◇「内閣府、「難病・希少疾病治療グローバル研究開発支援事業」難病・希少疾病の治療薬開発を対象に、スタートアップなどへ国際治験の資金補助」から読みとれるもの
・2025年度補正予算で「難病・希少疾病治療グローバル研究開発支援事業」120億円計上
・背景に日本で開発が始まらない「ドラッグ・ロス」の増加
・研究開発から臨床、産業化までを横断的に議論する内閣府「創薬・先端医療WG」
■2025年度補正予算で「難病・希少疾病治療グローバル研究開発支援事業」として120億円計上
内閣府は2026年度から、ドラッグ・ラグおよびドラッグ・ロスの解消に向け、難病や希少疾患を対象とした医薬品や再生医療等製品を開発する国内スタートアップや中堅製薬企業などを支援する新規事業を立ち上げる。日本を含む国際共同治験の実施を後押しするもので、2025年度補正予算では「難病・希少疾病治療グローバル研究開発支援事業」として120億円が計上された。
難病・希少疾病に対する医薬品等は、採算性の観点から、製薬企業及び投資家の投資対象とならず、 スタートアップを含めた研究開発企業が研究開発資金を十分確保できない。研究開発は、社会的意義が高い一方で、国内の患者のみを対象としていては、患者数及び採算性から研究開発が困難である。そこで、海外の患者も潜在的な対象として捉えることで、事業予見性を高め、革新的治療の実用化を加速するため、日本主導の国際共同治験を支援する。
具体的には、AMED(日本医療研究開発機構)に基金を設け、スタートアップ企業等による申請者と共同申請者 (国内CRO・医療機関・患者会等)が開発している医薬品等について日本を含む国際共同治験を支援。日本を含む国際共同治験に必要な経費の一部をマイルストーン型で補助する。内閣府は、2026年度予算(当初予算)案にも同事業に5億円を要求しており、同事業でスタートアップや中堅製薬企業が実施する国際共同治験の費用を補助する。 (図4 難病・希少疾病治療グローバル研究開発支援)
■内閣府「創薬・先端医療ワーキンググループ(WG)」が創薬力強化と先端医療産業化を国家戦略として推進
なぜ国際共同治験支援が必要なのか。その背景として、日本では、海外で承認されているにもかかわらず、日本で開発が始まらない「ドラッグ・ロス」が増加。2023年時点で米国・EUで承認済みの未承認薬のうち86品目(60.1%)が日本で開発未着手とされ、特にスタートアップ起源、希少疾患、小児領域の薬剤が多い。(図5 ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの実態)
さらに希少疾患では患者数が限られるため、国際共同治験に参加できないと承認が大幅に遅れる。新薬開発の主役が大手からバイオベンチャーやスタートアップに移行しているが、日本企業は資金・国際治験ネットワークの面で不利。その結果、日本発の希少疾患治療薬が国際開発に乗り遅れるケースが増えている。
日本経済の成長を実現するため、官邸主導の経済政策会議「日本成長戦略会議」が2025年11月、高市早苗首相の下で新たに設置された。同会議は政府の成長戦略を具体化する「司令塔」として、17の戦略分野と8つの横断課題の検討を進めており、創薬・先端医療は17分野の一つとして明確に位置づけられている。さらに、この創薬・先端医療分野の検討を加速するため、昨年12月には内閣府の健康・医療戦略推進本部に「創薬・先端医療ワーキンググループ(WG)」が新設され、1月21日に第1回会合が開かれた。
「創薬・先端医療ワーキンググループ(WG)」は、創薬力の強化と先端医療の産業化を国家戦略として推進するために新設された会議体であり、研究開発から臨床、産業化までを横断的に議論する。日本の創薬・再生医療分野は研究力の高さが評価される一方、実用化・事業化の遅れが長年の課題とされてきた。今回のWGは、その構造的なボトルネックに切り込む政策議論の起点となる。
第1回会合では、日本の創薬・先端医療の現状について、①研究力は高いが「実装」までの距離が長い(基礎研究の成果は豊富だが、橋渡し研究や治験環境、製造(CMC)など、実用化に不可欠な領域が脆弱で、国際競争力を削いでいる)。②臨床開発のボトルネック(治験の実施体制の弱さ、国際共同治験への参加の難しさ、PMDA審査の迅速化・国際調和の課題、データ基盤(RWD・ゲノム情報)の不足)。③ベンチャー投資・製造基盤の不足(細胞治療・遺伝子治療などの先端医療では、製造プロセスの確立とスケールアップが不可欠だが、国内ではインフラ・人材ともに不足している)が指摘された。
