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No.658 2018年の医療事故報告4565件と過去最高~日本医療機能評価機構調べ

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■1月から3月、ドレーン・チューブ関連の医療事故が薬剤関連と入れ替わる

 ①2019年1月から3月の間に1512の医療機関から報告された医療事故情報の件数は1124件。内訳は、報告義務対象医療機関から1033件、参加登録申請医療機関から91件、1033件6.5%で患者が死亡、10.4%では死亡に至らないものの、「障害残存」の可能性が高いことが明らかになった。③2018年の報告件数は4565件で、前年4095件に比べ大幅に増加し、2010年(2703件)以降、過去最高となった(図4 医療事故情報の報告件数と医療機関数)。④毎回テーマを絞った医療事故再発に向けた詳細な分析のうち、「術式間違いに関連した医療事故」が2014年から2019年3月まで12件報告された。

 

 公益財団法人日本医療機能評価機構は7月5日、医療事故情報収集等事業の第57回報告書(2019年1~3月)を公表し、このような結果が明らかになった。毎年、前年を上回る数の報告が続いていることについて、同機構では「医療事故を報告することが定着してきているものと考えられる」と分析している。

 

 2019年1~3月に報告された医療事故1033件の概要を見ると、①最も多いのは「療養上の世話」で341件(同33.0%、前四半期に比べて2.6ポイント減)、②次いで「治療・処置」307件(同29.7%、前四半期に比べて3.1ポイント増)、③「ドレーン・チューブ」87件(同8.4%、前四半期に比べて1.8ポイント増)、「薬剤」61件(同5.9%、前四半期に比べて1.8ポイント減)など。「薬剤」に関連する事故と「ドレーン・チューブ」に関連する事故とで順位が入れ替わった。各医療機関で薬剤関連の医療事故対策が整備されたかどうか、今後の分析が注目される。

 

 一方、ヒヤリ・ハット事例は7909件で、内訳は、「薬剤」関連の事例が最も多く2766件(ヒヤリ・ハット事例全体の35.0%、前四半期と比べて0.6ポイント減)。次いで「療養上の世話」1451件(同18.3%、前四半期と比べて0.2ポイント減)、「ドレーン・チューブ」1260件(同15.9%、前四半期と比べて1.5ポイント増)などとなっている。

 

■手術間違いに関連した事例は2014年から12件、全て「予定した手術とは違う術式」で手術

 報告書では毎回テーマを絞り、医療事故の再発防止に向けた詳細な分析を行っている。今回は、「他施設や在宅で使用していた医療機器等の持ち込みに関連した事例」「検査・治療時の鎮静に使用する薬剤の投与量やタイミングを誤った事例」「術式間違いに関連した事例」の3テーマについて、詳細に分析している。

 このうち、「術式間違いに関連した事例」は、2014年1月から2019年3月まで12件報告された(乳房5件、卵管・卵巣3件、頭蓋底1件、硝子体1件、肺1件、胆嚢1件)。このうち、取り違えの多い乳房手術は、全て「予定した手術とは違う術式」で手術してしまっており、具体的には、「乳頭乳輪温存皮下乳腺全摘術を行うべきところ、乳房全摘術を実施」「乳頭温存乳腺全摘術を行うべきところ、乳房全摘術を実施」「乳房全摘術を行うべきところ、乳房部分切除術を実施(2件)」「大胸筋下シリコンインプラント挿入術を行うべきところ、大胸筋上シリコンインプラント挿入術を実施」というものだった(図5 予定した手術と実施した手術)。再手術を行ったケースもあるが、「再手術不能」となったケースもあり、術式間違いは患者のQOLを著しく低下させるリスクをはらむ。

 

 

