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No.596 大学病院長の「管理運営権限」、医療法で明文化へ。 厚労省が社保審に、大学病院のガバナンス改革を提案

2017年01月15日

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女子医大病院、群馬大病院の医療事故がきっかけ

 東京女子医科大学病院や群馬大学医学部附属病院などでの医療事故をきっかけに、大学病院のガバナンスが問題となっている。厚生労働省は、2016年12月8日開かれた社会保障審議会(社保審)医療部会に、大学附属病院等のガバナンス改革の一環として、「管理者(院長)が医療機関の管理運営権限を有すること」など、3項目を医療法に規定する改正案を提案。会議では特定機能病院についての改正案は了承が得られたものの、それ以外の医療機関に関しても、「管理者(院長)の権限」を規定することは、これまで議論した経緯がないことから、手続き的に問題視する意見が相次ぎ、改めて議論することになった。

 

 大学病院長の「管理運営権限」を医療法で明文化することなったのは、2014年2月に東京女子医科大学病院、2010年から2014年にかけて群馬大学医学部附属病院で発生した医療事故がきっかけ。社保審で審議が行われ、両病院とも2015年6月に、特定機能病院の承認が取り消された。大学病院の相次ぐ医療事故を受け、厚労省は2015年4月に「大学附属病院等の医療安全確保に関するタスクフォース」を設置。同年6月から9月にかけて特定機能病院に対する集中検査を実施し、11月に「特定機能病院に対する集中検査の結果及び当該結果を踏まえた対応」として報告をまとめた。これらの議論を踏まえ、2016年6月10日に医療法施行規則を改正、特定機能病院の承認要件に、「医療安全管理者の配置」や「監視委員会による外部監査」などが加わった。

 

一方、ガバナンス改革については、2016年2月に「大学附属病院等のガバナンスに関する検討会」を設置。9月に(1)病院運営に必要な指導力を発揮し、医療安全等を確保できるよう、病院内外に対し、病院の管理運営に係る職務権限を有することを明確化、(2)医学部との権限、運営上の関係等も含め、病院の管理運営のために必要な一定の人事・予算執行権限をすることを明確化-などを盛り込んだ取りまとめを行い、2016年12月に公表した。管理者(院長)の資質として、医療安全管理業務の経験などを求めるほか、選考に当たっては、透明性が確保されるよう、外部有識者も含めた合議体で審査するなども求めた。

 

■現行医療法では、管理者が責任を持ち病院を運営する規定が欠けていた

 これらを踏まえ、厚労省が12月8日の社保審医療部会に、高度かつ先端的な医療を提供する使命を有する特定機能病院においては、高度な医療安全管理体制の確保が必要であること、管理者(病院長)が医療機関の管理運営権限を有すること、特定機能病院の開設者は、管理者が医療安全管理等を適切に行うことを担保するための体制確保に責任を有すること(当該規定に基づき管理者の選考方法等について省令を改正)-とする医療法改正案を提示したもの(図2 大学附属病院等のガバナンス改革について(イメージ))。

 

 

現行の医療法では、管理者の責務は規定されているものの、管理者が責任をもって病院を運営するという規定が欠けていたため、管理者の管理運営権限を明文化する。

 

 12月8日の医療部会では、厚労省当局が、「管理者が管理運営権限を有すること自体、特定機能病院に限ったことではない。特定機能病院に限らず規定することが考えられる」との見解を示したのに対し、日本医師会の中川副会長が特定機能病院以外にも広げることを問題視。これに対して厚労省側は、「法律上、特定機能病院に限って、管理運営権限を規定することが、法制的に可能かという問題もある」と説明したが、他の委員からも特定機能病院以外に広げることは唐突との意見が相次ぎ、厚労省側は改めて検討することになった。

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関係者のコメント

 

<厚労省担当者:「日々管理者が果たしている役割を、医療法上で位置づけるという意味」>

 病院長の管理・運営権限について医療法の明文化する理由について、12月8日の社会保障審議会医療部会で厚労省医政局の中村総務課長は、「管理者には管理運営権限がある。日々管理者が果たしている役割について、医療法上で位置づけるということである」と説明している。

 

<大学病院院長:「病院長の権限を明確化した方が仕事はやりやすくなるのは事実」>

 大学病院の病院長は、学長らが病院長を選考し任命する。学内教職員による意向投票(予備調査)を行い、候補者を推薦してから選考会議をする場合が多い。このため、大学の理事会が人事や予算の決定権を握り、問題が起きても病院長が迅速な対応がしづらい。厚労省の「大学附属病院等のガバナンスに関する検討会」にオブザーバーとして参加した千葉大学医学部附属病院長の山本修一院長は、「病院長の権限を明確化した方が仕事はやりやすくなるのは事実」と述べている。