WGでは、政府が今後強化すべき政策の方向性として、次の3点が示された。①官民ファンド・VCとの連携による投資強化 — 基礎研究から橋渡し研究に加え、治験支援や国際共同治験の促進など、臨床開発段階への支援を拡充する。②製造基盤(CMC)の整備 — 細胞加工施設や遺伝子ベクター製造、品質管理の標準化など、産業化に直結するインフラ整備を国家的に進める。③データ基盤の構築 — ゲノム情報、RWD、AI解析を組み合わせた「創薬DX」を国家戦略として推進する。またWGは、2026年4月に「ドラッグラグ・ドラッグロス問題の解消に向けた官民投資ロードマップ(案)」を取りまとめる予定である。
2026年度から開始される「難病・希少疾病治療グローバル研究開発支援事業」は、日本の創薬スタートアップや製薬企業が国際共同治験に取り組みやすくするための、国家的な大型支援プログラムである。希少疾病領域で世界と同時に治験を進めることで、日本発の新薬を世界へ、世界の新薬を日本へと届ける双方向のアクセス改善を図る、極めて戦略的な施策と位置づけられる。

創薬ベンチャーの、創薬にかける熱意には、心から敬意を表したい。
一個人として、それは偽りのない思いである。
では、読者諸氏が会社経営層であったとして、
「創薬ベンチャーへの出資を検討したい」
と、案件が持ち上がってきたらどのように判断するだろうか。
難病患者を救うという崇高な理念に対する敬意は変わらないが、その当該会社の創薬成功の確率はどれだけ高いのか、失敗はしないのか、副作用で薬品被害が起こったりしないか、いくらかかるのか、何年かかるのか…etc. 疑問は尽きない。
故に、おそらく答えも出ない。いや、出せない。
そんな確度の高い案件の話が我が社に回ってくるわけもない…。
そんな案件に億単位の金を出せだと?!
話だけは丁寧に、一度は聞いた。
従って、この案件は「見送り」だ。見送って正解という可能性だけは相当高い。
見送った方がはるかに「無難」であり、おおよそ間違いない。
こんな思考ロジックになってしまうのではないか。
これも、ベンチャー投資・製造基盤の不足と指摘されている背景の一つだろうが、仮に、その投資に対する説明を聞いたとして、会社の代表は「超乗り気」で、周囲は諫めるのに必死、などというケースがあったとしても、おそらく殆どの人が諫める周囲の方に共感してしまうに違いない。
創薬ベンチャーに投資するということは、殆ど「信じる覚悟」と「賭け」に近い。監査役が存在する企業で、仮にそのような「賭け」に近い投資案件に「Go!」という経営判断が行われようとする時、監査役はいったい、どうするのか。再考を促すに違いない。筆者にはそう思えてしまう。
それくらい、創薬という行為がどれだけ厳しいことなのか、これまでに何度か触れている。いわゆる「魔の川・死の谷・ダーウィンの海」だ。新商品・技術の社会実装でも同じことなのかもしれないが、こと医療技術に関してだけに、ひときわ高い「孤高」を感じてしまう。
今回は、内閣府による「難病・希少疾病治療グローバル研究開発支援事業」、難病・希少疾病の治療薬開発を対象に、スタートアップなどへ国際治験の資金補助を行おうとするのがテーマだ。
企業が出さないならまず国が。その意気込みは非常に意義のある戦略なのかもしれない。
まずはこんなコメントから。
○希少疾患に悩む患者(または家族)
「国内では治験が少なく、参加できる可能性が極めて限られている。海外では新しい薬が承認されているのに、日本では使えないという状況は本当に苦しい。国際共同治験が増えれば希望が広がる一方で、情報提供やサポート体制がもっと整ってほしいと感じている。」
切実な願いである。
続いて政治家のコメントを。
○政治家:患者さんのためだけでなく、科学技術立国としての再興にもつながる重要な取り組み
自民党科学技術・イノベーション戦略調査会事務局長の塩崎彰久衆院議員(元厚生労働政務官)は、「難病・希少疾病の治療薬開発は、患者数の制約から企業単独では進みにくい領域です。国際共同治験の推進やスタートアップ支援を通じて、基礎研究から実用化まで切れ目なく後押しすることが不可欠。日本の科学技術力が相対的に低下する中で、創薬分野の研究開発を強化することは、患者さんのためだけでなく、科学技術立国としての再興にもつながる重要な取り組みだと考えている」などとコメント。
そうなんです。企業単独ではとても進みにくい。
失敗していい、チャレンジしていい。
そんな青春漫画のように、簡単にはいかないのです。
しかし、そのような状況は世界各国変わらないはずだろうに、
「日本の科学技術力が相対的に低下する中」
という表現だ。
ということは、日本人の、(個人はともかく)組織としてのチャレンジングスピリットは、もしかしたら、海外に後れを取っているのかもしれない。
ミラノ・コルティナ2026オリンピックの結果を見る限り、日本人のチャレンジングスピリットが世界に後れを取っているなどとは、到底思えないので。
慎重派が多いだけなのか?
