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No.615 地域医療構想の構想区域で回復期病床は本当に不足?厚労省幹部が「地域医療構想で回復期不足は誤解」と説明

2017年11月15日

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「地域医療構想で回復期不足は誤解」、武田厚労省医政局長

 2025年にあるべき医療提供体制の姿として、今年3月末に全都道府県の策定が完了した地域医療構想病床機能報告・地域医療構想の病床比較は47都道府県合計で、①足元の病床機能報告(2015年度病床機能報告)は合計124.5万床(高度急性期16.9万床/急性期59.3床/回復期12.9万床/慢性期35.4万床)②これに対して、2025年の病床のみ必要量は合計119.1万床(高度急性期13.1万床/急性期40.1万床/回復期37.5万床/慢性期28.4万床)、③高度急性期+急性期で約30%縮減(過剰)の一方で、回復期は約191%増加(不足)-という結果となった(図1 地域医療構想の策定状況について)。各都道府県で問題となっているのが、病床機能報告制度と地域医療構想の将来推計の違い。単純に両者を比較した結果、各地域医療構想区域で「回復期機能の病床が不足している」との“誤解”が生じているとの指摘がされている。このため、地域医療構想実現を検討する各県の地域医療構想調整会議で、病床機能の調整がどこまで行えるのか不安や疑問の声があがっている。

 

 

 これを受け武田俊彦・厚生労働省医政局長は10月5日、厚労省と日本医師会の共催による社会保険指導者講習会で「地域医療構想の実現に向けて」をテーマに講演。その中で、地域医療構想の調整会議が進む中、「回復期機能の病床が不足している」との指摘がいまだあることから、「地域で誤解のないように議論を進めてもらいたい」と念を押し、病床機能報告の集計結果と地域医療構想の「病床の必要量」は単純に比較できるものではないと繰り返し注意を促した。「病床機能報告制度と地域医療構想の将来推計の違い」について武田局長は、病床機能報告制度は、地域において医療機関が「担っていると考える機能」を報告する制度である一方、地域医療構想の「病床の必要量」は、「2013年の個々の患者の受療状況をベースに医療資源供給量に沿って区分したもの」であり、地域における「4機能(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)ごとの患者発生量」であると説明した。特に各地域で多いのが、回復期機能を担う病床が少ないという誤解であると指摘。このため、厚生労働省医政局地域医療計画課は9月29日に、事務連絡「地域医療構想・病床機能報告における回復期機能について」を発出し、「現時点では、全国的に回復期を担う病床が大幅に不足し、必要な回復期医療を受けられない患者が多数生じている状況ではないと考えている」と説明を行ったことを報告した。

 

■厚労省が事務連絡「地域医療構想・病床機能報告における回復期機能」を発出

 厚労省が9月29日に都道府県に対して発出した事務連絡「地域医療構想・病床機能報告における回復期機能について」では、回復期機能は、病床機能報告制度で「回復期」を選択した病棟以外でも提供されているとし、今後は、各医療機関において「診療実態に即した適切な医療機能を報告する」「回復期の医療需要などが見込まれる地域では、各医療機関の診療実績や医療需要の動向を分析した上で、機能分化・連携を進める」ことが重要であることを強調した。

現状をみると地域医療構想における「回復期病床の必要量」と、病床機能報告で「回復期と報告された病棟のベッド数」とに乖離があるものの、厚労省は「回復期医療を受けられない患者が多数生じている状況ではない」「各構想区域で大幅に回復期が不足しているとの誤解が生じている可能性がある」と考えていることを明らかにしたわけである。

 

 事務連絡にはこれまで回復期機能について寄せられた質問に対しての回答も添えた「Q&A」もあり、回復期機能の病棟であっても、回復期リハビリテーション病棟入院料や地域包括ケア病棟入院料しか算定できないわけではなく、「いずれの医療機能を選択した場合であっても、診療報酬の選択に影響を与えるものではない」などと説明している。

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関係者のコメント

 

<日本医師会:「間違った認識を正すよう対応を強く要求した結果、厚労省が事務連絡を発出した」>

 日本医師会は10月2日、中川副会長と釜萢常任理事の連名で都道府県医師会担当理事宛てに出した事務連絡「地域医療構想・病床機能報告における回復期機能について」の中で、回復期機能については、全国的に病床が不足していないにも関わらず、「病床機能報告の集計結果」と「将来の病床の必要量」という性質の全く異なるものを間違って単純に比較することで、各構想区域で大幅に不足しているかのような誤解が生じていると指摘。9月15日の社会保障審議会医療部会などで、日医より厚労省に対して、間違った認識を正すよう対応を強く要求した結果、厚労省より事務連絡が発出されたなどと、今回の経緯を説明している。

 

