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No.671 診療報酬改定で救急搬送年間2000件以上に520点の加算新設、進むか?救急病院勤務医の働き方改革

2020年03月15日

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■「救急搬送年間2000件以上」など満たす病院向けに「地域医療体制加算」を新設

 中央社会保険医療協議会・総会が2月7日開かれ、2020年度診療報酬改定について加藤勝信厚生労働大臣に答申した。

 今回改定の重点課題である医療従事者の働き方改革として、救急病院に勤務する医師の働き方改革を後押しする「地域医療体制加算」(消費税財源による0.08%引き上げ分に相当)が新設され、入院に関して年間2000件以上の救急搬送件数があれば、急性期一般基本料、特定機能病院入院基本料(7対1および10対1入院基本料に限る)、救命救急入院料特定集中治療室管理料などを算定する病棟において入院初日に520点加算されることになる。また、「医師事務作業補助体制加算」の全ての算定区分の報酬額を50点ずつ引き上げる

 「地域医療体制確保加算」(520点)は、地域の救急医療体制で重要な機能を担う医療機関を対象にした報酬で、①救急車や救急医療用ヘリコプターによる搬送件数が年間2000件以上であることや、②病院勤務医の負担軽減、処遇改善に資する体制を整備しているなどを算定要件に定める(図1 地域の救急医療体制における重要な機能を担う医療機関に対する評価の新設)。

 救急医療体制の充実を図る観点から、既存の加算についても拡充される。夜間休日救急搬送医学管理料の加算である「救急搬送看護体制加算」(現行は「救急搬送看護体制加算」200点のみ)には、上位ランクが設けられ、新設の「救急搬送看護体制加算1」(400点)は、①救急車、救急医療用ヘリコプターによる搬送件数が年間1000件以上ある、②救急患者の受け入れへの対応にかかる専任の看護師が複数名配置されていることを満たす場合に算定できる。専任の看護師は院内トリアージ実施料にかかる専任の看護師を兼ねることも可能となる。

 「救急医療管理加算」については、加算1・2ともに50点ずつ引き上げられる。一方で、患者の重症度等に応じた救急医療を適切に評価する観点から、患者の重症度等の情報を収集するため、要件が見直される。

 

 働き方改革ではこのほか、「医師事務作業補助体制加算」の全ての算定区分の報酬額を50点ずつ引き上げ、「加算1」を248点〜970点、「加算2」を238点〜910点とする見直しを行う。

 

急性期一般入院料1の看護必要度は31%に引き上げ

 重症度、医療・看護必要度の該当患者割合で前回2018年度診療報酬改定に続いて支払側と診療側が激しく対立し、急性期入院の見直しの最大の争点となった入院医療の評価指標の1つである「重症度、医療・看護必要度」(以下、看護必要度)は、公益裁定により1%引き上げられて31%となり、「急性期一般入院基本料1」の点数は据え置かれた

 「急性期一般入院料1」の基準が30%から「31%」看護必要度Iの場合)に引き上げられ、以下、入院料2は「28%」入院料3は「25%」入院料4は「22%」とされ、入院料1~4の基準が3ポイント刻みで設定される。2020年3月末時点で該当する入院料の届出が済んでいる場合は、2020年9月末までの間は新しい基準値を満たしているとみなす経過措置を設けるが、「急性期一般入院料4」の経過措置期間のみ、判定項目や判定基準の見直しによる影響が大きい点を考慮し、2021年3月末までの1年間とする(図2 重症度、医療・看護必要度の施設基準の見直し)。

 さらに許可病床数200床未満の医療機関については、「急性期一般入院料2〜4」の該当患者割合の基準値の経過措置を設ける。具体的には、①「急性期一般入院料2」看護必要度Ⅰ26%、看護必要度Ⅱ・24%、②「急性期一般入院料3」看護必要度I・23%、看護必要度Ⅱ・21%、③「急性期一般入院料4」看護必要度Ⅰ・20%、看護必要度Ⅱ・18%-に緩和される。対象は2020年3月末時点で「急性期一般入院料2〜4」を届け出ている場合、経過措置期間は2022年3月末までにそれぞれ定める。

 必要度の評価項目も一部変更され、A項目(モニタリングおよび処置等)では必要度Iで8の「救急搬送後の入院」の評価期間を入院後2日間から5日間に延長。必要度Ⅱでは入院日に救急医療管理加算1か2、または夜間休日救急搬送医学管理料を算定する患者で入院後5日間を評価対象とする。B項目(患者の状況等)は変更なし。C項目(手術等の医学的状況)では評価期間を見直し、開頭手術では7日間を13日間とするなど、いずれも期間を長くする。

