「影のない画像」でアミロイドーシスを鮮明に診断
アミロイドーシスとは、アミロイドと呼ばれるナイロンに似た線維状の異常蛋白質が全身の様々な臓器に沈着し、機能障害をおこす病気の総称である。複数の臓器にアミロイドが沈着する全身性のもの(全身性アミロイドーシス)と、ある臓器に限定してアミロイドが沈着する限局性のもの(限局性アミロイドーシス)に分けられる。全身性アミロイドーシスの代表的なものとして免疫グロブリン性アミロイドーシスや野生型トランスサイレチンアミロイドーシス、遺伝性トランスサイレチンが挙げられ、この三つは指定難病となっている。限局性アミロイドーシスとしては、アルツハイマー病や脳アミロイドアンギオパチー、プリオン病などの脳アミロイドーシスが代表的である。特に、アルツハイマー病の患者数は脳アミロイドーシスの過半数を占めており、国内に約500万人存在するとされている。この病気の症状としては、全身性アミロイドーシスにおいては心不全や不整脈などの心臓の障害、胃腸や神経障害が、アルツハイマー病では認知症の症状がみられ、早期かつ正確な診断が求められる。この疾患の病理診断は約50年の間、Congo Red染色を用いた病理標本を偏光顕微鏡下で観察し、「アップルグリーンの複屈折」と呼ばれる色彩の観察が“ゴールデンスタンダード”とされてきた。診断の決め手としては、緑がかった光の見え方が最も信頼される基準とされていたが、実際の臨床現場では色だけでなくオレンジや赤などの色彩も観察されることが多く、色だけを基準にすることに疑問が持たれるようになった。
このため2024年アミロイドーシス学会によりアミロイドーシスの診断基準は「特徴的な複屈折の観察」に修正され、複屈折そのものの定量を観察する方針に改定された。複屈折の定量観察には複屈折顕微鏡という特別な装置が必要であるが、この装置は使い方が難しく広く臨床現場へ導入することは困難であった。また従来の偏光顕微鏡を観察に用いた場合、「偏光シャドウ」という影ができてしまい、一部の病変が見えなくなり正確な診断ができないという問題があった。
埼玉医科大学(学長 竹内 勤)の 若山 俊隆 教授(保健医療学部・臨床工学科)、横内 峻 院生、茅野 秀一 教授(保健医療学部長)と宇都宮大学(学長 池田 宰)の 東口 武史 教授(工学部・基盤工学科)らは、共同でアミロイドーシスの病理診断をより鮮明にする技術を開発した。具体的には、従来の生物顕微鏡に偏向素子を追加し、回転角を変えて撮影した複数画像を解析する画像処理法(二重回転消光子法)である。この技術では従来の複屈折分布と95%以上の相関を有し、これまでの目視診断よりも高精度で定量的な観察が可能となった。更にこの観察法は既存の顕微鏡と無料の画像解析ソフトを活用できるため、現行の病理診断環境に簡便に導入でき、全国の病理検査室への普及も期待される。
この成果は2025年8月7日号のScientific Reports誌(Nature Publishing group)に掲載された。