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No.595 多発する高齢運転者による重大事故。 改正道交法で75歳以上運転者に認知機能検査を義務化

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■75歳以上の運転者を対象に認知機能検査が義務化

 高齢運転者による死亡事故に至る重大事故が多発している。中には認知症で治療中の者が運転する乗用車が、多数の車両が絡む事故を引き起こした例や、事故後に認知症と診断される場合も少なくない。全国指定自動車教習所連合会によると、運転免許保有者10万人当たりの交通事故死亡事項件数において、65歳以上の高齢者によるものは16~24歳の若者に次いで多い

 

 現行の改正道路交通法は2009年6月1日に施行され、「75歳以上の高齢運転者に対する免許更新時の講習予備検査(認知機能検査)を実施」という内容が追加された。今回の2017年3月12日施行される改正道路交通法では、75歳以上の運転者を対象に認知機能検査が義務化され、逆走や信号無視など18項目に違反すれば原則として、臨時の認知機能検査が義務付けられる規定が盛り込まれる。新設される臨時認知機能検査で「第1分類」(記憶力・判断力低下で認知症のおそれがある者)と判定された受検者に対して公安委員会は臨時適性検査(専門家による診断)を行うか、医師の診断書の提出を命じることができる。医師の診断で認知症と判定された場合、免許の取消または停止等の処分が下される(図1 高齢運転者対策の推進について:奈良県警HPより))。

 

 

 その対象者は、年約1000人から5万人にまで急増すると見込まれる第1分類と判断される5万人以上が医療機関を受診することになるが、認知症治療に携わる医師の間では、果たして現行の認知症診療で対応することが可能か危惧する声が多い。

 

■認知症専門医に診断依頼が集中することに懸念

 改正道路交通法施行まで数カ月となっても制度の詳細が明らかになっていないことから、日本認知症学会は2016年12月初めに開催した学会学術集会で、大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学精神医学講座の池田 学教授が、学会として認知症専門医が改正道交法に対応するためのQ&A集を発行する方針を明らかにした。

 

 改正道交法では、免許更新時に第1分類と判断された全員が、免許交付後に臨時適正検査の受検、あるいは医師の診断書の提出が求められることになるが、2014年に第1分類と判定された高齢者は5万3082人で、その中で臨時適正検査を受けた者は1236人。この数字から推計すると、今回の道交法改正によって運転免許に関連して認知症診断を必要とする高齢者は40倍以上に急増とするとみられる。診断する医師は認知症専門医に限らず、認知症に関わる主治医でも良いとされているが、池田氏は「診断書にはかなり詳細な記載が求められ、とても対応できないという声がかかりつけ医からあがっている専門医に免許更新に関する診断依頼が集中する。果たして対応できるか今から心配だ」と、懸念を示している。

 実際の診断に当たっても、①認知機能障害が軽度の場合が少なくない、②活発な周辺症状を示す事例が少ない、③家族が認知症との視点で本人をみていない、④本人自身が診療に前向きではないなどの理由で免許更新に伴う事例では医学的判断が困難な場合が少なくない-と問題点を指摘する認知症専門医が多い。

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関係者のコメント

 

<高齢者ドライバーを抱える家族の声:「いつ死亡事故を起こすか心配」>

 80歳を超えたら免許を返上するよう説得しているが、「免許更新時に検査を受け、合格だった。慎重に運転しているので大丈夫」と聞き入れてくれない。実は先日、ホームセンターに買い物に行った際、駐車場で軽い接触事故を起こし、その場で相手にお金を払って示談で済ませたようだ。いつ横浜市のように死亡事故を起こすか心配でたまらない。

 

<認知症患者による鉄道事故などへの公的救済制度は見送り>

 警察庁など関係省庁連絡会議は2016年12月13日、認知症の人が徘徊中に起こした鉄道事故などに対する公的救済制度の創設を見送った。2007年に愛知県で発生した鉄道事故の訴訟をきっかけに、「認知症の人と家族の会」が国に要望していたものだが、連絡会議では「救済範囲や財源などを含めた議論が必要で、直ちに制度化は難しい」との理由から、制度創設を見送った。これに対して、「認知症の人と家族の会」は、高額な賠償責任を問われる鉄道事項は、認知症を抱える家族に何時起きても不思議ではない。公的な救済制度が見送られたことは、厳しい介護の現実を理解してない判断で、まことに遺憾だとコメントしている。

 

