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短信:表情でうつリスクを早期発見

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表情でうつリスクを早期発見

 

 厚生労働省によると令和4年において、精神疾患を有する総患者数は約419.3万人いると報告されている。入院患者数は過去15年間で減少傾向にあるが、外来患者数は増加傾向にある。疾病別にみると、躁うつを含む気分・感情障害が15年前と比較して約1.8倍、神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害が約1.7 倍と増加割合が顕著である。近年増加傾向にあるうつ病患者は、ポジティブな表情(笑顔など)が減少し、表情全体の豊かさも乏しいことが報告されてきた。これらの反応は、社会的拒絶を避けるための防御的行動と考えられている。一方でうつ病の診断基準を満たさないものの、抑うつ症状の一部が認められる「サブスレッショルドうつ」と呼ばれる状態にも注目が集まっている。この状態は、臨床的な診断には至らないものの、日常生活や社会的機能に影響を及ぼす可能性があり、精神的健康の観点からも見過ごすことのできない重要な課題である。従来の研究ではサブスレッショルドうつにおける表情変化は十分に検証されていなかった。

 早稲田大学人間科学学術院の杉森絵里子准教授らの研究グループは、うつ病の前駆状態とされる「サブスレッショルドうつ(うつ病予備群)」における表情の変化について、64名の日本人大学生の自己紹介動画を用いて検証した。本研究では、BDI-IIといわれる「今どれくらい気分が落ち込んでいるか」や「日常生活でどれくらいやる気が出ないか」など、うつ症状の程度をはかるアンケート形式のテストに基づいて、健常群とサブスレッショルドうつ群に分類し、両群における自己紹介動画を対象に、他者からの印象評価およびAIツール(OpenFace 2.0)による表情筋分析を行った。その結果、サブスレッショルドうつ群では表情の「豊かさ」「自然さ」「親しみやすさ」「好感度」のスコアが有意に低い傾向にあることが判明した。さらに、不安・悲しみ・困惑を表す内側眉上げや、驚き・緊張・覚醒といった感情を表す上まぶた上げ等の表情筋肉の動きは、無意識に現れる微細な表情であり、無意識に心の状態を表しているが、この表情筋活動にも両群間に明確な差が認められた。

 

 本成果は、精神疾患の早期発見や予防的介入に貢献するツールとして、学校・職場などでのメンタルヘルス支援への活用が期待される。本研究は日本人大学生を対象として実施されたもので、他文化や他年齢層へ一般化されることで、自撮り動画と簡易ツールの組合せにより、日常的・非侵襲的に心の状態を可視化する手段に発展することが期待される。

 

表情でうつリスクを早期発見 – 早稲田大学 研究活動

https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000940708.pdf