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短信:若年層で発症する侵襲性歯周炎の原因遺伝子を世界ではじめて明らかに

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若年層で発症する侵襲性歯周炎の原因遺伝子を世界ではじめて明らかに

 

 歯周病とむし歯は、歯科の2大疾患といわれており、成人期において歯を失う原因の大半を占める。厚生労働省によると、歯周病は歯と歯肉の隙間(歯周ポケット)から侵入した細菌が、歯肉に炎症を引き起こした状態(歯肉炎)、それに加えて歯を支える骨(歯槽骨)を溶かしてグラグラにさせてしまう状態(歯周炎)を合わせたものだと定義されている。一般に認知されている「歯周病」というのは慢性歯周炎がほとんどである。一方、侵襲性歯周炎とは、10代あるいは20代で発症し、急速かつ重度な歯周組織の破壊をおこす疾患である。以前は、若年性歯周炎ともよばれており、早ければ小児期に発症することもある。症状は通常の歯周病とほとんど同じだが、通常の歯周病と異なる症状として侵襲性歯周炎は、歯垢の付着量や全身の健康状態に関係なく歯周組織が急速に破壊される。歯を喪失した結果、義歯の装着を余儀なくされることもあり、QOLに大きな影響を及ぼすこともある。その発症は同一家系内に複数の患者が存在する例もあることから、遺伝的な要素が関与していると考えられてきた。しかし、これまで本疾患の原因遺伝子は特定されておらず、病態の解明も十分に進んでいなかった。侵襲性歯周炎の治療は、病態が進行してからの治療介入には限界があることから、早期治療の実施や遺伝子診断に基づく予防医療の確立が、現在の歯科医療において重要な課題となっている。

 水野智仁(広島大学大学院医系科学研究科歯周病態学 教授)、岩田倫幸(同助教)らの研究グループ、吉本哲也(広島大学病院口腔先端治療開発学 特命助教)らの研究グループ、岡田賢(広島大学大学院医系科学研究科小児科学 教授)、溝口洋子(同准教授)、津村弥来(同研究員)らの研究グループ、川上秀史(広島大学原爆放射線医科学研究所 名誉教授)らの研究グループ、大西秀典(岐阜大学大学院医学研究科小児科学 教授)らの研究グループ、金兼弘和(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科発生発達病態学分野 寄附講座教授)らの研究グループは、遺伝性の侵襲性歯周炎の原因遺伝子が「MMD2」であることを世界で初めて特定した。この研究では、同一家系の患者3人を対象に全エクソーム解析(遺伝子の重要部分を網羅的に調べる手法)とプロテオミクス解析(体内のタンパク質を網羅的に調べる手法)を実施した。その結果、MMD2遺伝子に共通の変異が見つかり、別家系でも異なる変異が確認された。MMD2は免疫細胞の一種である好中球で特に働く遺伝子であり、変異があると細菌に向かう遊走能力が低下し、感染防御機能が弱まることが判明した。さらに、患者と同じ変異を持つノックインマウスを作成し歯周炎を発症させたところ、歯槽骨の破壊が著しく、好中球の集積不足や細菌の増加が確認された。これら一連の結果から、MMD2は侵襲性歯周炎の原因遺伝子であり、その機能解析を進めることで、病態のさらなる解明に貢献できることが示された。

 侵襲性歯周炎は、可能な限り早期に確定診断を行い、速やかに治療を開始することが重要である。本研究を契機として原因の究明が進めば、将来的には遺伝子学的検査に基づく発症リスクの評価が可能となり、それに基づいた予防医療の実現へと繋がることが期待できる。

 本研究成果は、2025年7月16日(水)に「Journal of Experimental Medicine」で公開された。

 

【研究成果】若年層で発症する侵襲性歯周炎の原因遺伝子を世界ではじめて明らかに | 広島大学

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