- 兵法 -
賃上げムードで盛り上がっていた所にトランプ大統領から冷や水を浴びせられ日本経済の雲行きが怪しくなってきた。コロナ禍が漸く終わるも経済再開が出遅れた影響でエネルギー高を始め食料品の上昇でちっとも生活環境が改善されない。少し前の話になるが、2024年の1~8月の日本のエンゲル係数が42年振りに家計支出の28%に到達したらしいが、昨年8月単体で見ると31%に上昇していたので今頃は軽く30%オーバーになっているかもしれない。
一方、対照的なのが不況と言われているお隣中国だ。今年の2月でエンゲル係数は28.2%と、改革開放当初の半分に迄低下してきている。この差は何かと考えると物価高を解消出来ない税制に原因があるのか、何故ガソリン代に補助金を出して米には補助金を出さないのだろう。世界でも有数の無借金国家なのにどうも納得がいかない。
ゴールデンウィーク(GW)前に東京都のビジネスホテル平均客室単価が¥42,000だと云う新聞記事を見たが、世の中の変化のスピードは速い。市場調査によると、今年のGW予算の平均価格¥29,237をADR(average daily rate)で割ると1.52泊(24年は1.65泊)なのでホテルに泊まれる日数が前年を下回る予想だそうだ。デフレ経済からやっと脱却出来たかと思いきや、急激な宿泊価格上昇についていけない人が多いから庶民にとってはやむを得ないのかもしれない。
それでもホテル業界は相変わらず旺盛なインバウンド需要に支えられ今年は昨年比16%up、関西万博で賑わう大阪に至っては35%upとなっている。ついこの前迄コロナ禍で市場がへばって¥10,000以下のラグジュアリーホテルが出ていたかと思えば、たった5年で5倍以上に跳ね上がっている。四半世紀前なら¥60,000-/泊と言えば外資系ホテルが本格的に日本に上陸してウェスティン東京、パークハイアット東京、フォーシーズンズホテル椿山荘東京が新御三家といわれた頃のラックレートだ。ビジネスホテルでも¥5,000以下で十分泊まれた時代だ。
一泊¥5,000という感覚が脳裏に染みついているもんだから、今でも¥10,000以上というのは高い。¥8,000程度なら仕方ないな?と渋々泊まるという感覚だ。然し、こんなに宿泊料金を吊り上げて良いものかと疑問が残る。誰かがダイナミックプライシングは悪ではないと言ったもんだから、根拠無しに足元を見て価格を吊り上げまくっている様にも映る。日本には毎年必ず地震、台風等の自然災害が襲ってくるし、最近の傾向ではコロナ始め、サーズ、マーズを含めると、パンデミックも10年に1度の割合で発生しているのに。その時になったらまたボロが出るだろう。それにしても宿探しが本当に難しい世の中になってきた。
2024年の日本全体の旅行消費額は33.3兆円で、国内旅行者の延べ宿泊数は6億5千人泊。その内の75%は日本人でインバウンドが25%を占めている。日本人の平均宿泊消費額¥14,905/人に対してインバウンド平均宿泊消費額は¥73,000/人、10年前の2015年は日本人¥13,900/人、インバウンド¥51,300/人と、それぞれ日本人1.07倍、インバウンド1.4倍となっており、日本人の宿泊費に対する消費額は7%しかこの10年で伸びていない。となると、一般庶民にとってはこれ位の宿泊費が限界という事ではないだろうか?
どうも不動産業界と金融機関がタイアップすると吊り上がった価格が下がらない。円安を享受しているインバウンドに取っては割安だろうが、日本人にとってはまるでバブル期の地上げ屋に追い出されるのと同じで、金がないなら泊まるなと言われている様なものだ。そういえば隣の国も似た事するよね? 弱い者からはパンダを取り上げて、貿易戦争している相手には去年パンダを2頭プレゼントしているんだから。かつて聞いたことのある「強気を助け弱気を挫く」フレーズが世界で復活しており与党政権はしっかり足元を見られているのが良く解る。それでも宿泊需要の75%は日本人なのだから日本人を優遇する政策をホテル業界には期待したい。
これ等のDataを見る限りでは決して生活は楽になっていないのだが、トランプ大統領の関税政策で益々生活が厳しくなるなんて指をくわえて見ている場合ではない。日本も既に貿易赤字国に陥っているのだから対米貿易赤字改善にばかり協力してはいられない。更に拡大する自国の貿易赤字を今後如何に改善して行くのかを真剣に考えて行かねばツケが跳ね返ってきて益々我々の生活が更に厳しくなる。既に米中貿易戦争状態になっているアメリカは保護貿易政策を敷いて自国に自動車や半導体等の製造業を呼び寄せてモノづくり国家に転換するつもりだろうが、何せアメリカと中国の賃金格差は6:1なので人件費の高いアメリカがどうやってコストを下げて行くのか世界の興味を引くところ所である。
関税障壁は産業転換する迄の繋ぎとして有効であるが、MAGA(Make America Great Again)を達成するには輸出拡大で貿易赤字を解消するのであり、1985年のプラザ合意迄は至らずとも為替のドル安は避けられないというところか?
