ラット睡眠中に脳髄液を送る繊毛の動きを鈍らせ、神経毒性を強めることがわかる
[nature「Scientific reports」掲載]
その神経毒性作用がアルツハイマー病を引き起こすと考えられている「アミロイドβ」。
アミロイドβはラット睡眠中に脳髄液を送る繊毛の動きを鈍らせ、結果的にアミロイドβ自身の神経毒性を強めることを発見。
金沢工業大学の研究チーム
「アミロイドβ」は神経毒性作用を持ちアルツハイマー病を引き起こす要因の一つと考えられています。このアミロイドβが睡眠中の脳髄液を送り繊毛の動きを鈍らせ、同時にアミロイドβ自身の神経毒性を増悪させることを金沢工業大学の辰巳仁史教授の研究チームが解明し、シュプリンガー・ネイチャー社の科学雑誌「Scientific reports」(Published: 21 August 2023)に掲載されました。
[執筆者]
■牧畠亮太さん
金沢工業大学大学院バイオ・化学専攻修士課程卒業生(当時修士課程2年生)
■尾田空さん
金沢工業大学大学院バイオ・化学専攻修士課程卒業生(当時修士課程2年生)
■矢木圭輝さん
金沢工業大学大学院バイオ・化学専攻修士課程卒業生(当時修士課程2年生)
■金沢工業大学応用バイオ学科 辰巳仁史教授
[研究の概要]
アルツハイマー病は、脳の神経細胞の広範で、選択的な死滅、シナプスおよび神経回路の劣化を特徴としている。アルツハイマー病の脳では、神経毒性を示すアミロイドβの濃度が認知機能の正常な高齢者よりも高く、アミロイドβによる神経毒性作用がアルツハイマー病を引き起こす原因の一つと考えられている。
「脈絡叢」は脳室に脳脊髄液を分泌している。脳室は上衣細胞で覆われ繊毛で覆われており、その表面は運動性の繊毛で覆われている。脳脊髄液の流れは、繊毛の振動と脳室への脳脊髄液分泌によって部分的に駆動される。
脳由来のアミロイドβは脳せき髄液中に輸送されるが、脈絡叢の上皮細胞をアルツハイマー病マウスの脳に移植したところ、脳内のアミロイドβ沈着が有意に減少したことから、脈絡叢がアミロイドβ浄化システムに関与していることが最近の研究から示唆されている。
そこで辰巳教授の研究チームは、ラットから上衣繊毛と神経細胞を含む脳壁を摘出し培養し、脳室上衣にある繊毛の運動を測定する実験系を構築。アミロイドβの繊毛の振動への作用と、繊毛運動による流れがアミロイドβのニューロンへの毒性作用に与える影響という2つの視点から研究を行った。
この実験を通して以下のことがわかった。
・研究チームでは、繊毛の振動周波数を測定する高速イメージングシステムを構築。という新生ラットの脳室壁における上衣繊毛の振動周波数の概日リズムを連続9日間にわたって観察したところ、上位繊毛の振動周波数は毎日、ラットの睡眠中である正午にピークに達し、活動中の深夜に減少するという周期的なパターンがあることがわかった。
・これに対して、アミロイドβにより、繊毛振動のピーク周波数は睡眠中の正午に厳守することが判明しました。また、アミロイドβ自身の浄化システムの機能を抑制していることが示唆された。
・アミロイドβは、摘出培養の繊毛のない側の神経細胞に神経毒性を示したが、繊毛の或る側の神経細胞では、神経毒性はあまり認められなかった。
・これらの実験により、神経細胞を繊毛の振動によって誘導される流体の流れ、あるいは人工的に生成された流れに曝すと、アミロイドβの神経毒性作用が減弱すること、一方、アミロイドβが、繊毛振動の概日リズムに影響を与え、アミロイドβ自身の神経毒性作用が増強することがわかった。(一部割愛)
*髄液流の概日リズムが覚醒・睡眠パターンに影響を及ぼす可能性がある。この可能性を認めた場合、アルツハイマーモデル動物やアルツハイマー患者の睡眠パターン障害の原因の一つとしてアミロイドβの繊毛振動への抑制作用が考えられる。今のところ、脳脊髄液排出量の概日リズムについて、概日リズムの細胞的/分子的メカニズムは解明されていない。
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