<高齢者に優しい交通手段トラムを導入した「コンパクトシティ」:富山市>

 JR北陸新幹線の富山駅の改札を出ると、正面に路面電車の停車場がある。客を待つのは「LRT」(ライト・レール・トランジット)と呼ばれる低床式の車両。ヨーロッパのトラムにように2両編成のしゃれたデザインだ。「車社会の発達で郊外に道路を整備し、住宅団地も造成した。中心市街地にあった公共施設も広い敷地と駐車場を求めて郊外に造った。市民も、買い物は車で郊外のショッピングセンターに行く。その弊害として、公共交通と中心市街地の衰退が見えてきた」「車に依存した“拡散型まちづくり”」などの反省に基づき、富山市はコンパクトシティを目指し、新しい路面電車を整備した。富山ライトレールの郊外区間は、JR富山港線の再利用。乗客の減少で廃線寸前だったこのJR線を、次世代型路面電車システムとして蘇らせた。「バスと違い15分おきに時間通りに来るからすごく助かり、電車は便利。乗降口に段差もなく、つまずくこともない。年寄りの優しい乗り物だ」と、高齢者に好評だ。利用者も順調に伸びており、ライトレール開業直前、JR時代の利用者は1日当たり約3200人だったのが、開業初年の2006年度は一気に約5700人に達した。その後も5000人台を維持している。路面電車は、免許返納した高齢者にとっても優しい「コンパクトシティ」の交通手段となりそうだ。

 

 

事務局のひとりごと

 

 昨年12月、免許証の更新のため、日曜日に駅前運転免許更新センターに行った。3年前の前回更新の手前で、1週間に3度も交通違反のキップをきられ、青で5年更新だった運転免許証は青の3年に変わっていた(当時、筆者は後厄年ではなかったかと記憶している)。ここ数年間、道路交通法上、非常に謙虚につつましく過ごしていた甲斐あってか、晴れてまたゴールド免許で更新することができた。という訳で「駅前運転免許更新センター」に行ったのだが、この場所は通常の「運転免許試験場」とは異なり、免許更新にのみ特化したセンターであり、日曜日にも関わらず、ゴールド免許の更新だったこともあってか、8時15分に現地に到着後、流れ作業で手続きが進み、すでに9時40分には30分間の簡単な講習も終わり、「無罪放免」となった

 その時の講義中に、教官がゴールド免許の更新者(最も違反を起こしにくいとされている人たち)に対し、今後最も気をつけて欲しいことの説明があった。

夜間の運転は、早めのライト点灯と、原則ハイビーム

アクセルはかかとを支点としてゆっくり踏み込みブレーキは床からいったん足を離してギュッと踏み込む

筆者にはこの2点が最も印象に残った内容だ。ハイビームとロービームでは、夜間に見える視界が雲泥の差だ。道路交通法上も、夜間の運転は「ハイビームが原則」なのだ。対向車や前方を走っている車に気遣って、そのままロービームで走ることのないように気をつけようと思った。至極当然の話であるが・・・。

 気になったのはもう一点の「アクセルとブレーキの踏み方」だ。教官曰く、運転に慣れてくると、かかとを支点として(つまり床からかかとを離すことなく)アクセルとブレーキを踏み分けるドライバーによる事故がとても多いらしいのだ。どんな事故かといえば「アクセルとブレーキの踏み間違い」による事故なのだそうだ。

 アクセルとブレーキを踏み間違えて操作し、自動車が突っ込んだコンビニエンスストアの無残な光景のニュースなどを目にした時、心の中で、いや口に出してテレビにツッコミを入れたものだ。「どうやったらアクセルとブレーキを踏み間違えるのかなぁ・・・」(※1)

 この事故にかかわりが深いとされるのが、かかとをずっと床につけたままの運転なのだという。教官の説明を聞きながら、「そんな奴おらんやろう(大木 こだまひびき風に)」と心の中でつぶやく。

 

 更新の数日後、自動車を運転してはたと気づいた。「そんな奴おらんやろう(大木 こだまひびき風に)」と思っていた、かかとを床につけたまま、自分もアクセルとブレーキを踏み分けてしまっていたことに気がついた。ぞっとした。慌ててブレーキの際にはかかとを上げて上からしっかり踏み込む。もちろん、アクセルとブレーキを踏み間違えることなど、今まで運転してきてただの一度もなかったが、あの教官の話を聞いて、今一度基本に戻って運転しよう、と思った。

 