<回復期転換検討中の民間病院事務長:「病床転換の財源確保が悩ましい」>

 回復期病床転換を検討している中小民間病院の事務長。「国による病床転換に係る支援制度には、急性期及び慢性期病床から回復期病床への転換支援制度である病床機能分化促進事業費補助金がある。新築・増改築で1床431万円、改修で1床333万円、設備整備に1施設1080万円の補助が出る。しかし、東京オリンピック・パラリンピックの影響で資材費・人件費が高騰しており、この補助金では賄い切れない。銀行の融資審査も厳しく、病床転換の財源確保が悩ましい」などと述べている。

 

<地域包括ケア病棟に転換した民間病院事務長:「事務部門にこそ転換ノウハウが必要と感じた」>

 今年7月に地域包括ケア病棟に転換した東北地方の中小民間病院の事務長。「1年以内に転換したいという病院長の指示は、事務職にとっては荷が重かった。リハビリテーションに関するノウハウは皆無、データ提出加算も初の試みであり、そもそもリハビリ部門がまったく整備されていなかった。機能訓練室の施設基準100平米が確保できる部屋がなかったが、リハビリ室は他の部屋と合算できることが分かり、改築を進め何とか10カ月で転換することができた。転換に関するノウハウは、診療部門ばかりでなく、事務部門にこそ必要であることを感じた」などと述べている。

 

<中小民間病院の事務長:「稼働率も地域包括ケア病棟に限れば8割以上を維持」>

 病床数60床のうち一般病床30床を地域包括ケア病棟に転換した九州地方の中小民間病院の事務長。「一般病床の時と比べ700万円の増収となった。転換は病院経営にプラスとなり、病床コントロールもスムーズになり、病床稼働率も地域包括ケア病棟に限れば、8割以上を維持している」と、地域包括ケアへの転換の効果を語る。

 

事務局のひとりごと

 

 

 この世の全てが「見える化」できて、あらゆる動きが統制されていれば、どれだけ分かり易いだろう。こんなことを考えたことは、誰だって一度や二度はあるのではないか。反面、そんな世界は面白くない世界なのかもしれない。

 

「人類の未来のためには完全に統制されたシステムこそが平和をもたらすのだ。」

「先が分からないから努力だってするし、希望も持つことができる。運命は自分で切り拓くものだ。」

 

 こんな対極の論理をぶつけ合う主人公と敵役が戦うフィクションを何度か見てきたような気がする。

 現実に話を戻す。地域医療構想の策定状況の推計では、2025年には回復期病床が不足する、という結果が出た、というのである。そうすると、厚生労働省により、それは誤解である、という事務連絡が発出された。

 実施に回復期病床が不足する医療圏ももちろんあるのだろうが、数字というのは使い方次第でどのような解釈もできるのだなあ、と思ってしまう。その県独特の風習や食べ物などを紹介する、ケンミン性を紹介する人気テレビ番組では、「狭い」とされる日本において、地域ごとに全く異なる顔を見せていることが、それを裏付けているのではないかとも思う。

 果たして、「病床機能報告制度」とは何なのか。これまで医療制度改革が7回行われ、多くの制度変更がなされてきた。それも、来るべき2025年問題の課題解決に向けた道筋ではなかったのか。膨大で詳細なデータを駆使して行われる議論の過程で、急性期とは?慢性期とは?というクエスチョンに対する明確な答えも得られないまま、もしかしたら筆者が後期高齢者を迎えても(1)まだ答えが出ないのではないか?そんな道のりの遠ささえ感じさせるテーマである。

 

病院経営者からのコメントを紹介したい。

 

○四国の民間病院長

「好景気時代の病院・病床増のつけが回ってきた」

 全国的に病床過剰と言われる四国のある県の民間病院長。「1970年代の全国的な好景気の時代に第二次産業が脆弱な当県では、医療機関が主な投資先となって、金融機関は医療機関の設備投資に好条件でお金を貸してくれた。その結果、全国的にも病床過剰な県となってしまった。今、そのつけが回り、病床削減か病床転換かで頭を悩ましている」と、病床過剰の県の実態を語る。

 

○地域包括ケア病棟を運営する病院長

「従来の急性期医療にとらわれない病床再編は、医師が新しい医療をやれる契機に」

 東京郊外で急性期病院と地域包括ケア病棟を運営する病院長。「地域医療構想の策定を契機に、日本の医療は大きく変わろうとしている。従来の常識が通用しなくなってきた今、従来の急性期医療にとらわれず、地域に合った地域包括ケア病棟や療養病棟などをつくることが求められている。地域包括ケア病棟では手術が出来高制になり、件数も増えてきた。地域包括ケア病棟に転換しても診療内容は急性期とあまり変わらない。高齢者等に対応したジェネラルと手術に対応するプロフェッショナルを使い分けられる医師が求められている。地域包括ケア病棟などへの医療再編は、医師が新しい医療をやれる契機にもなると思う」と、地域医療構想策定を契機とした病床再編を前向きにとらえて

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今回のテーマの大本である回復期リハ病棟を持つ病院経営者からのコメントを紹介したい。

 

