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No.605 論議呼ぶ財政審分科会の“新入院基本料”提言。病院団体は評価の一方、看護協会は提言に慎重姿勢

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■財政審分科会が看護配置でない入院基本料の評価を提言

 財務省・財政制度等審議会(財政審)財政制度分科会は4月20日開いた会合で、各都道府県で2016年度に策定が完了した地域医療構想で急性期から慢性期への転換が求められていることを踏まえ、7対1入院基本料について、「重症度、医療・看護必要度など算定要件の一層の厳格化を行うべき」と指摘。その上で、「入院基本料ごとに具体的にどのような医療を提供しているか検証した上で、看護職員配置ではなく、提供している医療の機能(高度急性期、急性期、回復期など)により評価される仕組みを目指すべきだ」と、新たな入院基本料の検討を提言した(図1 地域医療構想の方向に沿った診療報酬(入院基本料))。提言の背景には、急性期を念頭に高い報酬設定がなされている「7:1入院基本料」届出が2006年度導入以降急増し、2016年で38万床と最多になったことがある。

 

 同分科会の提言では、2018年度診療報酬・介護報酬の同時改定に向けて、「地域包括ケアシステムの構築などの観点から、病床機能の分化・連携、在宅医療・介護の連携強化といった分野横断的な課題については、一体的な対応が図ることが重要」と指摘。分野横断的な課題として、①急性期から回復期、慢性期、在宅医療までの医療機能の分化・連携の推進(介護療養病床などの効率的な提供体制への転換を含む)、②医療サービスと介護サービスの連携の強化(入退院時における連携、介護保険施設における医療ニーズや看取りへの対応など)-をあげた。

 

 また、「経済財政運営の基本方針(骨太方針)2017」の策定に向け、論議を進めている内閣府・経済財政諮問会議の下部組織である経済・財政一体改革推進委員会も4月28日に開いた会合で、「7対1入院基本料の厳格化や地域包括ケア病棟の創設などを踏まえつつ、病床の機能分化・連携の取り組みなどをさらに後押しする」入院基本料の在り方を検討する必要を指摘している。

 

■「看護配置ではない入院基本料評価」に、病院団体は評価、看護協会は慎重姿勢

 財政審分科会が新たな入院基本料について「看護職員配置ではなく、提供している医療機能で評価する仕組み」を提言したことに対して日本病院会や全日本病院協会など病院団体からは、7対1入院基本料の算定要件の厳格化には強く反対した上で、「提供している医療機能により評価される仕組みを目指す方向性は理解できる」「数やモノというストラクチャー評価を基本とする入院医療の報酬体系の根幹を変える覚悟が必要だ」「次期改定での実現は厳しいが、検討に着手すべき」などと、支持する意見が出された。

 一方、日本看護協会は5月19日、2018年度診療報酬改定に関する要望書を鈴木厚労省保険局長に提出。その中で、入院基本料に関する財政審の提言について、「『看護配置ではなく』ではなくて、『看護配置だけでなく』という方向で検討するよう」「拙速な見直しは現場の混乱を招くため、十分な検討が必要だ」などと、鈴木局長や迫井医療保険課長に慎重な対応を求めた。要望書では、7対1算定病棟のうち、看護職員の実配置が5対1以上の加配病棟は全体の9.3%であったという日看協調査を踏まえ、急性期病棟での5対1加算の新設を求めている。

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関係者のコメント

 

<藤森東北大教授:「7:1算定病院は、沖縄県、福岡県、石川県、群馬県に多い」

 「経済・財政一体改革推進委員会」の評価・分析ワーキンググループの藤森研司委員(東北大学大学院医学系研究科・医学部教授)は、DPCを含めた7対1・10対1入院基本料の算定状況(2015年5-2016年5月審査分)について、各都道府県の年齢構成の違いを調整し「レセプトの出現比(SCR)」として指数化すると、7対1では、沖縄県、福岡県、石川県、群馬県—などで全国標準より多く、岩手県、和歌山県、高知県、新潟県―などで少ないという調査データを明らかにしている。

 