○厚労省官僚:日本が国際治験を主導できる体制を整えることは、創薬力強化の観点からも極めて重要
内山博之内閣府健康・医療戦略推進事務局長(当時:厚労省大臣官房医薬産業振興・医療情報審議官)は2025年5月13日 厚生労働委員会で、難病・希少疾病の治療薬開発に対する国際治験支援について、「難病・希少疾病の治療薬開発は、患者数の制約から民間企業だけでは研究開発が進みにくい領域である。国際共同治験支援は、革新的なシーズを持つスタートアップを含む企業が、世界の患者を対象に開発を進められるよう後押しするものである。日本が国際治験を主導できる体制を整えることは、創薬力強化の観点からも極めて重要であり、医療データの利活用やDXの推進とあわせ、政府全体で創薬エコシステムの強化に取り組んでいきたい」と述べた。
先月号でも「条件・期限付き承認を受けた再生医療等製品の“新たな算定ルール”」をテーマとして採り上げたが、あちらは厚労省管轄で、さらにすでに有望と目されている製品で、なおかつパーキンソン病とか、糖尿病とか、がんとか、心疾患とか、ある意味メジャーな病気に対する領域だ。なので研究者も、そして投資しようとする企業があってもおかしくない。ハイリスクだがハイリターンも期待できると考えられるからだ。
一方で、こちらは内閣府所管、難病・希少疾患の領域だ。ハイリスクで、リターンはグローバルであることが前提条件で、望むことは可能だろう。必要性は理解されつつも、投資対効果という意味では、一企業の熱量と決意だけで挑むのは相当難しい。世界の最先端を行く、というのは孤高であり、崇高であることは理解するところではあるのだが。
難しい中でも、こんなコメントだ。
○日本成長戦略会議メンバー
「日本経済の成長には、官民がリスクを共有しながら戦略的に投資を進めることが不可欠。成長戦略会議では、投資の予見可能性を高め、企業が中長期の視点で挑戦できる環境づくりを重視している。」(会田卓司氏 クレディ・アグリコル証券 チーフエコノミスト)
「潜在成長率を引き上げるには、生産性向上とイノベーション創出が鍵になる。データに基づく政策立案を徹底し、効果の高い分野に重点的に資源を配分することが重要。」(片岡剛士氏 PwCチーフエコノミスト)
「創薬・先端医療は国民の健康に直結し、同時に日本の経済成長を支える重要分野。原薬や原料の供給が特定国に偏る現状を踏まえ、健康医療安全保障の観点からも官民による大胆な投資が必要。研究開発の成果を確実に患者へ届ける体制を構築していきたい。」(小野田紀美 科学技術担当相)
官民がリスク共有
生産性向上とイノベーション創出
官民による大胆な投資
なるほど、確かにその通りだ。
創薬メーカーのコメントだ。
【中堅の製薬企業視点(ドラッグ・ロス解消)】
「海外で承認されているにもかかわらず、日本では開発が進まない“ドラッグ・ロス”が深刻化している。国際共同治験の支援は、日本企業が海外と同時に開発を進めるための実効的な仕組みであり、国内患者へのアクセス改善につながると期待している。」
「日本の創薬力を再生するには、創薬力の復活、国内製造力の強靱化、人材基盤の強化という3本柱を、単なる施策の寄せ集めではなく、法的根拠を持つ国家戦略として位置づける必要がある。制度の裏付けがあれば、官民の継続的・戦略的投資が可能となり、GDP5兆円以上の貢献も期待できる。」
【スタートアップ視点(資金面の壁の突破) 】
「難病・希少疾病の領域では、国内患者数だけでは治験規模を確保できず、国際共同治験は不可欠。しかし、海外同時開発には莫大な費用がかかり、スタートアップにとって最大の参入障壁だった。今回の資金補助は、私たちのような新興企業が世界を視野に入れた開発戦略を描くうえで大きな後押しになる。」
【技術起点の創薬ベンチャー視点(日本発技術の世界展開)】
「日本発の基盤技術を世界の患者に届けるには、早期から国際治験を組み込んだ開発が不可欠。今回の支援により、海外患者を対象とした治験設計や規制当局との相談が現実的になり、事業予見性が大きく高まる。」
この事業に対し、手放しで歓迎している意見が多いように感じる。
医業系コンサルタントのコメントだ。
○医業系コンサルタント:ドラッグ・ロス解消と国内アクセス改善
「希少疾病薬の“ドラッグ・ロス”は、患者数の少なさや採算性の問題から国内開発が進まない構造的課題である。国際治験支援は、日本企業が海外と同時に開発を進める後押しとなり、国内患者へのアクセス改善につながる実効性の高い施策と評価できる。」
「難病・希少疾病の国際治験は、国内患者数だけでは成立しにくい領域。今回の資金補助は創薬企業だけでなく、治験を受け入れる医療機関の体制強化にも波及効果が期待される。国際基準のデータ品質や治験運営能力が求められるため、医療機関の治験インフラ整備が進む契機になる。」
こちらも歓迎ムードだ。
これほど歓迎ムードを感じるのは、今までにない「極めて戦略的」な取り組みであることの証左だろう。
笛吹けど踊らず
なんてことには絶対になるまい。
<ワタキューメディカルニュース事務局>