 各入院料・加算における該当患者の基準では、一般病棟用の必要度で基準(2)「B項目のうち『B14診療・療養上の指示が通じる』または『B15危険行動』に該当する患者であって、A得点が1点以上かつB得点が3点以上の患者」を削除するなど、「認知症、せん妄」の基準は判定から除外されることになった。

 

 

【事務局のひとりごと】

 

 今月号のもう一つのテーマである、新型コロナウイルスの蔓延に伴う問題で、今や日本列島のイベントは「中止」、「延期」のオンパレードである。

 2年に一度の診療報酬改定には付きものの“診療報酬改定セミナー”も中止だ。筆者も春分の日の診療報酬改定セミナー受講を予約していたが、中止の報を受け返金対応の手続きを先日したばかりだ。

 各医療機関においては、新型コロナウイルスへの対応も多かれ少なかれある中、点数改定に向けた施設基準の確認、届け出等、やるべきことは多い。この件に関する何らかの措置(お目こぼし)はあるのだろうか。

 

 コメントを紹介したい。

○森光保険局医療課長:「新設の加算を各病院がどう使うかが、次につながると注目している」

 2月28日開催された第7回慢性期リハビリテーション学会で「令和2年度診療報酬改定の概要」について講演した厚労省保険局の森光敬子医療課長は、医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進として新設された「地域医療体制確保加算」(520点)について、「当然診療報酬で面倒みることは当然だが、それぞれの病院がこの加算を働き方改革推進にどのように使っていくかが、次につながるものとして注目している」などと述べた。

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 今回の改定は、前回改定の改善・調整が主になっている中で、タスクシフト(働き方改革)、救急に多く取り組んでいる大病院(200床以上)に、財源が充てられた。“これは!”というような大幅な内容は無かった。筆者としてはそんな印象である。

 

 各病院団体からの今改定へのコメントを紹介したい。

 

○自治体が公立病院の経営の維持を目的に救急車等を公立・公的病院に集中させ、民間病院の経営を圧迫する可能性

 2月7日の四病院団体協議会と日本医師会の合同記者会見で、日本医療法人協会の加納繁照会長は、救急医療に関する診療報酬の充実が図られた点を評価する一方で、公立・公的病院に救急搬送が集中する傾向が生じかねない点を危惧。新設される地域医療体制確保加算や救急搬送看護体制加算1(400点)では、「年2000件以上」「年1000件以上」といった救急搬送件数が要件化される。そのため、都道府県が公立病院の経営の維持を目的に救急車等を公立・公的病院に集中させる動きが出て、民間病院の経営を圧迫する可能性に懸念を示した。

 

○財源がない中で精神科は要件等を緩める形で改定だが、上乗せ財源が付いたわけではないので精神科病院の経営は厳しくなっていく

 同じく2月7日の四病院団体協議会と日本医師会の合同記者会見で、日本精神科病院協会の山﨑 學会長は、「財源がない中で精神科は要件等を緩める形で改定が行われた。運営上は楽になるかもしれないが、上乗せ財源が付いたわけではないので精神科病院の経営は厳しくなっていくと思う。さらに、入院医療の食事療養費は過去25年間1円も引き上げられず、その間に材料費や人件費は上がっている。次の2022年度改定で入院時食事療養費を大幅に上げないと、病院の経営が圧迫されることになる」と話した。

 

○「医師事務作業補助体制加算の算定病棟を慢性期まで拡大したことを評価」

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は2月13日の定例記者会見で、「病院勤務医の負担軽減及び処遇改善に対する体制を評価した医師事務作業補助体制加算の算定病棟を慢性期まで拡大してくれたことは、実態を良く理解していただいている」と評価した。従来は、一般病床ベースの回復期リハ病棟、地域包括ケア病棟でないと医師事務作業補助体制加算が算定できなかった。2020年度診療報酬改定では算定可能な病棟が慢性期まで拡大された。「慢性期の重症病棟は、一部急性期よりも厳しい状況におかれている。今回の算定拡大はありがたい」とコメントした。

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 加納先生のコメントのように、確かにその懸念はないではないが、実際にもともと現在救急受入れがあまり多くない公立病院が、改定を意識して救急に力を入れるというようなことは、あまり ありそうな気はしない。といったらお叱りを受けるだろうか。

 

 

 こんなコメントもいただいた。

○「年間2000件未満でも救急医療に頑張っている民間病院があることを忘れないで欲しい」

 新設された「地域医療体制確保加算」の要件に救急搬送年2000件以上がある。対象となる多くは公立・公的であり、我々のような2000件未満で頑張っている民間医療機関を忘れないで欲しい。救急搬送件数で区切った場合に、長時間労働になっていても評価されない救急医療機関が出ることが心配だ。