<迫井医療課長:「必要とされる医療サービスと、それを評価するストラクチャー(看護配置等)にミスマッチ」>

 中医協(3月15日)一般病棟入院基本料を巡る論議の中で、厚労省の迫井正深医療課長は、「必要とされる医療サービスと、それを評価するストラクチャー(看護配置等)にミスマッチがあるのではないか、ストラクチャーを整えることが逆の効果を生むことがあるのではないか、という問題意識があり、それがかみ合うようにする必要がある。もちろん、様々な患者が入院していることを踏まえた、硬直的ではない対応が必要」などと述べた。

 

<原澤日本病院団体協議会議長:「10年、20年かけて新たな評価基準を見つける作業・研究を続けなければならない」>

 日本病院団体協議会(全国公私病院連盟、全国自治体病院協議会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本私立医科大学協会、日本精神病院協会、日本病院会、国立病院機構、国立大学病院、日本療養病床学会、労働者健康福祉機構、日本社会医療法人協議会、日本慢性期医療協会の合計13病院団体の集まり)の原澤 茂議長(全国公私病院連盟常務理事)は5月9日、厚生労働省保険局の鈴木康裕局長に宛てに、2018年度の診療報酬改定に関する第1弾の要望事項を提出。提出後の記者会見で、原澤議長は、看護配置ではなく、「患者の状態像」「病棟の機能」に応じて設定する入院基本料について、「日病協の実務者会議でも、学識者を招き数年にわたって議論してきたが結論が出ない。同じ病名でも重症患者から軽症患者までさまざまで、患者の状態や重症度が、必ずしも看護の手間にリンクしているわけでもない。今後、10年、20年かけて新たな評価基準を見つける作業・研究を続けなければならず、病院団体も協力していく」とコメントした。

 

<猪口全日病副会長:「7対1と10対1の点数に差がありすぎるのも問題」>

 3月15日の中医協総会での一般病棟の入院基本料を巡る論議の中で、猪口雄二全日本病院協会副会長は、「7対1と10対1の点数に差がありすぎるのも問題だ。間にもう一区分設けることを検討してほしい」と要望。また、病院内で7対1と10対1の混在を認める病棟群単位の算定について、「現状であまり使われていない。改善策を講じて、2018年度以降も継続すべき」と述べた。

 

<日本看護協会要望書:「医療と介護をつなぐ看護機能の強化を求める」>

 日本看護協会は5月19日、厚労省の鈴木保険局長に2018年度の診療報酬改定に関する要望書を提出。特に「患者がよりよい状態を保ちながら入院医療から在宅医療へ移行するために、訪問看護等看護職が担っている医療と介護をつなぐ機能について、強化・推進されたい」と要望。さらに、財政審分科会で示された診療報酬の入院基本料を看護職職員の配置ではなく医療機能で評価する仕組みを目指すべきとの議論については、坂本会長が、「看護職員の配置と医療機能のどちらも見ることが必要」と、口頭で述べた。

 

事務局のひとりごと

 

 入院基本料は病院経営における収入の根源である、といっても差し支えないくらい、病院経営にとって切っても切れない点数であるだろう(勿論、外来のみの診療所は別として)。

 平成26年度 国民医療費の構造(※1)によれば、診療種別国民医療費40.8兆円の中で、医科診療に要した医療費は29.2兆円、うち入院に要した費用は15.2兆円だ(一般診療所含)。これは国民医療費の37.4%に相当する。入院医療には、手術、薬剤、調剤、処置、加算など別の点数も含まれているが、やはりその元となっているのは入院基本料だ。患者が入院しなければ、他の点数につながっていくことはない。

 その入院基本料の根幹に関わろうかという議論である。なかなか結論の出る話ではない。

病院にまつわる職種の方々からコメントを頂戴した。

 

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【病院経営者のコメント】

○7対1体制維持に必死な病院経営者

「7対1看護基準をクリアすることで常に頭が一杯」

 高い診療報酬を維持するため、7対1看護基準をクリアすることで常に頭が一杯。人件費等のコストを考え、私の病院では看護師の人数が基準ギリギリで維持している。退職しようとする看護師の引き留めに必死だ。

 

