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No.613 武久日慢協会長、一般病床・療養病床の区分を廃止し看護配置による入院基本料を提言

2017年10月15日

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看護師数で5対1~20対1の4段階、介護医療院は30対1と40対1に分類

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は9月14日の定例記者会見で、現在の一般病床・療養病床の区分は廃止し、病院病床を看護師などの数によって5対1~20対1の4段階、介護医療院は30対1と40対1に分類することを提言した。

 現行の「高度急性期」「急性期」の機能区分について、「一般病棟にも慢性期患者が多数入院していることは周知の事実」「高齢化が進むわが国で、一般病床が療養病床の3倍近く存在することは異常である」「療養病床にも重症患者・救急患者が多く入院している」などと問題点をあげ、「一般病床と療養病床に分類しておく必要はない」と指摘

 都道府県単位、あるいはそれ以上の広域から患者を受け入れ、高度急性期医療を提供し、5対1・7対1の手厚い看護配置をする「広域急性期」、中学校区単位の地域から患者を受け入れ、10対1・13対1看護配置をする地域包括ケア病棟(回復期病棟の一部も地域急性期に該当)を有する「地域急性期」、回復期の患者を受け入れ、手厚いリハビリを提供し、10対1・13対1看護配置をする「回復期リハビリ病棟」を有する「回復期」、重症の慢性期傷病患者を受け入れ、日常生活復帰を目指した手厚い治療を提供する「慢性期」、看取り機能を持ち30対1の看護配置の介護医療院1-1と住宅型で40対1の看護配置の介護医療院1-2である「介護期」の区分を提言した(図1)。

 

 

 このうち、慢性期については、「25対1がやがて廃止されて15対1、20対1の療養病床。慢性期で必要な病床は、きちんと治療できる病床、すなわち慢性期治療病棟である」との考えを示した。武久氏はその理由として、一般病床にも多くの慢性期患者がいる一方、療養病床でも救急患者を受け入れるなど急性期的な機能を有することをあげ、「一般病床と療養病床の区分はもう既になくなって存在価値がなく、むしろ弊害の方が多い」と指摘。

 

 さらに、武久氏は新設される介護医療院について、「単価の高い一般病棟から介護医療院への転換が進めば医療費が少なくて済み、財務省の思惑に合致する。医療費の総額を削減しなければならない現在、一般病床を介護医療院へ転換することによる医療費総額の減額は、日本にとっては願ってもないチャンスである」などと述べた。

 

■ 医療療養の光熱水費負担見直し、一般病床と療養病床に差別

 また、同席した日慢協の池端幸彦副会長は、今年10月から医療療養病床の65歳以上入院患者の光熱水費負担が引き上げられることに触れ、「一般病床に入院している患者については負担がなく、一方で面積も広く居住環境が良い療養病床について1日370円、月に約1万円を支払うのは不当な差別だ」と、一般病床と療養病床の差別が存在することを指摘した。

 池端副会長は、①医療区分Ⅰの患者では1日370円、医療区分Ⅱ・Ⅲの患者では1日320円と設定されているが、医療区分は毎日チェックし、一定割合の患者で医療区分が変わるが、負担額はどのように考えるべきなのか、②見直し根拠として「介護保険施設入所者との整合性」をあげているが、医療療養病床は病院では介護保険施設ではない、③同じ地域包括ケア病棟・回復期リハビリ病棟でも、一般病床であれば光熱水費は無料、療養病床であれば有料となるのであれば、あまりにも不公平である-といった疑問点を提示。日慢協として、近く厚労省に「一般病床と療養病床とのあまりの不公平は是正すべき」と抗議することを明らかにした。

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関係者のコメント

 

