男女差を説明する一因として、男女の食関連行動の違いが影響している可能性が考えられました。日本人高齢者を対象とした研究では、女性は同居者の有無に関わらず食事の準備を行っている傾向がありますが、男性は独居の場合は食事の準備をしても、同居者がいる場合は食事の準備をしない傾向が報告されています。本研究では、食事の準備に関するデータは収集していないため推測の域を出ませんが、食多様性の高い食事をとるための食行動(例えば料理をする、献立を考える)が認知機能の維持、ひいては認知症発症を予防したことが推察されました。

 

 認知症は加齢とともに発症率が高くなりますので、後期高齢者の増加に伴い、認知症有病者の更なる増加が懸念されています。現在のところ、根治治療薬はなく、その予防や発症遅延、共生社会の構築に力が注がれています。本研究は、認知症発症リスクを少しでも低下させる上で、いろいろな食品を食べることや食多様性の高い食事をとるための食行動は効果的である可能性が示されました。

(以上)