○10対1の中小民間病院の経営者

「看護師が少なく人件費がかからないが、看護師の突発的な休みが続き、

職場環境が悪化」

 10対1看護体制は、7対1より人件費がかからない一方で、少ない数の看護師で看護業務をしており、シフトに入っている看護師は突発的に休みづらい。このため、最近突発的に休む看護師が続き、休んだ人が悪い者扱いされていると看護師長から報告を受けた。職場の雰囲気の悪化は患者さんも敏感に感じとり、患者数の減少、ひいては経営の悪影響につながらないか心配だ。

 

【病棟勤務看護師のコメント】

○7対1病棟の看護師長

「仕事ができる看護師の負担が増える」

 7対1看護体制の一番のデメリットは、仕事のできる看護師の負担が増えることだと思う。仕事のできない看護師や新人看護師には比較的安定している7人を受け持たせ、仕事のできる看護師には重症例7人を受け持たせている。このため、シフト表の作成に常に頭を悩ませている。仕事のできる一部の看護師に負担がかかり、いつ辞めたいと言い出すのか心配だ

 

○10対1の病棟看護師

「業務量や記録量が多いことから、定時で仕事が終わらない」

 7対1看護体制であってももちろん残業や夜勤はあるが、10対1看護体制は業務量や記録量が多い分、仕事が定時を回っても終わらないということは圧倒的に多い。サービス残業が多くなると身体への負担が大きく、不当に働かせされていると感じてモチベーションが低下する。自分の働きが正当に評価されないと感じている同僚も多く、最近、離職する人が増えている。

 

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 どの意見もごもっともである。非常に考えさせられる。昨今、安倍総理肝煎りの「働き方改革」という言葉を耳にしない日はないが、病院における「働き方改革」とは何か、このコメントから現場の状況を想像するに、簡単に「定時で終わる(終わりなさい)」という言葉が、如何に空々しく聞こえることか。

 「24時間戦えますか…♪」約20年前に一世を風靡した栄養ドリンクのCMを聞いていた世代である筆者からすると隔世の感だ。

 

 「できる人に仕事が回ってくる」というのは世の常だ。看護師長のコメントは一般企業においても似たようなものだと思われた方はきっと少なくないことだろう。これは人類社会における永遠のテーマなのかもしれない。

 小学校の時、社会科の授業で大雑把に「資本主義」と「社会主義」の違いを教わったことを思い出す。当時の筆者の理解は資本主義とは「頑張ったら頑張っただけ評価される」と解釈していたと思う。対する社会主義は、「みんな平等なので、頑張っても頑張らなくても一緒。理念自体は悪くないのだろうが、社会全体の成長力が阻害されてしまう可能性大」。こんなところだろうか。

 病院内において、最も人数が多い職種が看護師である。入院基本料の看護配置基準によるところが最も大きな背景であるが、その看護師においても、「やればやる」ほど評価はされるのだろうが、より高度な、責任の重い業務が回ってくるという。医療はチームで行う。看護もチームだ。いかにスタープレーヤーがいたとしても、チーム力全体のレベルが上がらなければ、チーム全体としての成立は難しい

 

 財政審が思うこの議論の方向性は如何なるものか。いわゆる「アウトカム」で病院の収入の源泉である入院基本料を設定しようとするのだから、よりたくさんの資源を投入(看護師など)すれば、成果は出易いだろうし、患者も集まる。

 その上、診療報酬も「分かり易い」というのが決め方のテーマであろうから、最終的には「マルメ」になるのだろう。人を配すれば配するほど、一人当たりの分け前は減る。できるだけ配せずに成果を出せば一人当たりの分け前が増える。そういった原理を作った上で、急性期の機能を淘汰していこうというのだろうか

 

 かなり前であるが、厚労省のお役人と意見交換をすることができた。「今後5:1の入院配置基準が誕生する可能性はあるのでしょうか?」その時点での答えは「否」。当時も議論にあったはずだが、看護師を配置する要件を満たしさえすればどの病院でも7:1入院基本料を算定することができたこと自体に問題がある。明らかに厚労省の予測違いであり、政策ミスだろうと筆者は考えるが、その7:1が誕生した時の看護師争奪戦のイメージを払拭しきれないという。トラウマになっているのだろうか。

 そんな中、急に出てきた(わけでもないのだろうが)この議論、非常に行く末が気になるところである。

<ワタキューメディカルニュース事務局>

(※1)・・・厚生労働省統計情報より

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/14/dl/sankou.pdf