それ以外にどうやってコストを下げるのかお手並み拝見という所なのだが、過去に前例があった。17世紀にドラスティックに変貌と遂げた産業革命前のイギリスだ。当時東インド会社を経営していたイギリスには紅茶、砂糖等、アジアから様々な商品が持ち込まれた。その中にインド製の綿織物「キャラコ」というのがあり毛織物産業が盛んであった頃、イギリス人は綿織物の薄さ、軽さに驚き瞬く間に大ヒット商品をなった。毛織物産業は大打撃を受けキャラコ禁止法が制定される迄に需要が高まった。
然しこうなると国内で安い綿製品を作れたら、売れるんじゃないかと考える人が出て来るのは世の常である。イギリスでは技術革新が進み水力紡績機、力織機等が開発され大量生産が可能となり、生産性合理化で単位当たり労働コストを1/6も下げて家内工業のインドキャラコを凌ぐ迄になった結果、イギリス製綿布(ランカシャー綿布)は逆にインドに輸出される様になりパックスブリタニカの先駆けとなっている。
相互関税を発令してから直ぐに90日間の猶予期間を与える等、多少弱気な面も垣間見え世界中の投資家にも困惑が見え隠れする。アメリカの中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)は過去のデータに基づいて政策金利を設定しているが、異次元の世界に突入して前例がないので政策が打てないのか、投資家もトランプ政権と各国の貿易交渉の成り行きを見守るしかない状態なのでビジネスの方も右に行くか左に行くのかを予測するのが困難になってきた。
それでもアメリカが関税障壁まで作って貿易赤字を解消してMAGAを達成するという事は需要旺盛な自動車産業や半導体産業で産業革命期のイギリスと同じ事をやろうとしているのではないかと推測できる。それを夢見ているんだろうね?
ここの大統領は。
対する日本はといえば、大臣は関税交渉にアメリカへ、与党政権は中国へと東奔西走状態だ。パンダ交渉している間にも尖閣諸島近辺へ領海・領空侵犯され中国にもやられっぱなしだ。最近解ったんだけど、人民解放軍の将校が書いた論文によると、彼らは「孫氏の兵法」を実践しているらしい。詰まり、戦わずして勝つという事は、戦火は交えていないが、既に戦争状態に入っているという事だ。そう考えると確かに、海産物交渉も合意はしたけど輸入は再開されていないし、勝手に領海内にブイを仕掛けて情報収集されるわ、おまけにパンダは取り上げられる有様だ。日本の政治家も国益の為なら海外に対してもう少し狡猾であっても良いんじゃないかな?
政府が奨励している中国人移民も2024年末には過去最高の84万人に、中国人留学生も9万人に達しており、コンビニ、居酒屋のバイトは中国人が多い。中国では留学手続きエージェントも出現し書類偽造をしてくれるらしい。また、東大8000万円、国立大2000万円、早慶上智600万円と言う保証金が相場になっている様だ。その甲斐あってか東大では中国人留学生が全体の12.5%で、大学院至っては5人に1人が中国人になっている。最近中国からの海外技能実習生が減ったかと思えばこっちに鞍替えしていたんだね。奨学金制度を使えば渡航旅費、生活費から学費迄全て国費で賄ってくれる素晴らしい留学生天国だ。流石に世界で初めて人海戦術を編み出した中国だけあってスケールがデカすぎて平凡な日本人にはついていけない。30年後の日本には中国共産党傀儡政党や企業で中国人上司が多数輩出されているかもしれない。でも、政府が大切にすべきは日本国民の方だろ!
2023年のインバウンド世界ランキングではフランスが1位で遂に1億人を突破、2位スペイン8520万人、3位アメリカ6650万人で日本は14位の2506万人。観光収入は1位アメリカ27兆3500億円、2位スペイン14兆3000億円、3位イギリス11兆5000億円、日本10位5兆3000億とコロナ後足踏みが続いている。2024年の世界ランキングは未発表であるが、日本のインバウンド数は3687万人、消費額は8兆1395億円に達し、インバウンド数では上位国に遠く及ばないが、消費額に於いては上位達成も射程距離圏内に入ってきた。
然しながら、経済不況と言われるものの恐るべし中国比率は、インバウンド数が698万人(構成比18.9%)で2位、消費額は1位で1兆7335億円(同21.3%)、一人当たり消費額では27.7万円と2位台湾の1.5倍だ。孫氏の兵法で攻撃してくる中国と今度反日政権がたち上がる韓国を併せると、インバウンド数で全体の42%、消費額で33%と危険水域に達している。こんな薄氷を踏むような体制で自動車産業に次ぐ外貨獲得産業と言えるのか。大阪万博に次ぐ国際会議やイベントを多数開催出来る様な基盤作りを地道に進め、一国に頼らず世界中から満遍なくインバウンド招致をする為の策を講じて欲しいものだ。日本に似た産業構造になっている観光立国1位のフランスを研究するのも一つかもしれない。
先日、共に日米同盟の深化に尽力されたリチャード・アーミテージ元米国副国務長官とジョセフ・ナイハーバード大学名誉教授が相次いで亡くなった事も日本にとっては痛手になる。有志国取引を重視するトランプ外交を面と向かって批半する人物が米国に不在となった事で外交の選択肢が限られてきた。最近は航空機産業にも関税を掛けると言い出したが、ボーイングとエアバスで世界シェア60%を握っている産業に関税を掛けると世界中で飛行機が飛ばなくなる事が解らないのかな? でも、其処から世界シェアのマジョリティを取ってしまえば、ぐうの音も出なくなるっていう事も見えてきた。
タブーである米国債を売却せずしてドル高誘導する方策を講じる事も課題の一つだ。いっそのこと、原子力潜水艦でも購入したらどうなんだろう。
一石三鳥じゃない?