 術式間違いの背景には、「患者は最初に卵管結紮を希望していたが、その後『希望しない』に意思が変わった。しかし、執刀医(外来担当医と同じ)は最初の希望通り卵管結紮を行うものだと思い込んだ」「外来担当医と執刀医が異なり、情報連携が十分でなかった(診療科内で患者・術式の情報共有を十分していなかった、外来担当医がカルテに術式変更の記載を行わず、別の執刀医が変更前の術式で実施したなど)」「病棟看護師が患者の手術に対する受け止めや、患者が聞いている術式の確認を行っていなかった」「病棟看護師が手術室看護師への申し送り時に患者の希望を略語で申し送ったため、手術室看護師が理解できていなかった」「手術室入室時に、手術に関わる医療者全員と患者とで手術同意書をもとに術式を確認する仕組みがなかった」「手術同意書に記載がない内容は、手術を行わないというルールを守れなかった」などがあげられる。

 報告書で機構は術式間違いの再発防止策として、次のような取り組みを提言している。

外来担当医と執刀医が異なる場合、患者への説明は両者がそろった場で行う。その際、予定している手術をイラストで示すなどして情報を共有しやすくする。②手術申し込みの際は細かい術式まで記載し、変更があれば速やかに対応する。③術前に予定術式について、関連するスタッフ間で情報を確認し、共有する。変更があった際は、診療科内で細かい術式の内容まで情報を共有する。執刀医、助手などの術者が変更・追加になる場合にも手術同意書で術式の確認を行う。⑤手術中にコミュニケーションを図り、状況や認識等を共有していく。⑥執刀直前の確認の際は、術式を手術同意書で確認する。また手術室入室時の確認は、患者、診療科医師、麻酔科医師、病棟看護師、手術室看護師で実施し、術式については手術同意書で確認する。

 つまり、院内のカンファレンスなどを活用して、「外来、病棟、手術室などの患者に関わる全ての医療スタッフが正しい情報を把握することができる仕組みを作ることが重要である」と強調した。

 

【事務局のひとりごと】

 

 

 いまさらかもしれないが、日本医療機能評価機構とは、「中立的・科学的な第三者機関として医療の質向上と信頼できる医療の確保に関する事業を行い、国民の健康と福祉の向上に寄与することを目的として設立された。

 その事業

  病院機能評価事業

  産科医療補償制度運営事業

  EBM医療情報事業

  その他医療の質の向上に寄与する事業

  認定病院患者安全推進事業(PSP)

  医療事故情報収集等事業 薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業

である。

 

医療の質とよくいわれるが、医療の質にアプローチするには3つの考え方がある。

 構造:Structure

 過程:Process

 結果:Outcome

 

構造は、

 医療が提供される条件を構成する因子、ヒト・モノ・カネ・組織などに相当する。

 測定が容易であり、質を評価する上では最も間接的だ。

過程は、

 専門家によって行われる医療活動がどのようにうまく実施されたかということだ。介入・変更が可能であり、記録によって実施状況が確認できるが、結果との関連が必ずしも明確でない

結果は、

 提供された医療に起因する個人や集団における変化(望ましいもの、望ましくないものを含む)、例えば、健康状態の変化、患者または家族が得た将来の健康に影響を及ぼしうる知識の変化、将来の健康に影響を及ぼしうる患者または家族の行動の変化、医療およびその結果に対する患者や家族の満足度のこと。

 測定するためには指標化が必要であり、case-mixにおける調整が必要で、評価に時間がかかる。また、先に挙げた構造・過程との関連が必ずしも明確でない

 

 病院のあり方報告書(2011年 全日本病院協会)によれば、質とは顧客要求への適合、すなわち、顧客満足を意味している。顧客要求はとどまることなく上昇するため、満足を得られるのは一過性でしかない。従って継続的に向上の努力を続ける必要がある、とされている。

 質Q(large Q)の要素は、製品・サービスの質q(small q)と価格C(cost)、提供の仕方D(delivery)といわれている。Q=f(q・C・D)とあらわすことができる(質と価格と提供の仕方の掛け算)。

 近年、質を、製品・サービスの質に止まらず、組織の質、職員の質、更に、環境負荷に関する質(E)までを包含して捉えようになった。総合的質(TQ:Total Quality)の概念である。

