「アルギン酸ナトリウムを主成分とする国内初軟骨修復材の開発に成功
~関節軟骨損傷に対する新たな治療法を実現~
関節軟骨は、交通事故やスポーツなどで一度損傷を受けると自然に修復されにくいことが知られており、外科的な治療に至る場合が多くある。膝関節において、半月板は繊維軟骨、関節軟骨は硝子軟骨と種類が異なる。線維軟骨は硝子軟骨よりも固く、強度が高い軟骨組織である。日本整形外科学会によると、2020年には半月板損傷に対して実施される外科的処置である関節鏡下半月板切除術が13,285例行われた。また既存の主な外科的治療法には、骨髄刺激法(軟骨欠損部位に小さな穴をあけ、骨髄から出血を促して硝子軟骨ではなく線維軟骨で組織を修復する)、自家骨軟骨柱移植術(正常な関節軟骨を移動させる術式)および自家培養軟骨移植法(関節軟骨の一部を採取し、4週間かけて培養した3次元培養シートを欠損部に移植)がある。しかし、これらの治療法は、侵襲性、修復軟骨の強度・耐久性、医療費といった面でそれぞれ課題があり、改善が求められていた。
北海道大学は都内の製薬会社と共同で、低エンドトキシン化高純度アルギン酸ナトリウムを主成分とする新しい軟骨修復材「dMD-001」を開発した。アルギン酸ナトリウムは海藻に含まれる多糖類の一種で食物繊維の一つであるため生体に優しい構造である。この物質は、塩化カルシウムと反応することでゲル化(個体に近い状態)し、関節軟骨の欠損部に留まる性質を持っている。このdMD-001よって、膝または肘の関節軟骨損傷(変形性関節症を除く外傷性軟骨欠損症または離断性骨軟骨炎)の修復補助による臨床症状の緩和が実現した。
臨床試験では、膝および肘の関節軟骨損傷部に骨髄刺激法による処置後dMD-001を施した治療法の安全性および有効性に関する試験が実施された。dMD-001を用いた群ではdMD-001に関連した有害事象及び不具合は認められず、痛みや症状などの改善が報告された。これらの結果をもって、dMD-001は2025年7月に国内初の軟骨を修復する医療機器として承認を取得された。この成果は関節疾患を抱える多くの患者にとって新たな治療の選択肢として期待されると共に、ゲル化する特徴や生体適合性の高さから再生医療分野での応用も広がる可能性が期待される。
アルギン酸ナトリウムを主成分とする国内初軟骨修復材の開発に成功~関節軟骨損傷に対する新たな治療法を実現~(産学共同実用化開発事業(NexTEP)の成果)|トピックス|国立研究開発法人 科学技術振興機構