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No.589 2015年度の医療費、過去最高の41.5兆円に  調剤医療費、高額な新薬登場し前年度比9.4%の増加

2016年10月15日

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■医療費の伸び3.8%、2011年度以前の高い水準に戻る

 厚生労働省は9月13日、2015年度(平成27年度)の概算医療費を発表。前年度に比べ1兆5000億、3.8%増加し、41兆5000億円と過去最高を更新した。高齢化に加え、C型肝炎治療薬や抗がん剤などの高額な新薬が登場したことで、調剤医療費が9.4%も増加した。

 

 2015年度の概算医療費(労災や全額自己負担などを除き、国民医療費の98%に該当)は41兆5000億円で前年度に比べ1兆5000億円・3.8%増加し、過去最高を記録した。また、一人当たり医療費は32万7000円で、前年度に比べ1万3000円・3.8%増となった。伸び率は、2012年度(平成24年度)は1.7%、2013年度は2.2%、2014年度1.8%と、最近は比較的落ち着いていたが、2015年度は3.8%と、2011年度以前の高い水準に戻った(図1 医療費の推移  医療費の伸び率)。

 

 

 診療種類別の医療費は、医科入院が16兆4000億円(医療費全体の39.5%)、医科入院外が14兆2000億円(同34.3%)、歯科が2兆8000億円(同6.8%)、調剤が7兆9000億円(同19.0%)。診療種類別医療費の伸び率で際立つのが調剤の9.4%。医科入院1.9%、医科入院外3.3%、歯科1.4%に比べ2桁近い伸びで、調剤医療費の著しい伸びが、医療費全体の膨張を招いた(図2 診療種類別の概算医療費 推移 伸び率)

 

薬剤費増加の要因は、C型肝炎新薬など抗ウイルス薬の使用増

 厚労省が同じ概算医療費で「調剤医療費(電算処理分)」に特化した分析では、薬効分類別の薬剤費動向で「抗ウイルス剤」について、2015年度は4139億円で、前年度に比べて2954億円・247.1%の増加となった(図3 内服薬 薬効分類別 薬剤料)。つまり、画期的なC型肝炎治療薬であるソバルディ錠やハーボニー配合錠が薬価収載され、2014年度から2015年度にかけて抗ウイルス剤の費用が3.6倍に膨れ上がっている。

 2015年度概算医療費の発表を受けて9月28日に開かれた中医協総会で、厚労省の保険局調査課の担当者は、「約40兆円の概算医療費に対して、約0.7~0.8%が、昨年秋以降に使用量が増えたC型肝炎治療薬などの抗ウイルス薬の薬剤料の増加が要因である」と指摘。ただし、「約0.7~0.8%」は院外処方であり、「院内処方を含めると、もう少し大きくなる」との見通しを示した。C型肝炎治療の画期的新薬であるソバルディ錠とハーボニー配合錠は、既に2016年度薬価改定で「特例市場拡大再算定」の対象となり、31.7%の大幅な薬価引き下げが行われてことから、2016年度以降、薬剤費がどのように推移していくのか注目される。

 

 一方で、ハーボニー錠などは薬剤の服用で「完治」が見込めることから、将来的には医療費を縮減させる効果があるとの指摘もある。現在、中医協では高額医薬品の薬価のあり方を巡って、抗がん剤「オプジーボ」に焦点を当てた論議が進んでいるが、ハーボニー錠などのように完治して医療費の縮減させる見込みの医薬品と、オプジーボのように長期間にわたり服用が必要な医薬品とでは薬価のあり方が異なるとの意見もある

関係者のコメント

 

<厚労省医療費適正化所管 山内孝一郎調査課長:「ハーボニー錠とソバルディ配合錠は、特例拡大再算定の対象となり、大幅な薬価引き下げ。その影響を注視したい」

 9月28日の中医協総会で山内孝一郎保険局調査課長は、「2016年度薬価改定でハーボニー錠とソバルディ配合錠は、年間販売額が極めて大きい品目を対象に薬価の引き下げを行う「特例拡大再算定」の対象となり、31.7%の大幅な薬価引き下げが行われた。その影響がどうなるかは今後も注視していく必要がある」とコメント。

 

<ある医療ジャーナリストの声:ノーベル医学・生理学賞期待される日本発「高額医薬品」>

 10月は、ノーベル賞受賞者が発表される季節だ。2016年も、昨年に続き生理学・医学賞で、大隅良典・東京工業大学栄誉教授(71歳)の受賞が発表された。ところで、米調査会社トムソン・ロイターは9月21日、学術論文の引用数などから予想したノーベル賞候補者24人を発表。そのうち免疫分野で最有力候補として、残念ながら受賞を逃したが、京都大学の本庶佑名誉教授(先端医療振興財団理事長)をあげた。免疫のブレーキ役となる「PD-1」というたんぱく質を発見した。がん細胞が免疫からの攻撃を防ぐ働きがあり、この機能を生かして、小野薬品工業が免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」を発売した。