 

 医療サービスは、

 無形性

 ・・・自ら受ける購入前のサービスは、見ることも、味わうことも、触れることもできない。

 不可分性

 ・・・提供者と享受者との間で共創(共同作業)される価値。サービスは提供者が良いサービスを提供したつもりでも、顧客が満足しなければ良いサービスを提供したことにはならない

 変動性

 ・・・サービスは生産と消費が同時に行われている。そのため、常時品質を一定に保つことは大変難しい。提供者によってもばらつきがありまた、顧客との認識もずれを生じやすい。

 消滅性

 ・・・サービスは、有形の製品と違い、需要の変動等に備えた在庫をすることができない。

 という特徴がある。

 医療はヒト・モノ・技術などの要素と、それを運営するシステムからなるが、そのどれか1つの要素技術のみが良ければ医療の質が良いのかといえばそうではない。従来の医療は要素技術に重点を置いてきたが、医療が複雑・高度化するにつれ、システムの重要性が増してきた。

 <参考:公益財団法人日本医療機能評価機構 評価事業推進部 部長

 遠矢雅史氏 「医療の質向上および医療安全の推進について」(H30.8.23.)より>

 

 1990年代、医療事故とは、“あってはならない” 個々人の注意で防ぐことができることとされていた。しかしながら、今月号のもう一方のテーマでも触れたように、2000年前後から医療業界で起こった事件を期に、医療事故対する考え方は、“医療事故は起こりうること”であり、チームや組織全体の在り方を改善しなければ、事故は防止できないという考え方に変化していった。

 長い前置きであったがそういった考え方から日本医療機能評価機構の事業の一つである、「医療事故情報収集等事業 薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」があるわけだ。

 

 コメントを紹介したい。

○日本医療機能評価機構:地域包括ケアシステム構築に伴い、他施設や在宅の医療機器によるヒヤリ・ハット事例が増加へ

 報告書の中で日本医療機能評価機構は、地域包括ケアシステムの構築に伴い、在宅や介護施設から医療機関への入院や、急性期病院から他病院への転院が広く行われていることを踏まえ、「他施設で挿入されたオープンエンドカテーテルタイプの皮下用ポート及びカテーテルが閉塞した事例」「他施設で前腕に皮下用ポート及びカテーテルを挿入された患者の採血を同側前腕で実施後、ポートの破損に気づいた事例」を紹介し、今後、さらに増える可能性を指摘。使用している医療機器やカテーテル等の情報を施設間で情報共有することが重要であり、一元的に情報を管理できる仕組みを構築することが望まれると強調した。

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 医師のコメントである。

 

○医師:医療安全は医師一人では背負い切れない

 医師以外の職種は医師に対して助言しにくい面もある。しかしチーム医療が進む中、医療安全は医師1人では背負い切れない。院内全員で取り組むことで、いろいろな人の目が入り、質の向上につながると思う。医師としてのプライドを前面に出さないよう気をつけたい。

 

○病院長:医療の標準化が進むことで、医療安全対策が立てやすい

 「国際社会における患者の安全と医療の質の改善」を目的とするJCI(国際的医療施設評価機関)認定を取得した病院長。医療安全のためには、院内の医療の標準化が必要。例えばインフォームドコンセント一つにしても、医師ごとに違っていては、問題があってもその解決を共有しにくい。当院ではJCI認定取得というスタンダードへと院内の医療の標準化が進むことで、医師もこれまでの経験を否定されることなく、一つの方向に向かうことができた。

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 看護師からはこんなコメントだ。

 

○手術室看護師に誤認防止指導を徹底

 当院は周術期看護の視点から、手術室看護師による術前訪問、術前外来を実施している。手術担当看護師は、術前訪問・術前外来で面識を得て、患者の身体的特徴を把握する。師長として一人一人の看護師に対して、患者に「手術患者確認及び手術部位の確認」の目的と方法を説明し(同意を得て誤認防止に参加してもらう)、手術部位に間違いがないことを患者あるいは家族と確認するよう指導している。

