西日本豪雨災害の被災者に見るアレルギー性鼻炎の増加
近年では世界中でアレルギー性鼻炎の有病率が急速に増加し、特にその発症が低年齢化していることが示唆されており、重要な健康および社会問題として浮上している。厚生労働省によると、日本国内のアレルギー性鼻炎の患者数は国民の約4割を占めるとされている。アレルギー性鼻炎には、スギ花粉やヒノキ花粉などが原因となり毎年同じ季節に起こる季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)とハウスダストなどが原因となり季節に関係なく年間通して起こる通年性アレルギー性鼻炎の2つに大別される。また自然災害もアレルギー性鼻炎を含むアレルギー疾患に影響を及ぼすとも考えられているが、大規模なデータを用いた詳細な研究は試されていなかった。
広島大学大学院医系科学研究科 分子内科学 小西花恵、岩本博志准教授、服部登教授、地域医療システム学 松本正俊教授、大学病院総合内科・総合診療科 吉田秀平助教、広島大学大学院医系科学研究科 救急集中治療医学 大下慎一郎准教授、広島大学大学院 耳鼻咽喉科学・頭頸部外科学 竹野幸夫教授、竹本 浩太助教らは、2018年の西日本豪雨災害の被災者が、非被災者と比較して点鼻薬の処方数が被災後に有意に増加し、その影響は1年間持続したことを明らかにした。本研究は厚生労働省より許可を得て、西日本豪雨災害により大きな被害を受けた3県(広島県、岡山県、愛媛県)の医療レセプト(診療報酬明細書)データを用いて、アレルギー性鼻炎の治療薬である点鼻薬の処方数の変化を、災害前後(それぞれ1年間)で評価した。本研究の対象となった6,176,299人のうち36,076人が自治体から被災者と認定されており、被災者における点鼻薬の処方は、被災後1年間にわたり非被災者と比較して増加していた。特にスギ・ヒノキ花粉の飛散期である2〜4月にその傾向が強く現れた。そして、被災した人では、年齢や性別に関係なく災害後に点鼻薬を処方された割合が非被災者よりも多いことも判明した。このことから、自然災害がアレルギー性鼻炎の発症や悪化を招く可能性が示唆された。
地球温暖化により自然災害が増加している今日において、自然災害とアレルギー疾患との関連についての知見は重要である。また豪雨災害発生時には、カビへの曝露や汚染物質、心理的ストレスなど、アレルギー発症のリスク因子を適格に把握し、アレルギー性鼻炎の発症・悪化を念頭に診療や対策を行う必要がある。さらに今回の研究により、被災者では花粉症シーズンにおいて、花粉の影響に加えて被災の影響が上乗せされることが明らかとなった。これは被災者の長期的健康管理において有用な知見であるとともに、複数の環境因子が重なった際のアレルギー性鼻炎の病態解明にもつながると考えられる。
本研究成果は世界アレルギー機構(WAO)の医学雑誌「World Allergy Organization Journal」に掲載された。
【研究成果】西日本豪雨災害の被災者においてアレルギー性鼻炎が増加していたことが判明しました。 ~災害によるアレルギー疾患への影響解明に向けて~ | 広島大学