 皮肉にも“超高額医薬品”として医療費高騰の“悪玉”のように扱われている「オプジーボ」開発の基礎となった研究者が、今年のノーベル医学・生理学賞の有力候補となっている。

 また、医学・生理学賞の有力候補には、メバロチンやリピトールなど高脂血症治療薬・スタチン開発の道筋をつけた、東京農工大学の遠藤章特別栄誉教授もあがっている。高脂血症治療の“標準薬”であるスタチンは、世界の脂質異常症治療を大きく変えた薬で、心筋梗塞など循環器疾患の多くの患者の命を救ったことは言うまでもない。医療の進歩に、画期的な新薬が果たす役割は大きい。高騰する医療費といかに調和をとるのか、難しい課題である。

 

<横倉日医会長:医療費を「物」から「人」に配分を>

 日本医師会の横倉義武会長は9月28日の定例記者会見で、厚労省の2015年度概算医療費で増加分の4割近くが院外処方のみの薬剤料だったことなどを受け、「医療費は、医療従事者の人件費などの“人”から医薬品など“物”への流れができている。もう一度、“物”から“人”に配分されるよう医療費のあり方を主張していく」と述べた。

 

<病院経営者の声 堺日病会長:「高額薬剤の薬価緊急引き下げ分の財源がどこに行くのか明確でない」>

 中医協の議論の中で、日本病院会の堺常雄会長(聖隷浜松病院総長)は、「超高額薬剤の薬価緊急引き下げは、一見良さそうに見えるが、引き下げ分の財源がどこに行くのかが明確にされてない」などと、薬価緊急引き下げの財源が医師の技術料に反映されるかどうか懐疑的な見方を示した。

 

<団塊世代の声 年金生活者:「薬代は年金生活者に大きな負担に」>

 高血圧、糖尿病、さらに高脂血症と典型的な生活習慣病で近くのクリニックに通っている。薬代だけで1万円近くになることもある。年金生活者にとっては、大きな負担。幸い肝炎になっていないが、今後、高額な肝炎治療薬を使うようになったら、経済的に心配だ。

 

<若い世代の声 財政悪化の健保組合員:「現役世代の医療費負担増に不安」>

 加入している健康保険組合の財政が悪化していると「健保組合のたより」で知った。財政悪化の一番の要因は、高齢者の公的医療保険制度への拠出金だという。現役世代からの「仕送り」で高齢者の医療費を賄う仕組みだが、この「仕送り額」が増えれば、現役世代の健康保険料が引き上げられる。高齢者には一度に多くの薬が出されるので、今後、薬剤費が、ますます増えていく。われわれ現役世代の負担増が不安だ。

事務局のひとりごと

 

須坂市には」須坂市健康福祉部 健康づくり課長 浅野章子氏は言った。「元気老人が多い。」「寝たきり老人の平均は4ヶ月。」 それを実現できている背景には、長野県が推進する「信州ACEプロジェクト(※1)」の延長線上に「須坂JAPAN」創生プロジェクトの存在があり、その実現の担い手としての同市保健補導員会の存在があるという。

 

 「私が」同市保健補導員会の現会長である神屋初枝氏は言った。「現30期目を迎える補導員会の会長です。」この会は地域住民の、主に女性によって構成され(※2)、実に年間100回にも渡る健康に関する勉強会実施や、地域住民の方々の食事の塩分濃度を突撃訪問して、健康的な食事の塩分濃度のチェックや健康への啓蒙活動を地道に行うという活動を日々続けておられるのだそうだ。

 

 去る9月29日~30日、長野市のホテルメトロポリタン長野で開催された「日本医業経営コンサルタント学会長野大会(推定700名参加)」1日目のシンポジウム、「健康長寿世界一への取り組み」の中での1コマである。

 

 最近読んだ小説にカブれてしまい、どうしてもこの変わった言い回しを一度使ってみたくなった(※3)。笑ってお許しのほど。

 

 須坂市のこの取り組みは、非常に称賛されるべきものであると考える。自治体のリーダーシップもさることながら、地域住民らが、自ら進んで健康長寿への取り組もうとする姿勢、30年間も持続させてきた使命感(大変なこともあるのだろうが、きっと、楽しみながらされているのだろう)、諸々に敬意を表したいと考えたのは筆者だけではあるまい(実は筆者も参加していた)。

 「健康的な食事への取り組み」と言っても、長野県は味噌が非常に有名な特産物で、味噌、醤油そのものの味は決して薄味ではない。お土産に揚げ味噌せんべいを買って食べてみたら、美味しかったものの、とても濃い味だった。一度に2枚は食べられない。

