PM2.5に含まれる”スズ”がスギ花粉症を悪化させる可能性
厚生労働省の健康日本21によるとPM2.5とは、大気汚染の一つで、大気中に浮遊する粒の大きさが2.5µm以下の微小粒子状物質のことを指す。草や木・化石燃料などの燃焼によって発生し、たばこの煙も典型的なPM2.5である。PM2.5は非常に小さな粒子であるため、肺の奥深くまで入り込みやすく、肺をはじめ全身の炎症を引き起こす。そのためPM2.5の濃度が高い地域では、呼吸器・循環器疾患による死亡率が高いことが明らかとなっている。近年、大気汚染物質がスギ花粉症に悪影響を及ぼすことが疑われているが、科学的な解明は十分に進んでいない。日本国内で有病率が50%を超え、「国民病」とも言われるスギ花粉症とPM2.5等の大気汚染物質との関係を解明することは、日本人の健康課題を解決する上で極めて重要な鍵となる。
名古屋大学大学院医学系研究科 環境労働衛生学のデルガマ ニシャディ 大学院生(共同筆頭著者)、田崎啓 講師(共同筆頭著者)、加藤昌志 教授(責任著者)らの研究グループは、福井大学および名古屋市立大学との共同研究により、PM2.5に含まれるスズ(Sn)が、スギ花粉症などのアレルギー性鼻炎の症状を悪化させる可能性があることを明らかにした。本研究成果は、大気汚染物質であるスズがアレルギー性鼻炎を増悪させる可能性を示した初めての報告である。
本研究チームは、スギ花粉症患者 44 名と健常者 57 名を対象に、鼻腔洗浄液および血清中のスズ濃度を測定したところ、飛散期の花粉症患者の鼻腔内スズ濃度は、健常者に比べて 3~4倍高く、鼻腔内スズ濃度が花粉症の症状と有意に関連することが判明した。次に、患者と推定同等量のスズをアレルギー性鼻炎モデルマウスの鼻腔に点鼻投与したところ、アレルギー症状は有意に増悪した。これらのことから、大気汚染物質であるスズ曝露がスギ花粉症を増悪させる可能性が初めて示された。さらに、研究チームはスズを PM2.5 に類似したエアロゾルに含ませてモデルマウスに吸入させた。その結果、アレルギー性鼻炎モデルマウスで、スズの鼻腔内蓄積が 2~3倍に増加した一方で、肺への沈着は 30~40%低減 することがわかった。このことにより、アレルギー性鼻炎の個体ではPM2.5が鼻腔に捕捉され、肺に到達しにくいことが示された。この現象の要因として、アレルギー性鼻炎モデルマウスでは鼻腔の粘液であるムチンが増加したことが挙げられる。そして、解析の結果、スズの67%が鼻腔内でムチンと同じ場所に存在しており、スズ曝露でムチン産生がさらに増強することが判明した。つまり、アレルギー性鼻炎の個体がスズに曝露すると「スギ花粉症等のアレルギー性鼻炎発症→粘液過多→鼻腔内におけるスズ滞留→症状のさらなる悪化」という悪循環に陥るのである。
本成果は、大気汚染物質とアレルギー性鼻炎を、より直接的に関係づけるものであり、今後、アレルギー性鼻炎の病態解明といった医学的意義にとどまらず、大気汚染のリスク評価・環境基準値策定の基礎データとしての環境学的意義にも貢献が期待できる。さらに、アレルギー性鼻炎に焦点を当てた大気汚染の健康リスクの再評価を介した環境政策への応用も期待される。
本研究成果は、2025年12月2日付で国際学術雑誌 Allergy にオンライン掲載された。
PM2.5に含まれる”スズ”がスギ花粉症を悪化させる可能性― 環境汚染とアレルギーの新たな関係 ― – 名古屋大学研究成果情報
PM2.5と受動喫煙 | 生活習慣病などの情報(e-ヘルスネット) | 健康日本21アクション支援システム Webサイト