 

○スマートフォンを活用した「三点認証」で患者取り違いミスを防止

 医療安全から病院では投薬ミスや患者取り違いミスなどを防止するため、バーコード等を使用して患者、看護師、医薬品等を機械的に認証する「三点認証」が行われているが、愛媛県四国中央市のHITO病院では、看護師がスマートフォンiPhoneを使いQRコードで三点認証を行う。安全確認としてオーダー情報確認、iPhoneのカメラ機能を使ったQRコード認証ができる。

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 思い込みとは恐ろしいものである。「ほんごう」という名字があったとしよう。殆どの方は「本郷」という漢字を想像されるのではないだろうか。その方の正しい名字が、仮に「本江」だとしたらどうだろう。読み方を知らされず、この漢字を読むなら、読者諸氏におかれてはなんと読まれるだろうか。少なくとも筆者は「ほんごう」といわれていきなりこの漢字を思いつくことはないだろう。そんな勘違い、思い込みだけでも、医療の世界では、関わっている人員が多いだけに患者取り違えなどの問題が起こるリスク(可能性が)いたるところに潜んでいる

 そういった思い込みや勘違いを技術力で補っていこうとすることができるのも、多くのインシデント・アクシデント事例の報告が、次に起きぬようにしようとする考え方の集大成なのである。であるから、医療事故の報告件数が年々増えるということは、医療がリスクのかたまりだ、という見方ではなく、起こってしまった(起こりかけた)事例が再発することの無いよう、という思いをこめた結果だということを、我々は理解しておく必要がある。

 医療は代表的な「労働集約型産業」の一つであるが、先述のような背景から支える仕組みが公的にも、それぞれの病院でもなされている事例である。

 「事故は起こるもの」。そういう観点でシステムを構築していく考え方の必要性が医療に取り込まれ、改善されてきた歴史を感じる。

 

 ○医業系コンサルタント:人事流動性の高い病院では、医療事故防止の研修は同じことを繰り返し行う

 病院は、中には1年で医師の約3割、看護師の約1割が入れ替わるという人事流動性の高い業界である。だからこそ、医療事故防止に向けた研修は、同じことを繰り返し・繰り返し行うこと。これに尽きる。医療の進歩に伴い安全対策もさらに進化が求められ、終わりはない。

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 確かに「病院」に勤める職員は多く、看護配置基準の向上から1床あたりに換算した職員数は、急性期の医療を担う病院ほど増加傾向だ。反面、離職率も高い医療はその施設での職歴がものをいうのではなく、業界に勤めて何年か?という職歴がものをいう。ライセンスを持たれたプロ集団という側面もあるが、それ故の難しさもあるだろう。選手全員がプロの野球チームやサッカーチームでも、勝負事なので必然的に優勝も存在すれば、最下位も生まれてしまうのだ。優劣の付きづらい医療で、患者から選ばれる病院になるためにはどうすべきか?各医療機関で試行錯誤の連続なのだろう。

 

 最後にこんなコメントを紹介したい。

○弁護士:「手術の際には執刀医だけでなく、麻酔医とも話し合いを」

 日本麻酔科学会第57回学術集会市民参加シンポジウムで、弁護士で医療問題弁護団代表の鈴木利廣氏は、「手術を受ける際には、患者は執刀医の方だけを注目しがちだが、手術中の患者の安全を守ってくれているのは、むしろ麻酔医である。手術を受ける際には、主治医に『麻酔担当医にいつ会えるのか』尋ね、麻酔医に会えたら『どんな麻酔方法をするのか』質問した方が良い」と述べ、周術期管理における麻酔医の役割を強調した。

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 これから手術を受ける予定の方がいらっしゃったら、是非とも参考にしていただきたい。

 

<ワタキューメディカルニュース事務局>