変形性関節症の遺伝子座を962カ所発見
日本整形外科学会によると、変形性関節症とは機械的刺激による関節軟骨の変性、消耗が生じ、滑膜に炎症が起こることだと定義している。この変形性関節症は、膝関節、股関節、脊椎をはじめ、全身のあらゆる関節を侵し、痛みなどのために患者の生活の質(QOL: Quality of Life)、健康寿命、生命予後(生存の見通し)に大きな影響を与えるため、要介護となる最大の原因となっている。病理学上の特徴は関節軟骨の変性だが、その発症の詳細は不明である。現在は、遺伝要因と環境要因の総合的な作用により発症する多因子遺伝病であると考えられている。変形性関節症は骨・関節疾患の中で最も頻度が高く、患者数は世界的に急速に増加している。世界で3億人以上、国内でも1000万人以上が罹患している。厚生労働省の平成26年(2014年)患者調査(傷病分類編)によると、1987年から27年の間に患者数は約3倍になっており、整形外科疾患の中で最も患者数が増加している。そして、患者数は社会の高齢化とともにさらに増加して、2050年までには世界で10億人に達すると推定されている。このように変形性関節症の患者数の増加による社会的・経済的負担は甚大だが、有効な治療薬はまだ見つかっていない。
理化学研究所(理研)生命医科学研究センター ゲノム解析応用研究チームの寺尾知可史 チームディレクター(静岡県立総合病院 臨床研究部免疫研究部長、静岡県立大学 薬学部 ゲノム病態解析分野 特任教授)、池川 志郎 客員主管研究員、島根大学 医学部 整形外科学講座の内尾 祐司 教授、順天堂大学 大学院医学研究科 整形外科・運動器医学の石島 旨章 主任教授らの共同研究グループは、変形性関節症のゲノム解析のための国際コンソーシアム(GOコンソーシアム)に参画した。アジア人(主に日本人)の解析を行い、変形性関節症の原因となる可能性が高い700の遺伝子の特定に貢献した。GOコンソーシアムでは、過去に各国にて独立で収集された変形性関節症のGWASデータ(ゲノムワイド関連解析)を収集している。今回、87のコホートにおける1,962,069人(変形性関節症患者:489,975人、非患者:1,472,094人)のGWASデータを吟味、統合し、メタ解析を行った。その結果、962カ所の独立した変形性関節症に相関する疾患感受性多型を同定した。そのうち513カ所はこれまで見つかっていなかった新しい遺伝子多型であった。同定された962カ所の変形性関節症に相関する遺伝子多型は、計286カ所のゲノム上の領域にあり、このうち176カ所は今回初めて発見された。更に詳細な解析を経て、700のユニークなエフェクター遺伝子(変形性関節症の原因となる可能性が高い遺伝子)が同定され、69の創薬ターゲットタンパク質とこれをターゲットにする473個の承認済み薬剤を特定した。
この成果は科学雑誌『Nature』オンライン版(4月9日付)に掲載され、今後、人類の大きな課題となっている変形性関節症の原因、病態の解明、治療法の開発、予防に関する医学研究の基盤になると考えられる。