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No.597 「高齢者」は75歳から、65~74歳は「准高齢者」。制度改革に影響及ぼす?老年学会・老年医学会の提言

2017年02月15日

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■10~20年前に比べ5~10歳「若返り」、75~89歳を「高齢者」に

 日本老年学会と日本老年医学会は1月5日、「高齢者は75歳以上」と定義するよう「高齢者に関する定義検討ワーキンググループからの提言」を発表した。提言では、「65歳以上とされる高齢者の定義に医学的・生物学的な根拠はなく、特に前期高齢者には若く活動的な人が多く、定義に違和感がある」と指摘。高齢者の心身の健康に関するデータを検討した結果、「10~20年前に比べ、5~10歳程度若返りが生じている(加齢に伴う身体機能変化の出現が遅れる)」ことが判明したとし、①65~74歳:准高齢者・准高齢期(pre-old)、②75~89歳:高齢者・高齢期(old)、③90歳以上:超高齢者・超高齢期(oldest-old、super-old)と定義するよう提言した。

 この提言内容は、内閣府が行った「高齢者の日常生活に関する意識調査」で、70歳以上あるいは75歳以上を高齢者と考える意見が多かったとも合致している。

 

 両学会は、高齢者の定義と区分を再検討することの意義について、①従来の定義による高齢者を、「社会の支え手」でありモチベーションを持った存在と捉え直す、②迫りつつある超高齢社会を明るく活力あるものにする-ことであると強調。その一方で、「高齢者の身体機能の改善が今後も続くかは保証されておらず、改めて次世代への健康福利の啓発が必要である」とも指摘している。

 

■高齢者医療制度発足時から迷走した「後期高齢者」というコトバ

 医療分野では75歳以上を対象とした「後期高齢者医療制度」が2008年に施行され、これに先立って介護分野では、65歳以上を実質的な給付対象とする「介護保険制度」が稼働している。

 そもそも「後期高齢者」という名称で、後期高齢者医療制度は発足時から迷走した。2008年4月の制度施行を目前に控え、「後期高齢者」という名称に対して多くの批判が集まったため、制度施行初日の閣議で福田康夫首相(当時)は「長寿医療制度」という通称を使うように指示。その後、2008年5月23日に民主党・共産党・社民党・国民新党の野党4党が参議院に後期高齢者医療制度廃止法案を提出され、6月6日に野党の賛成多数で可決。衆議院では継続審議となり、その後、政権交代を経て、2013年の社会保障改革制度改革国民会議の報告書、2016年の政府の経済・財政再生計画などを受け、「負担能力に応じた公平な負担、給付の適正化」の観点から、医療保険制度改革、介護保険制度改革が進められている。

 75歳以上を「高齢者」とする学会の提言が、65歳以上を「支えられる側」として設計されている社会保障や雇用制度の在り方に関する議論、さらに医療保険、介護保険の負担と給付のあり方に影響を及ぼす可能性は少なくない。

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関係者のコメント

 

<塩崎厚生労働大臣:「高齢者定義引き上げは、慎重に議論すべき」>

 塩崎恭久厚生労働大臣は1月6日の閣議後の記者会見で、「社会保障制度における年齢の定義を見直すことは、企業の雇用慣行や国民の意識も踏まえ、慎重に議論すべきだ」と述べ、その上で、引き続き高齢者の就労促進などに取り組む考えを示した。

 

<学会提言に反対の高齢者:「年金制度の改悪に利用されかねない」>

 元気な高齢者がいる一方で、身体能力が低下している高齢者もおり、一概に75歳以上を「高齢者」とすべきではない。ここ数年、「年金制度の改悪」が続いている。むしろ、今回の学会提言を「悪用」して、年金支給開始を75歳以上とすることが心配だ。

 

<学会提言賛成の現役会社員:「75歳で重たいバーベルをあげる元気な高齢者もいる」>

 学会提言に賛成だ。私が通うスポーツジムでかなり重たいバーベルを上げる元気な老人がいる。話を聴くと、今年で75歳、毎日ジムに通って身体を鍛えているそうだ。社会保障制度において、65~70歳の高齢者は「支えられる側」という発想は変えるべきだ。

事務局のひとりごと

 

以前、WMN559号「日本の高齢者は若返った!?」(https://www.watakyu.jp/medicalnews/3179

で取り上げたが、日本老年学会と日本老年医学会が「高齢者は75歳以上」と定義付けようとの提言を発表したそうだ。

  立って乗っていた電車が目的の駅の途中の駅に到着し、降りる人が椅子から立ち、その椅子が自分の近くだったので座ってみた。と、今度はその駅から乗ってきた「がやがや」とした高齢の女性の一団が「あら、いっぱいで座れないわ・・・」などとみんなに大声で言う光景に直面した(※1)。

 今回提言されているあらためて高齢者と定義された75歳の諸先輩からすれば、まだ「ヒヨッ子」に過ぎない筆者としては、そういった声が聞こえたり、それらしい方が近づいてこられたら、「どうぞお座りください」と席を譲るようにしているが、それをやると「そんなに年寄りじゃない!」と憤慨する方も稀におられるようで、かえって気を悪くされかねない。先のような自らアピールする方には「どうぞ」だが、そうでない方に対しては何も言わず電車の出入口の方に立ち去るようにしている。というより、普段電車では、ほぼ座らないようにしている(そこまで卑下しなくても良いのかもしれないが)。