<全国平均倍の病床数の県課長:「地方では、高度成長期に医療産業以外に有力な産業が
なく、病院病床が急増し、現在に至っている」>

 当県は、10万人当たり病床数が全国平均の倍といわれる過剰病床で、療養病床も倍と過剰となっている。なぜ、病床数が過剰になったというと、昭和50年前後の高度成長期に医療産業以外に有力な産業が育たなかった。当時は銀行の有力な投資先が病院など医療分野に限られ、病院の新設や病床増設に対して無審査で融資してくれたと病院団体の幹部は語っている。その病床増設が今に至り、今年3月末に策定された地域医療構想で2025年に予想される病床は、回復期病床を除き、すべて必要病床数を大きく上回っている。

 

<全日病医療保険・診療報酬委員会副委員長:「入院基本料は極力いじらないように要望していくことを検討」>

 9月9日に金沢市で開かれた第59回全日本病院学会の診療・介護報酬同時改定をテーマにしたパネルディスカッションで、入院基本料を看護配置による評価から患者の状態に応じた評価に見直すことについて、方向性は支持できるものの、次回改定での実施は避けるべきとの声があがった。

 太田圭洋・全日病医療保険・診療報酬委員会副委員長は、「患者の病態を評価するところを目指す方向性は悪くないが、今回は極力いじらないように要望していくことを検討していかなければならない」と主張。座長を務めた猪口雄二全日病会長も、「2018年度改定までに全く流れを変えるということはあり得ない。データを蓄積して指標を作っていくのがいいと思う」とコメントした。

 

事務局のひとりごと

 

 

 衆議院解散で急に政局が慌しくなってきた。色々な意見が取り沙汰されているが、解散権は総理大臣の専権事項だ。衆議院の任期満了である4年間で、政権の安定はもちろん皆の望むところ(?)なのだろうが、いつ解散になるかが見通しがつけば、それはそれで準備を整え易い。解散時期の予測を立て易いほど、それは野党にとって有利に働くことになるのだろうか。

前回の政権(だけ)交代の時には、介護療養病床群廃止については結局厚労省が「笛吹けど」「踊らず」の結果であったわけだ(※1)。今回は果たしてどうなるのだろうか。お役所の思い通りにことが進むかどうかはこれからにかかっている。

 

 今回のテーマは、病床に「急性期(一般)」も「療養」もない、配置基準だけで区分すればよいのでは?という、とても分かり易いが波紋も呼ぶであろう提言についてとり上げた。それぞれの区分の病床群において意見が分かれることだろう。

 

病院経営者からのコメントを紹介したい。

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○ 北陸地方の病院経営者

 「自院の病床機能の報告は自己申告。しかし、自院の立ち位置をよく認識すべき時が来た」

 世の中の病院の大部分は、「自院の病床機能は『急性期』だ」「うちは『慢性期』だ」と勝手に主張しているように感じる。自己申告なので、どう主張してもそれはいいのだが、世の中の病院がみんな手術したがったり、長期療養ばかりしたがったりしていると、リハビリする病床がなくなってしまい、せっかく病気が治っても家に帰れない、ということになってしまう。自院の立ち位置をよく認識した上で、地域でどのような医療を提供していくのか真剣に考える時期に来ていると思う。

 

○ 地域医療構想で療養病床が必要病床の倍以上過剰となった県の中小病院長

「制度はコロコロ変わり、残るのは借金。国の姿勢に怒りを感じる」

 借金をして介護療養病床にしたら、10年で制度がなくなるとは…。当時は銀行が介護療養病床の増設にどんどんお金を貸す時代だったが、逆に近隣に同様な病院ができ、競争が激しくなり、残ったのは借金。国から医療機関、患者に十分な説明がないまま、制度はコロコロと変えることに怒りを感じる

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 介護療養病床群廃止については、各医療機関におかれては言いたいことが山ほどあるとは思うのだが、最も特徴的なご意見である。

 

 療養病床は医療療養病床と介護療養病床に分かれているが、実質的に特別養護老人ホームや老人保健施設の待機場所となっており、必ずしも医療を必要としない多くの高齢者が入院している。その曖昧さをなくし、介護と医療の役割分担を明確にすることを目的としている事はよく理解できる。

