- 疎と密 -
4月に気象庁は、最高気温が40℃を超える日を「酷暑日」と定めました。従来の区分では最高気温が35℃を超える日の「猛暑日」が限界でした。限界を超える極端な暑さになる日が増えていますが、皆さんはこの酷暑をどのように過ごしていらっしゃいますか。
筆者は駅から徒歩15分の通勤路をネッククーラーと日傘の二刀流でなんとか凌いでいる日々です。
申し遅れましたが、今回はじめて寄稿をいたしますT_Tと申します。入社3年目の若輩者ではありますが、どうぞよろしくお願いします。
この「酷暑日」のように、これまでの常識を超える変化は、我々がかかわるホテル業界でも起きています。
最も身近な例が、日中の客室利用=デイユースではないでしょうか。
数年前のコロナ禍によりリモートワークが急激に拡大しました。当時の私は学生で、自宅でオンライン授業を受けていましたが、家族がビジネスホテルのデイユースプランを使用していたことが何度かあったと記憶しています。
当時に比べるとリモートワークの需要は減りましたが、現在でも継続して魅力的なデイユースプランを提供しているのが、ビジネスホテル大手のアパホテルです。
アパホテルは11時~17時まで滞在できるプランなどを現在も提案しており、大浴場のあるホテルでは、15時頃から入浴が可能です。出張先でパソコンを広げたり、旅行先で小休止をしたりと、現代の多様なニーズに応える選択肢になっているのではないかと想像します。
500室規模の店舗で、1日50室程度のデイユース利用も多々あります。同社は稼働率を公表していませんが、この店舗では稼働率が100%を超えることも珍しくないようです。
我々ホテルリネンの現場では、定数-館内で使用する最大枚数-と、日々の納品枚数などを元に在庫を管理しますが、デイユースの存在で定数そのものが変わります。日々の予約状況だけでなく、デイユースの稼働状況まで把握しておく必要性が生まれているのです。
なお、ビジネスホテルは和製英語で、英語ではLimited Service Hotel-限られたサービスのホテル-と呼びます。業界誌『HOTERES』では「宿泊主体型」と分類し、対極の存在として「フルサービス型」があります。
ここで、同誌が発表した東京のADR(1室あたりの平均販売単価)とRevPAR(全ての部屋から計算した1室あたりの売上)の前年比データを見てみましょう。
・フルサービス型
ADR :対前年比 マイナス5.2ポイント
RevPAR :対前年比 マイナス7.6ポイント
・宿泊主体型
ADR :対前年比 プラス6.8ポイント
RevPAR :対前年比 プラス7.1ポイント
フルサービス型と比較し、宿泊主体型は着実に単価を上げている傾向にあります。中でもアパホテルはRevPARを追求し、需要に応じて1日に最大6回も価格を変動させるダイナミックプライシングを採用しています。ダイナミックプライシングとは、価格を需要と供給に応じて変動させる価格戦略です。単価が固定の鉄道と単価が変動する飛行機に置き換えるとわかりやすいかもしれません。
単に満室を目指すのでは無く、RevPARの最大化を目指すからこそ、利益率36%という驚異的な数値を叩き出しています。
そんなアパホテルと真逆の価格戦略を取っているのが、東横INNです。
同社のHPで大々的に掲げられている「原則ワンプライス」は、「客室料金を頻繁に変動させない東横INNの価格ポリシーです。宿泊ニーズが集中するハイシーズンには通常の2-3倍の価格で販売し、空室が多ければ値下げする-このような販売の仕方が宿泊業界では主流になりつつあります。一方、東横INNは年間を通じて大幅な価格差を設けず、また、日々、時間によって料金を変動させることはしません。特別日を除き、公式サイトの提示価格は、平日・日曜ワンプライス、土曜・休前日ワンプライス の安定価格です。」
旅費規程内で宿泊先を決める際、東横INNのワンプライスに安心感を持っている方も多いのではないでしょうか。個人的には、標準サービスとして朝食ビュッフェが提供されているのもありがたいです。
また同チェーンの特徴として、女性従業員が多いことが知られています。特に「支配人の98%が女性」というのが驚きです。
東京・蒲田に第1号店を構える際に創業者の西田氏が、飲食店を畳もうとしている知り合いの女性を支配人に登用したことからこの社風が生まれたといわれています。女性が多いから、というのはやや短絡的ですが、このように安定したリピート顧客を追求しているといえるのが東横INNではないでしょうか。
批評家の福尾匠は著書『置き配的』で、コロナ禍以降の社会を「置き配化」したと評しています。国土交通省は、2025年の11月に「置き配や宅配ボックスへの配送を、宅配便の標準サービスに位置づけることを決め」ました。Amazonで注文した商品が、自分が在宅しているか否かに関係なく置き配され、配達員からの写真によって配達が完了したことになる。実際に物を受け取るのではなく、物が置いてある写真というメタデータによって配達が確定しているということです。本書は、メタデータのみでコミュニケーションが成り立つ空間を「密」、対してメタデータのみでは成り立たない空間を「疎」と定義しています。
これを両社の戦術に当てはめてみるとどうでしょうか。
数字と効率を極限まで追求する「密の戦略」なアパホテルと、価値の変動を無くしユーザーに安心感を提供する「疎の戦略」な東横INNといった印象を持ちます。
念のため申し上げますが、もちろんこれはビジネスモデルの性質の違いで、良し悪しの話ではありません。
翻って、我々の日々の業務では、軒先渡しや商品の統一化など「置き配的」な方法を進めていくことが求められています。しかし、これが成立するのはお客様からの信頼、安心感があってこそではないでしょうか。困ったときに声をかけてもらえる存在になるには、常に安心感を与えていることが必要となります。筆者個人といたしましても、お客様には「ワタキューセイモアなら/この人なら安心だ」という疎の安定感を感じていただきつつ、当社の利益やお客様の課題解決に向け密な提案を行える、そんな疎と密あわせ持つ人材を目指し、日々精進してまいりたいと考えております。
いささか脱線もありましたが、今回はこのあたりで終わりにします。
酷暑が続きます。皆様くれぐれもご自愛ください。
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