 

<国立病院機構理事長:「特定機能病院の管理運営権限の明文化は必要」>

 大学附属病院等のガバナンスに関する検討会のメンバーの一人の楠岡英雄・国立病院機構理事長は、「一般の医療機関では当然、管理運営権限があるという不文律でやってきたが、特定機能病院については明文化する必要がある」と、大学附属病院など特定機能病院での相次ぐ医療事故を踏まえ、管理運営権限の医療法での明文化は必要であると強調した。

 

<企業監査を行う公認会計士:「組織のトップにとって、給与や配置を決定する人事権は不可欠」>

 企業監査を行う立場から「大学附属病院等のガバナンスに関する検討会」の構成委員として参加した日本公認会計士協会の梶川 融副会長は、「組織のトップにとって、給与や配置を決定する人事権は不可欠。病院は非営利で、全体として専門性の高い職業の組織だが、診療科ごとの専門性も高く、セクショナリズムに陥る危険性がある」と指摘している。

 

<ガバナンス検討会の患者代表:「大学病院の院長が権限を持つ仕組みづくりは必要」>

 特定機能病院に対する集中検査のヒアリングに同行した経験から、「大学附属病院等のガバナンスに関する検討会」構成委員であるNPO法人ささえあい医療人権センターCOMLの山口育子理事長は、「大学病院には母体が医科大学と総合大学がある。理事長や学長が医学系出身の方は、病院に対しての理解がある。しかし、多学部の場合は、理事長や学長が、医学系出身でないと、必ずしも病院のことをよく知らない。院長が権限を持って動けるような仕組みづくりが必要ではないかと思う」と述べている。

 

事務局のひとりごと

 

 本文中のさまざまな立場の方々のコメントを見ていると、大学病院の運営はとても難しいのだろう、ということが見えてくる。これだけの人が「そうした方が良いだろう」という考え方が主流を占めているにもかかわらず、ガバナンスを取りづらい「構造上の何か」が、この問題に含まれているのだろう。大学病院とはつまり「特定機能病院」と言い換えても過言ではない。現在、一部例外もあるがDPCに関連していうならば「Ⅰ群」に属する病院群だ。

 

 日本医師会の中川副会長が特定機能病院以外にこの適用を拡大しようとしたことを問題視という表記が本文中にもあった。厚労省担当者のコメント「日々管理者が果たしている役割について、医療法上で位置づけるということ」にもあったように、お役所からすれば、「いつもなさっていることを明文化するだけなのですよ」なのだろうが、そうも行かないようだ。

 確かに、民間病院における医業経営は、大学病院に比較して「経営」の視点は高い部類にあるだろうから、あえて明文化せずとも、それ故にガバナンス上の何らかの問題に発展する可能性は高くないだろう。もしあったとすれば、それはガバナンスを持った経営層に由来する何らかが原因となっていた場合であろうから、これは一般企業における不祥事とあまり変わらないともいえる。であるから、「特定機能病院」に限り、法制的に可能であれば、丸く収まるのかもしれない。

 ただ、そこは霞ヶ関。これを契機として、多くの病院のガバナンスにも「明文化」を錦の御旗にして、コントロールをしたいと考えているのかもしれない。「いつもなさっていることを明文化するだけなのですよ」なのだから・・・。

 最後に、このテーマに関して、医療ジャーナリストのコメントを頂戴したので紹介したい

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◎医療ジャーナリスト:大学病院の形式的な「医療安全管理者の配置」だけでは、医療事故を予防できない

 群馬大学病院の医療事故では、腹腔鏡手術で死亡例が相次いだものの、4年間もの間容易に明らかにならず、対策が遅れた。その背景には、「大学病院という権威勾配があり、相互に意見を交わせる雰囲気がなかった」と、長年、医療事故問題を取材している医療ジャーナリストは指摘する。その上で、「多くの大学病院では病院長直属の医療安全管理者が配置されているが、多くが形式的で機能していないのが実情ではないか。大学病院など特定機能病院ばかりでなく、一般病院を含め、医療法で管理者が医療安全管理等を適切に行うことを担保するための体制確保を義務づけるなど、明文化は絶対必要である」と強調する。

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医療部会での議論の行く末が気になるところだ


<ワタキューメディカルニュース事務局>

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