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 言い出したらきりがないが、よく病床数を基準にしていろいろな“決め”が行われるが、何かを決めればそれを批判する意見も当然出てくる。おっしゃるように、与えられたリソースの中で、最大限のパフォーマンスを発揮されている医療機関におかれては由々しき問題である。

 

 医業コンサルタントからはこんなコメントだ。

 

○「ほとんどの病院が「せん妄ハイリスク患者ケア加算」取得に向け動く

 重症患者の基準が変わるのも、今回の見直しの大きなポイントである。認知症やBPSD、せん妄のある高齢患者は、「重症患者(=看護必要度の基準に該当する患者)」から外れる。高齢化に伴って認知症などの患者が急性期病棟でも増えていることから、現場の負担を評価しようとつくられた基準だったが、「これを『急性期医療の基準です』とするのは、やはり違和感が…」ということで、今回の改定で外されることになった。その代わりに、せん妄の予防対策を行った場合に算定できる加算(せん妄ハイリスク患者ケア加算)が新設される。ほとんどの急性期病院が加算取得に向け動くとみられる。①入院早期にせん妄リスクをスクリーニングする、②ハイリスク患者にせん妄対策(非薬物療法が中心)を行うことが、算定要件であり、精神科分野に強い医師、看護師の需要が高まると思われる。

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 前回改定では、認知症患者が一般病床においても今後当たり前のように増えてくることを見越しての内容であった。言ってみれば「急性期でも認知症患者はきちんと受け入れてくださいね」というメッセージだったはずだが、そこに無理があったということだ。まずやってみて“おかしければ見直す方が良いのか、はじめから無理筋のものはやらない方が良いのか悩ましい問題である。

 

 この重症度・医療・看護必要度に関しては、入院診療点数の根幹、一般病床全ての病院の基本収入源である入院基本料に関わる大きな問題だ。

 前回も支払側・診療側が一歩も譲らずの、公益裁定による決着であった。今回も公益裁定で31%となったわけだが、こんなコメントである。

 

○「病床コントロールや看護師確保で頭が痛い」

 当院のような重症患者の割合をギリギリで維持していた病院、特に認知症やせん妄の患者さんのみを多くカウントしていた病院などでは、10対1の「入院料2以下」に変えざるを得ない。

 病棟のベッドコントロールや看護師の配置転換などで頭が痛い。

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 もしかすると国の意向通りに認知症の入院患者を取っていた医療機関は、今改定ではそれが“急性期医療”ではない、とされたことによる影響である。先ほども言ったが、前回改定ではこれは“急性期医療”と定義づけられていたのに である。果たして“急性期医療”とは、いったい何を指しているのだろう。

 

 というわけで“急性期医療”という呼称について思うところのコメントを紹介したい。

 

○日慢協会長:「中途半端な自称急性期病院は、急性期1から滑り落ちていく」

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は2月13日の定例記者会見で、2020年度診療報酬改定で一般病棟用の重症度、医療・看護必要度について「A・B・C項目の見直し」と「重症患者割合の基準値の引き上げ」が行われ、「中途半端な自称急性期病院にとって、該当患者割合31%以上にすることは至難の技となる」「心電図モニターを装着するだけでよかったのが、A項目のその他の条件をクリアし、2つ以上を満たさなければならなくなる」と分析。今後、急性期入院医療について、「自称急性期病院が該当患者割合を高く維持する事は不可能となり、自然に急性期一般病棟入院料1から滑り落ちる可能性があり、大きなポイントとなる」との見通しを示した。

 

○急性期病院の看護師:「急性期だからと言って、看護の質が高いとは思わなくなってきた」

 急性期病棟はスピード感を求められる場所であり、緊張感が高い仕事も多い。元気に退院していく患者さんばかりではなく、手の施しようがなく亡くなる方、後遺症が残る方もいる。そうした患者さんへの感情を引きずりすぎず、うまく切り替えができる人が急性期病院の看護師に向いているといわれる。看護大学を卒業して急性期病院に10年勤務しているが、近頃、回復期でも慢性期でも患者さんに対するケアには変わりはなく、急性期だから看護の質が高いとは思わなくなってきた。むしろ忙しくて、患者さんのケアが疎かになっているような気がする。急性期ありきの考えよりも、自分がしたい看護や向き不向きで職場を決めるべきだと思う。

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 療養病床群が生まれた頃なのか。「医療と言えば急性期こんなフレーズを耳にするようになったのはいつの頃からだったろう?看護師のコメントを耳にしてふと思った。

<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

 

 

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