 新年を迎えた1月のテーマのひとつに、高齢運転者による重大事故についてとりあげてみた。これまで触れたこともあるが、本文中にもあったように、認知症高齢者が今後ますます増えてゆくという。自動車は、現代社会においてなくてはならない便利な道具の一つだ。趣味やステータスで乗っておられる方も当然いるが、生活の一部となっている方も少なくない

というより、本文中にあった富山市の例のように交通網のよほど発達した街中にでも住まない限り、自動車なしの生活なんて考えられない、という方の方が多いのではなかろうか(※2)。特に年齢とともに足腰が弱くなられた高齢者にとっては、反射系の能力が若い頃に比べて鈍ってきた、という実感がありつつも、運転できる限りは自動車を手放したくない、と思っておられても不思議ではない。スーパーに買い物に行くこともできなくなってしまいかねない。

 

将来的には、もはや実現段階まで来つつある「自動運転」という新たな技術により、事故のない社会が見えてきつつある(※3)。もしかしたら「ドローン」の技術で空を飛んで移動する(遠隔操作や自動操縦)ことだってできるかもしれない。

 とは言え、ここ数年間は高齢運転者による重大事故の問題を考えないわけにはいかないだろう。WMN事務局としては、この問題はとても重要であると考えているものの、だからといって明快な処方箋を有しているわけでもないので、いろいろな立場のコメントを紹介しながら締め括りとしたい

 

◎郊外から都心に引っ越した元高齢ドライバー:「公共交通の便が良い都心に引っ越した」

 75歳を超え、東京近郊の一軒家から都心のマンションに引っ越してきた夫婦。都心に引っ越した理由は、運転免許を返納したが、昼間は自宅から最寄りの駅までバスが1時間に1本と少ないことから。「高齢化が進んできた東京近郊の住宅地では、バス路線の改廃や運転本数の減少が目立つ。そこで、一軒家を売却して蓄えも切り崩して、狭いながらも都心のマンションに移った。都心は公共交通の便が良いので助かる。免許返納を機会に、お金に余裕がある高齢者は都心に引っ越す方が増えているようだ」と語る。免許返納が「都心回帰」を促すことになった。

 

◎地方に住む高齢の元ドライバーの声:「免許返納した後バスを利用しているが、使い勝手が悪い」

 東北地方のある人口2万人弱の町。2009年度から65歳以上の運転免許返納者を対象に町営バスを無料化した。2009年度に1日14本だったバスは現在23本に増えたが、運転免許を返納したある80歳の高齢女性がバスを利用するのは月に数回、通院の時だけ。「午後のバスがもっとあれば利用するのに。使い勝手が悪い」と不満を漏らす。バスの本数が増えたが、使い勝手が悪く、有料利用者数は伸びていない。バスの有料利用者数の減少が続けば全体の料金収入が減り、自治体の財政に悪影響を及ぼし、無料化が維持できなくなると懸念する声が多い。

 

◎若い世代のドライバーの声

 確かにはっとするような高齢者の運転をよくみかけます。でも、今まで長年、必需品として使用してきた車の免許を、返納してしまったら病院への送迎をはじめ、困ることになると思います。そこで、一定の場所、時間、期限など制限を設けて使用を許可するなど、超高齢社会なりの新しいシステムを工夫していく必要があると思います。

<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

(※1)・・・「踏み間違える」といっても、突っ込む以上はブレーキの代わりにアクセルを踏むわけだから、かかとをつけながらそっと(ブレーキの代わりに)アクセルを踏む位で、駐車場の縁石を乗り越えるくらいの勢いがつくとは考えづらい。また、別な状況として、停車中の状態で発進時に間違えて突っ込んだとするならば、アクセルとブレーキではなく「シフトレバー(DとR)」の間違いではないのか?それでも気づきそうなものなのだろうが・・・。いずれにしても非常に謎の多い事象である。

(※2)・・・富山市における例は海外からも視察に来ることが多いとされているが、それとても賛否両論であると聞く。人の好みは千差万別だ。

(※3)・・・自動運転全盛の時代になれば、「走る喜び」などという言葉は存在しなくなるのかもしれないなあ、と思うドライバーが出てくるかもしれない。間違いを起こす可能性が最も高い因子は「人」なので、自動運転で車が流れるようになれば、一般道においてはマニュアル運転は駆逐されていくのだろうから・・・(山道などでまで自動運転になるとも思いがたいので、あくまで事務局のひとりごと。そうなるとは限らない)。

<WMN事務局>