 そもそも療養病床は、高齢者のためだけの病床ではなく、末期がんや難病等、長期的に入院加療が必要な患者のためのものであり、基本的に介護保険ではなく医療保険が対応すべき分野であり、介護療養病床を廃止し、医療療養病床についてもその入院基準を明らかにする事は方向性としては納得できるものだし、社会保障費の公平利用という観点からも重要な事だと考える。しかしながらその急激な変化は、これからの高齢者にも大きな負担を強いるものになると考える。

 時代の流れと言ってしまえばそれまでかもしれないが、そもそも療養病床(療養型病床群)の制度は1993年の医療法改正で誕生し、それからわずか10年程度経過した2003(平成15)10月に「一般病床か療養病床かどちらかを選べ」と選択を迫られ、改装して療養病床にしたばかりという病院も多いはずだ。やはり、「はしごを外された」感は否めない。その時点からビジョンが明確に示されていればと感じておられる病院も決して少なくないだろう。

 

 ドクターXのような凄腕医師は、ドラマの主人公としても見栄えする。古くは白い巨塔の財前教授も急性期医療のトップを走る「天才外科医」という設定であった。「医療」といえば「急性期」。この考え方も当然、医療界の、特に年齢が若い医師であればあるほど思われることだろう。急性期病院ならたくさんの症例をこなし、自らの腕を磨くことができる(※2)。医師は命を救う存在でもあるが、ある意味「探求者」である。上へ上へ、と高みを追い求めていくという本質も決して無視できない。

 ただ、少子高齢化が進展している我が国において、急性期医療こそが、これからの我が国の大半の高齢者が必要としている医療なのか?高齢者が増えれば、対応すべき医療の内容も変化していくべきなのか?

 これについて興味深いコメントを紹介したい。

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○ 療養型病院の勤務医

 「積極的な治療が必要なケースが少なくない。ジェネラリストとしての臨床能力が得られる」

 療養型病院には、急性期病院や回復期リハビリテーション病院を経たものの、在宅での療養が難しい方、神経難病で長期入院している方、がん末期などでターミナル期を迎えている方などが入院している。勤務医の仕事は入院患者の全身管理が中心だが、積極的な治療が必要なケースも少なくない。「10年以上入院のケースもあるが、最近は徐々に病状が重い方が増えており、結果的に入院期間は短縮化の傾向にある。早め早めに対応しなければ悪化するので、勤務医にはジェネラリストとしてのしっかりとした臨床能力が得られる」と、勤務医が療養型病院で得られる臨床能力は高いと前向きな姿勢を示す。

 

○ 療養型病院常勤の神経内科専門の女医

 「療養型病院は、子育てと常勤の両立ができる。専門の神経内科のキャリアも生かせる」

 千葉県の療養型病院常勤の神経内科の女性医師3歳児の子育て中。大学院修了の春に出産した際、子育てしながら仕事を続けるにはどうしたらよいかを相談したのが大学院在学中から非常勤を務めていた同院の院長だった。幼児期は子供が発熱すると保育園から連れて帰るように電話が入るため、突発的な早退をある程度認めてくれる職場でなければ常勤は難しい。院長からは、少々であれば早退にも柔軟に対応するとの提案があり、常勤医になることを決めた。実際勤めると、残業、当直、オンコールがほんどとない。女性医師は、「療養型の病院というと、定年退職後の勤務医の勤め先というイメージが強いが、子育ての女性医師の職場として最適ではないかと思う。高齢者の患者さんが多いことから、専門の神経内科のキャリアも生かせる職場である」と語る。

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 1億総活躍社会においては、女性は貴重な戦力であり、それには子育て中の女性も当然含まれる。であればこその「保育」に対する強烈な国の支援(ようやく)の機運が高まっているわけだ。「医療」といえば「急性期」。このフレーズに何らかの変化が訪れることも予見されるコメントである。

 

 「自らの立ち位置を確認して」というフレーズは、「地域医療連携」が叫ばれた頃、各地の医業セミナーにおいてよく耳にしたものだ。その重要性が、いよいよ問われてくるのだろうか。医業コンサルタントからのコメントを紹介したい。

