様々な疾患の原因となる老化細胞のセノリシスワクチンによる除去
老化細胞と加齢関連疾患
人の身体は細胞から構成されており、その数270種類、37兆個に上る。多くの細胞は分裂を繰り返し古い細胞は代謝される。これが生命維持の基本的仕組みである。しかし細胞分裂の回数にはヘイフリック限界と呼ばれる上限があり、人の細胞の分裂限界は50回と言われている。人に寿命があるのはこのためである。人が生きていく中で受けるストレスや加齢により分裂限界を迎えた細胞は代謝されることなくそこに居座り続ける場合がり、これが老化細胞である。細胞分裂の回数に上限があるのは、細胞のがん化を抑制するための仕組みであると考えられているが、一方で老化細胞からは炎症を引き起こす物質が分泌され、周囲の元気な細胞を傷つけ老化を早めることが分かっている。人が年齢を重ねるとこの老化細胞が蓄積し、様々な病気を引き起こすといわれている。動脈硬化、心血管疾患、骨粗しょう症、糖尿病、白内障、アルツハイマー型認知症などなど、老化細胞との関連が疑われる疾患には枚挙にいとまがない。
セノリシスワクチンによる老化細胞除去
最近この老化細胞に着目し、蓄積した老化細胞を除去することで、加齢関連疾患における病的な老化形質を改善する方法が研究されている。この老化細胞を除去する手法は、「セノリシス」と呼ばれており、これまでにも数々の老化細胞除去薬が研究されてきた。ただ、薬剤においては目的の老化細胞だけでなく除去すべきでない細胞までも除去することによる副作用が課題であった。そのなかで、順天堂大学大学院医学研究科循環器内科南野徹教授の研究グループは、老化細胞除去ワクチンの開発に成功した。この研究では老化したヒト血管内皮細胞を実験対象として、遺伝子情報を網羅的に解析。そこから得られた候補から、GPNMBという分子が細胞老化のマーカーとなる「老化抗原」であることを突き止めた。薬剤ではなくこの老化抗原を狙い撃ちするワクチンの使用により、老化細胞のみを選択的に除去することが可能となる。
人生100年時代。超高齢社会を迎えた日本において、広く加齢関連疾患を根本治療する医療技術の開発は社会的意義が大きい。
老化細胞除去ワクチンを開発し加齢関連疾患の治療に役立てる – Juntendo Research