 自分がそういう考え方でいると、優先座席に堂々と座っている若い方々(小児まで行かない若さ)で、しかもスマートフォンを使用している光景を見ると若干の憤りを禁じ得ない(※2)。

 「75歳以上が高齢者」という提言について、色々な立場の方々からのコメントを紹介したい。

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○都内在住の企業経営者(60代) :「せめて「後期中年」と呼んだら」

 「高齢者の定義75歳以上」の見直し論議は老年医学会が大分前から取り組んでいたことで、こうした方向は予測していた。

 しかし、年金支給年齢を直ちに先延ばしにするわけではないと厚生労働大臣は言っていた。だが、現実の社会保障財政から見て、今後介護財政の自己負担額のアップは止められそうにない。ただし、いきなり年金支給は75歳からということにはならないだろう。今、60~64歳の人も、需給を74歳まで自由に引き延ばせる。

 今後間もなく2割負担の人も3割になる。64歳以上のサラリーマンを含めて、医療費負担はかなり増加する。特に大企業の保険料負担額は大きくなり、全般に国民にとっては厳しいプレッシャーとなるだろう。

 だが最近、統計的にいうと個人差はあるものの、高齢者の体力は総じて若返っている。そんな折だからこそ65歳~74歳を準高齢者というのは、むしろ乱暴な話である。

 せめて「後期中年」などと呼んだらファイトも湧くのではないか。

 

○高齢の元編集長の声:「すこしだけほっとしている」

 高齢者の定義を変え、年齢構成が変われば高齢化率が変わる。国のデータが医療費削減や、介護の予防給付費削減に利用されている。先ごろは要支援1、2の介護給付が、地域支援事業に移された。社保審の反対論がかなり強かったにも拘わらず、である。

 日本の労働生産性の伸び率は低くない。一人当たりGDPが今後も毎年1%成長すれば、超高齢・少子社会は維持できるという。

 日本の医療費は、対GDP比でOECD加盟国中、最近第3位になり、加盟国の高齢化率の違いを補正すると、日本は「高医療費国」とはいえないとのこと。これは医療・福祉関係者を含めて最近まん延している悲観論が一面的であることを示している”とある有識者は語っている。ことほど左様に、国などから発表される施策を鵜呑みにしないことだと思う

最近、高齢者は見捨てられた!と悲しい覚悟をして生活していたが、すこしだけほっとしている

 

 ○若い世代の声:「元気な高齢者と職探しで争うという最悪のシナリオも」

 高齢者の定義75歳以上」の見直し論議とともに、気になるのが、国が進める高齢者の就労促進だ。「2045年、シンギュラリティと呼ばれる人工知能が人間を超える日が来る」、さらに「2030年には、AI(人工知能)の進展で人口の1割しか働けない」というショッキングな予測がある。今後、元気な高齢者と職探しで争うという最悪のシナリオが予想されるのではないか。

 

 ○ある社会保険労務士の声:「高齢者定義見直し提言は、確定拠出年金法改正に合わせ、余りにもタイミングが良すぎる」

 確定拠出年金法が改正され、今年から専業主婦でも国民年金とは別に自ら保険料を払う確定拠出年金(※3)に加入できるようになった。併せて、雇用保険の対象が拡大され、65歳以上でも職を失えば失業保険を受給できるようになった。これは、公的年金受給年齢開始を遅らせたいという財務省をはじめ政府の思惑がある。学会の75歳高齢者の定義見直し提言は、余りにもタイミングが良すぎると思う。

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 「人間の定年というのを、そろそろ考えないといけない」「日本人の平均寿命はこの70年間で30年延びた。その頃に作った制度と今のとでは、当てはまらなくなるのは当然だ」「高齢者でも働けるということを真剣に考えなければならない

 高齢者の定義の見直しや働き方改革を検討すべき、というこの見解は財務大臣によるもの。自身が76歳で大臣として働いていることを引き合いに、現行の問題点を指摘しつつこうコメントされたという。   

「76歳の」麻生財務大臣 昨年12月22日の閣議後記者会見にて

 

 今回の提言の背景に何があるのか、筆者には見当もつかないが、高齢者の方々と電車の椅子だけでなく、仕事まで奪い合いになる時代がやってくるのか、それとも、「奪い合い」というよりは、「現役」も「引退」も関係なく老若男女を問わず、この国をみんなで支えていかなければならない時代がやってくるのか。否応なく答えが分かる時が、刻一刻と近づいている。


<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

(※1)・・・「みんな」とはその一団になのか、座っている人たちになのか、判然としない。

(※2)・・・「僕たちも(私たちも)疲れているんだ(のよ)。」「先に座ったのはこっちだ」「席を譲ろうとするなんてそんなのは偽善だ」など、若い方々にはきっと若い方々の言い分もあることだろう。

(※3)・・・話は変わるが、筆者は今年に入ってこのコメント中にある「個人型確定拠出年金」に加入の手続きをした。筆者は企業年金基金に加入しているため(確定給付型)、現在は上限が12,000円/月が掛け金の上限だが(年間144,000円)、一般財形貯蓄を行うよりも、仮に運用しなくても税制上のメリットがあるそうだ。これからは元気でい続ける限り「引退」という2文字はなさそうなので、将来の収入源を今から少しずつ自分で考えていく必要があるのだろう。


<WMN事務局>

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