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○ 医業コンサルタント

「現時点の自院の経営診断、見える化を」

 介護療養病床については、度重なる延長措置と現実に多くの患者に必要とされているという現場の声からもわかる通り、国の方針と医療現場との意向が十分に合致しておらず、まだまだ方針が定まっていないという印象を受ける。現時点でできる唯一効果的と思われる対策は、当たり前のことだが、「現時点の自院の経営診断に尽きるといえる。現時点で自院がどのような状況にあるか、将来どうなりたいか、そのために何が足りないか、そのために何をすべきかを一つ一つ見える化し、明確化し、共有していくことが重要である。

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 筆者には至極まっとうに聞こえるコメントであるが、前出の北陸地方の病院経営者のコメント、【「自院の病床機能は『急性期』だ」「うちは『慢性期』だ」と勝手に主張しているように感じる。】と仰っておられる背景から推察するに、このコンサルタントのコメントは、そのような動きがまだまだ「途上」にあるということなのだろうか・・・。

 筆者がこの提言において論点としてもうひとつ考えないといけないと考えるのは精神病床である。この問題についても、コメントがある。

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○ 武久日慢協会

「精神病床を内科、慢性期病床に転換してはどうか」

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は昨年6月30日の定例記者会見で、急増する認知症患者への対応策に言及し、「精神病床を内科、慢性期病床に転換してはどうか」と提案。認知症の治療病棟を充実させる必要性を指摘した上で、「精神病棟を一般病床に変え、そこに内科と精神科の医師がいて、適切に治療できるような病棟にすべき」「身体合併症の多い認知症の場合は、精神保健指定医と総合診療医の2つの科で共診することが最良の方法」などの考えを示していた。

 この考え方を反映し、今年7月13日に日慢協が厚労省に提出した「平成30年度診療報酬改定に向けて」の要望書では、「認知症患者のケアに向けた新たな体制整備」として、「現在、認知症治療病棟は精神科病床に限定されている状況であるが、今後の認知症患者の増加を考えると、一般病床や療養病床を含めた、総合的な認知症ケアの仕組みが必要である。精神科の標榜の有無にかかわらず、認知症治療に力を入れている医療機関に対して、実績に応じた重症度による評価をしてはどうか」との要望を示した。

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 最後に、このような「枠組みの議論」においてはいつも取り残されてしまう利用者(代表)のコメントを紹介して締め括りとしたい。

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○ 厚労省審議会での光熱水費負担を巡る患者側有識者の意見

 「利用負担の公平性や、医療保険と介護保険の整合性を図っていくことは必要だが、医療と介護の性格は違う。医療は予見性がなく、治療の必要性についての患者の自己決定性は低い。光熱水費負担を求めるか否かは慎重な議論が必要」(法政大学経済学部教授 菅原琢磨氏)。

「施設から施設に移った場合に、負担額に大きな差を生じさせず、利用者がスムーズに受け入れられるようにしてもらいたい」(NPO法人高齢社会をよくする女性の会理事長の樋口恵子氏)

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「広域急性期」、「地域急性期」、「回復期」、「慢性期」、「介護期」 病床区分がこの5つだけに収斂していくのだろうか?この議論の行く末や如何に?

<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

(※1)・・・「介護療養型病床群廃止」の経緯やこのテーマの話の流れについては、是非、バックナンバー 2016年7月号 「No.583 介護療養病床の『新たな移行先』として3類型をもとに論議」  や、2017年3月号「No.599「介護医療院」!! 介護療養病床からの新たな転換先」先月号「 No.611 介護療養病床からの転換が最優先。介護医療院の報酬議論スタート!!」参照頂きたい。

<WMN事務局>

 

(※2)・・・大好評のうちに終了したコード・ブルー(ドクターヘリ)の救命医たちももちろん「急性期」だ。「いのち」(三田佳子主演)のようなドラマ(いつものことながら古いか?)は、最近出てこない。「Dr.コトー診療所」は慢性期、というよりは「僻地医療」がテーマだしなぁ・・・

<筆者>

 

 

 

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