 しかし、素材や特産物の本来の味はそうだとしても、地域ぐるみで様々な健康メニューを作る取り組みがあって支えられている。大手コンビニエンスストアと提携し、「ACEメニュー」の弁当が販売されたり、醤油はスプレータイプの瓶に入れ、しゅっと一吹き、など健康に関する先進的な取り組みが多く見られた。一例として、筆者が夕方口にした冷やし豚しゃぶは、メインの冷製豚しゃぶよりも、水菜やぱりぱりとした白菜片(これは意外であった)をたくさん採ることでとても美味しく、そしてあまり肉類を採らずともさっぱり食べることができ、そして何よりも満腹感も得ることができた。

 

 そういった取り組みは結果として、医療費や介護費の無駄遣い(と言って良いかなんとも言えないが)を減らし、社会保障の伸びを抑えることにつながっていくことだろう。ただ、もう一つの視点として、医療や介護はこれからの我が国において、非常に大きな潜在能力を秘めた産業であるとも捉えられる。この伸びが抑えられるということは、経済成長が抑えられる可能性もあるというジレンマを抱えている。ノーベル医学賞の候補に挙げられるような画期的な新薬も、高すぎるので価格を下げないと財政が持たない、というのでは少し悲しい。保険財源や税金が投入されているので難しいところだが(※4)。我々は創薬に関わるメーカーではないが、創薬に関する会社の、開発に関するエネルギーがそがれないことを祈りたい。今は日本人ノーベル賞受賞者が候補者を含めて目白押しだが、今日の基礎研究が何十年後のノーベル賞受賞者を生み出すのだ

 

 最後に、今槍玉に挙がっている高額医薬品について、調剤薬局運営事業者のコメントで締め括りとさせて頂きたい。

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 <医療費増の要因といわれる、高額医薬品について>

 医療費の伸び3.8%のうち、実に2割はC型肝炎治療薬「ハーボニー」「ソバルディ」を含めた化学療法剤が占める。医療費全体の膨張を招いたのは、この化学療法剤の使用による著しい伸びが大きな要因のひとつと考えられる。

 今後も「高額な薬価医薬品」の承認が検討されていると聞く。薬局側は、後発品の使用促進やポリファーマシーの問題に取り組むことで、医療費削減に繋げているが、政府の方針として社会保障費の自然増が5千億円に抑制される中、「焼け石に水」であり、今後更なる高齢化に加え、医療費を増大させる結果になるのではないかと思う。

 また、これに連動し調剤医療費が伸びることで、その批判と矛先が薬局側へ向けられ、皺寄せが来るのではないかと懸念もされ、今後益々薬局の在り方が問われていくことになるかも知れない。

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<ワタキューメディカルニュース事務局>

 


(※1)…… 長野県が新たに展開する健康づくり県民運動の名称。脳卒中等の生活習慣予防に効果があるAction(体を動かす)、Check(健診を受ける)、Eat(健康に食べる)を表し、世界で一番(ACE)の健康長寿を目指す思いが込められている(長野県健康福祉部健康増進課長のコメント)という。

 


(※2)…… なぜか男性は積極的に関わってくれることはなく、参加したとしても長続きしないらしい…。

 


(※3)…… ロバート・ラングドンという、象徴学を専門とする大学教授が活躍する、ダン・ブラウン著の作品群(日本語訳は越前敏弥氏)。ロバート・ラングドンシリーズは全4作。「天使と悪魔」、「ダヴィンチ・コード」、「ロスト・シンボル」、「インフェルノ」が出版されている。第4作目の「インフェルノ(トム・ハンクス主演)」は今秋公開予定の映画のビッグタイトルとして期待されている。3作目の「ロスト・シンボル」以外はすべて映画化されていることになる。
 「インフェルノ」は、人口問題をテーマとしており、すでに読破された読者におかれては、あっと驚くラストシーンではなかっただろうか。グッドエンディングで締め括られるだろうと考えていた筆者には衝撃であった(映画も小説と同様の結末とは限らないのだろうが)。主人公はもちろんだが、犯人(?といって良いかも分からないが)の言っていることもある意味「正しい」とすら思える部分もあったので、とても考えさせられるシナリオであった。新婚旅行で欧州に行った頃、「ダヴィンチ・コード」が流行していたのに、その存在を知らず、その象徴群の真っただ中にいたにも関わらず、全くの無知であったことがとても悔やまれる。今後欧州に訪れる機会があれば、是非このシリーズの舞台となった寺院や象徴を訪ねてみたいものである…星々が(笑)。

 


(※4)…… 仮に国内で価格が下げられてとしても、輸出時にはあこぎなことはあってはならないのだろうが、高く設定すべきではないのか。必要な国は輸入するに違いないからだ。日本がこれまで海外諸国(特に欧米)に散々されてきたことだ。

<WMN事務局>

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