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ホテルリネン業界のつぶやき

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 - 無為自然 -

 

 みなさま、はじめまして。

 抱一と名乗らせていただきます。思いがけず当コーナーの一端を担うことになりましたが、残念ながら四桁以上の数字がどうにもこうにも苦手なので、そちらは他のかたにお譲りして、私らしく少々思想が強めの文章を人と物のお力を借りて書き上げましたので、お読みいただければ幸いです。

 

 さて、記憶にはもう遥か遠い青少年時代に道家三書や武経七書、史記のような中国古書を好んできた私が何か物事を考えるとき、今となれば無意識のうちに基礎となっている言葉があります。

 

 「取らんと欲する者は、先ず与えよ。」

 

 これは、何かを得たいと願うならば、まず自分から相手に何かを提供し、奉仕する必要があるという考え方です。わが子たちにも伝えているこの言葉は、紀元前6世紀頃、中国春秋戦国時代の思想家・老子の著書『道徳経』に記されています。

 

 その老子はこうも言います。

 

 「道は常に無為にして、而も為さざる無し」

 (道は何もしていないように見えて、すべてを成している)

 

 この言葉は、私が様々なホテル・旅館に関わる日々の経験や、携わる人々の思いと重ね合わせて共感したことでもあります。

 

 リネンは宿泊者の目に留まることは少ないものの、肌に直接触れる最も繊細なサービスです。その清潔さ、質感、香り、配置、それらはすべて、“与える”ことの積み重ねであり、宿泊者の体験を陰ながら支えています。

 

 たとえば営業時代に取引させていただいた熊本・黒川温泉の高級旅館「竹ふえ」では、全室離れの客室に高品質なアメニティが備えられ、肌触りや香りにまでこだわったリネンが、宿泊者の五感に訴える“静かな贅沢”を演出しています。

 特に寝具用については、拙案であるイタリアの老舗リネンブランド「フレッテ」製のシーツやデュベカバーが採用されており、ベッドに足を滑り込ませた瞬間、極上の肌触りに包まれる、そんな体験そのものが“おもてなし”として設計されました。

 

 そして「無為自然」。

 何もしていないように見えて、すべてが整っているという思想であり、リネンサプライの仕事も、声高に語らずとも深く伝わる“気づかれない価値”を届けているのだと、日々実感しています。

 

 私たちが扱っているリネンは、ホテルにおいて宿泊者の肌に直接触れる、最も繊細なサービスのひとつです。その品質や状態は、宿泊者の安心感や満足度に直結しています。

 

 それゆえに、ホテルの信頼はみなさまの手によって静かに支えられているのです。

 目立たず、語らず、しかし確かに価値を届ける。それが、私たちの仕事の本質なのかもしれません。

 

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 このコラムを書いてみて、私自身にとっての仕事の意味と価値を言語化し再認識するきっかけになりました。お読みいただいた方にも何かのお役に立てたならば嬉しく思います。

<了>