食道がんに対する腫瘍溶解ウイルス製剤の医薬品製造販売承認申請(岡山大学)
がんは1981 年以来、日本人の死亡原因の第1位を占めており、国民の健康と安全を脅かしている。国立がん研究センターによると2021年において、食道がんと診断される件数は26,075例に及び、罹患数は増加傾向にある。食道がんが発生する主な要因は、喫煙と飲酒であり、特に扁平上皮がんは、喫煙と飲酒との強い関連があるとされている。治療法は化学療法や放射線治療、手術などがあるが、高齢者等標準治療が適用できない患者の選択肢となる治療法の開発が待ち望まれていた。
岡山大学学術研究院医歯薬学域 消化器外科学分野の藤原俊義教授、黒田新士准教授らの研究グループが食道がんに対して開発を進めてきた腫瘍溶解ウイルス製剤「テロメライシン」を、岡山大学発バイオベンチャーが厚生労働省に医薬品製造販売承認申請を行った。「テロメライシン」は、風邪ウイルスの一種であるアデノウイルスのE1領域に、多くのがん細胞で活性が上昇しているテロメラーゼという酵素のプロモーターを遺伝子改変によって組込み、がん細胞中で特異的に増殖してがん細胞を破壊することができるようにしたウイルス製剤である。また、放射線と併用効果があることが基礎研究で証明されており、感染したがん細胞を殺傷するとともに放射線に対する感受性を増強することが明らかとなっている。
岡山大学で開発されたテロメライシンの臨床試験は、2006年から米国食品医薬品局(FDA)の承認のもと、米国での安全性を確認する第I相臨床試験から始まった。その後、基礎研究でテロメライシンが放射線治療の効果を強める現象が明らかとなり、2013年からは岡山大学で外科手術や抗がん剤治療などの標準治療ができない食道がん患者にテロメライシンと放射線治療を併用する臨床研究を実施した。また2017年からは、岡山大学と国立がん研究センター東病院で同様のプロトコールで岡山大学発バイオベンチャーが第I相企業治験を行い、2020年からは岡山大学病院を含む食道がん治療のハイボリュームセンター(全国17施設)での多施設共同で第II相企業治験が実施された。その結果、約半数の患者で局所の食道がんが消失(臨床的完全寛解)するという高い有効性が確認された。
本製品は、2019年に独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)による迅速審査が受けられる「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定されており、今回、PMDAと検討を重ね第II相臨床試験での有効性が確認されたことから、厚生労働省に医薬品製造販売承認申請が行われた。
テロメライシンは、大学からの創薬シーズが市場に出るという社会的なインパクトだけではなく、低侵襲で優しい治療薬として食道がんの患者にとっても大きな福音となり、これから拡大していく高齢化社会において国民の健康増進や医療経済の節減にも役立つと期待される。現在、米国ではテロメライシンと免疫療法を併用する試験も進んでおり、今回の食道がんに対する申請を突破口に、その他の様々ながんへの適応を拡大していく予定である。
厚生労働省に標準治療が難しい食道がんに対する腫瘍溶解ウイルス製剤「テロメライシン」の医薬品製造販売承認申請を実施 – 国立大学法人 岡山大学