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短信:重要アレルゲンをゲノム編集により除去した鶏卵の基本性状および加工特性を確認

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重要アレルゲンをゲノム編集により除去した鶏卵の基本性状および加工特性を確認

 

 厚生労働省によると、日本で小児期に最も多い食物アレルギーは鶏卵によるものであり、牛乳・大豆・米・小麦を加えて五大アレルギーといわれている。平成9年度厚生省食物アレルギー対策検討委員会の調査によると3歳児において、食物アレルゲンの割合の62%を卵と牛乳が占めており、世界的課題となっている。鶏卵アレルゲンの中でも、卵白中のたんぱく質であるオボムコイドは熱安定性が非常に高く、加熱等の処理を経てもそのアレルゲン性が維持される特徴がある。さらに、加工処理を施したとしてもオボムコイドを完全除去することは困難であった。一方、オボムコイド以外のアレルゲンは、熱や消化酵素を用いた加工処理によって不活性化させ、アレルゲン性を排除することができる。そのため、オボムコイドを含まない鶏卵を生産できれば、アレルゲン性が極めて低い鶏卵由来加工食品を生産することができると考えられてきた。近年、ゲノム編集技術を用いた遺伝子ノックアウトにより、鶏卵からオボムコイドを除去できることが報告されてきたが、ゲノム編集により生じる可能性がある副産物やゲノム編集ツールの標的以外のゲノムへの影響は十分に解析されていなかった。

 東京農業大学の小山 翔大助教、辻井 良政教授、半田 明弘客員教授、広島大学大学院の堀内 浩幸教授、松崎 芽衣助教、江﨑 僚特任助教の研究チームなどはゲノム編集によりオボムコイドノックアウトニワトリを作成し、ON卵の基本性状、タンパク質組成および加工特性についての調査及び、オボムコイドの欠損による鶏卵品質への影響についての検討を行った。結果、このニワトリによって作出されたオボムコイド欠損卵(ON卵)は、オボムコイドが欠損していることを除いて、通常卵と比較してほぼ同等の基本性状および加工特性を示すことを確認した。基本性状については、外観、pH、タンパク質、固形分量等の基本性状はON卵と通常卵でおおむね同等であることが示された。また、卵白タンパク質の性状について、ON卵ではオボアルブミン、オボトランスフェリンおよびリゾチームなど他の主要タンパク質がオボムコイドの欠損による総タンパク質量の減少を補うように増加していることが明らかになった。さらに、卵白のゲル化(液体が個体に近い状態に変わる現象)性についてはオボアルブミン等の増加によるゲルの硬さの増加は認められましたが、そのほか弾力性にかかわる評価項目やゲルの微細構造に顕著な差異は認められなかった。そして、卵白の起泡性や全卵マヨネーズの性状にも顕著な差異は認められなかったため、ON卵のタンパク質組成の変化は限定的であり、通常卵と比較して十分な加工特性を備えていることが明らかとなった。

 この研究は、卵に対してアレルギー症状を示す人やその家族が、卵そのものや洋菓子などの加工品を利用できる可能性を提供するとともに、ゲノム編集食品に関する新たな知見を提示するものとなった。今後は、ゲノム編集により作出されたオボムコイド欠損ニワトリの卵を「アレルギー低減卵」として実用化に向けて、さらに鶏種や個体数を増やし、同様に基本特性や加工特性に問題がないか検証を進めていく。

 

【研究成果】鶏卵の主要なアレルギー原因物質(アレルゲン)をゲノム編集(Platinum TALEN)により除去し、その安全性を確認 | 広島大学

 

https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-08.pdf