○回復期リハ病棟に転換した病院長

「患者満足度は急性期と変わらない」

 昨年4月、急性期病床の一部を回復期リハ病棟に転換した民間病院長。「回復期や慢性期の医療であっても大きなやりがいはある。退院後の生活指導やリハビリテーションなど行うべき医療は多く、患者満足度は急性期と変わらないはずだ。むしろ、回復期リハの方が患者さんの声が直接届きやすいのではないか。急性期病院からはその実態が分かりにくいため、回復期や慢性期にシフトしにくいのではないか」などと、回復期リハ医療に対する理解が必要だと語る。

 

○ベテラン理学療法士に2名辞められた民間病院長

「リハビリスタッフの確保が大変」

 回復期リハ病棟を運営する民間病院長。「回復期リハ病棟を運営してよく理学療法士や作業療法士などリハビリスタッフから言われることが、回復期だと患者さんが良くなっていくのが見えてやり甲斐がある一方、仕事がきついとうことだ。病院の待遇によるが、365日体制で休みは不定期で、連休や正月やお盆にはまとまって休みを取りづらいのが現実だ。このため、今年になってベテラン理学療法士が2名辞めてしまった。彼らは、休暇が取りやすい公立病院に転職したようだ」と、リハビリスタッフの確保に頭を悩ましていると語る。

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 筆者が思うに、地域医療構想はその旗振り役の力量が問われるものだと考える。さらにその背景は公的な存在であることも必要があると考えている。つまるところ自治体である。地域の司令塔である自治体が手腕を発揮できなければそれは絵に描いた餅となりかねない。そういった意味で、奈良県では興味深い取組みを行っているようで、コメントを紹介したい。

 

○奈良県担当者(地域医療構想)

「地域医療構想の実現に向け、地域のデータだけでなく特性に合った課題解決策を」

 地域医療構想策定で回復期病床不足の推計が現場に混乱を招いている中、この問題を解決する方向性として注目されるのが、急性期機能と報告する病棟を「重症急性期」と「軽症急性期」に分け報告を求めている奈良県の取り組みだ。10月26日開かれた厚労省「地域医療構想に関するワークキンググループ」に参考人として出席した奈良県の林 修一郎・医療政策部長は、「病床機能報告制度で急性期と報告している病院であっても、重症の患者を積極的に受け入れている病棟と、主に軽症患者を受け入れている病棟とあり、両者は今後進むべき道が異なるのではないか。そこを明確にするために、一定の基準を設けて前者は『重症急性期を中心とする病棟』、後者は『軽症急性期を中心とする病棟』として細分化した報告を求めている」などと、奈良県の取り組みを紹介。その上で、厚労省に対し、「地域医療構想の実現に向けて、地域のデータだけでなく、特性に合った課題解決策なども提示してはどうか」と提案した。

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 このような取組みを行っている自治体は、しかし稀だろう。大方が議論の収拾がつかず、担当者は頭を抱えているのではないだろうか。

 とある省の、ある技官の嘆きとも取れるコメントである。

 

○本省から県に出向中の医系技官

 「一国の城主という上から目線で地域医療を考えて欲しくない」

 ○○省から○○地方の県の医療政策担当に出向中の医系技官。「地域医療構想調整会議の事務方を担当して感じることは、民間病院の経営者の中に、自身の病院第一と考える人が多いことだ。病床転換はまず、公的病院から進めるべきだと主張する一方で、自身の病院の再編となると抵抗する。高度成長期に診療所から病院へと拡張し、地域医療を担ってきたと自負する経営者が多い。一国の城主という上から目線で地域医療を考えて欲しくない」などと語る。

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 先のフィクションドラマでは、「未来が分からない(つまり自由)からこそ面白い、だから生きる意味があるんだ!」という、妥当といえば妥当な考え方の主人公が勝利して大団円を迎えるパターンが多い。その方がより視聴者の共感を得られることだろう、ともちろん思う。

 翻って、医療提供体制における現在の状況はどうか。多くの共感を得られるであろう、先の主人公の考え方よろしく、各医療機関の自由を尊重してきた結果、もたらされた実態なのだろうか。IoT(※2)が新聞紙面やニュースで盛んに、さも当たり前のように喧伝されているのを横目に見ながら、本文中にもあった、データと事実との乖離を思うにつけ、ついつい考えてしまう。事実は小説よりも奇なり。

 

 2018年度の診療報酬・介護報酬同時改定まであと半年を切った。改定率の議論も年末に向けて大詰めを迎えることだろう。先の衆院選では自民党の圧勝に終わった。果たして、国民が選んだ(というより選択肢がなかったとも言えなくもないが)政権のだす道筋は如何に・・・。

<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

(※1)・・・あと約30年後。答えは出ていなくても、その時の結果が答えなのだろう。

<筆者>

 

(※2)・・・Internet of Things あらゆる物がインターネットを通じてつながることによって実現する新たなサービス、ビジネスモデル、またはそれを可能とする要素技術の総称。

<コトバンクより>

 

 

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