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No.574 2016年度診療報酬改定で認められた保険医療上、初の在宅医療専門診療所

2016年03月15日

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■ 認知症に対するかかりつけ医機能評価など、2016年度改定の新点数
 中医協は2月10日、2016年度診療報酬改定について塩崎厚生労働大臣に答申した。診療報酬本体は0.49%プラス改定(医科0.56%、歯科0.61%、調剤0.17%)の一方、診療報酬全体(ネット)では0.84%減で、小泉内閣以来8年ぶりのマイナス改定。前回2014年度改定と同様、地域包括ケアシステムの推進と「病床の機能分化・連携」を含む医療機能の分化・強化・連携を促す改定となった。

 具体的には、①医療機能分化と地域連携により、身近な地域で必要な医療を受けられる体制づくり、②医師、歯科医師、薬局・薬剤師のかかりつけ機能が発揮され、顔のみえる関係で質の高い医療を支える、③イノベーションを促すと同時に、後発医薬品の利用促進など効率化とのバランスを図る-という方向性が示された。

 今回の改定では、かかりつけ医を普及させる観点から、認知症に対するかかりつけ医機能を評価したこと、在宅医療に関して在宅医療専門の診療所を保険医療機関として認めたことだ。認知症の患者のかかりつけ医に対する評価として、認知症以外に1つ以上の疾患がある患者が対象として「認知症地域包括診療料」(月1515点)と「認知症地域包括診療加算」(再診料1回につき30点)を新設。地域包括ケア体制構築の節目とされる2年後の診療・介護報酬の同時改定を見据えた改定が行われた。

 

在宅専門診療所の定義「在宅患者が占める割合が95%以上」

 今回の診療報酬改定で在宅医療関連として注目されるのが、「在宅専門診療所」の解禁で、2016年4月から開設が可能になる。「在宅医療専門」とは、「在宅患者が占める割合が95%以上」と定義。「在宅医療を提供する地域をあらかじめ規定」「外来診療が必要な場合に対応できるよう地域医師会から協力の同意を得ていること」など、7項目の開設要件を満たすことが条件()。外来診療が必要な場合に対応できる体制を整えることなどを要件に、健康保険法上で開設を認めることになった。

 

 

 在宅専門診療所の場合、機能強化型の在宅療養支援診療所(在支診)として在宅時医学総合管理料(在医総管)などの管理料を算定するには、「管理料の合計算定件数に占める施設入居時医学総合管理料(施設総管)の件数が7割以下」「管理料を算定する患者に占める重症度の高い患者、要介護3以上の患者の割合が5割以上」といった要件が課される。これらの要件を満たせない場合、在支診でない場合の点数の8割という低い点数を算定することになるなど、厳しい報酬設定となった。

 

 在宅専門診療所に関しては、在支診のハードルを上げ、現行の「機能強化型」の施設基準に加えて、看取り件数や重症患者の割合など一定の実績要件を満たすことを求めた。この結果、在支診、もしくは「機能強化型」の在支診のいずれの点数を算定可能とするかについては、今後、通知等で示される予定だ。一方で、この施設基準を満たさない場合には、在医総管などは低い点数しか算定できず、安易な在宅専門診療所の開設に釘を刺した形となった。

関係者のコメント

 

<厚生労働省のコメント『在宅専門診療所、「特定の施設に限定」はNG』

 厚労省は3月4日に開催した平成28年度診療報酬改定説明会で、「あらかじめ在宅医療を提供する地域を、住所などで届け出ることが必要。その住所内の患者からの依頼があれば相談等に応じることが求められ、特定の高齢者住宅・施設のみに限定して在宅医療を行うケースには、在宅医療専門診療所は認められない」と、特定の施設に限定した在宅医療専門診療所の開設は認めないことを改めて強調した。

 

 

<介護ジャーナリストのコメント「“患者の囲い込み”のための在宅専門診療所ではあってならない」>

 在宅医療専門診療所は在宅医療のエースとして登場し、厚労省やマスコミからの評価は高い。

 しかし、地域医療の形態が変わっていくにつれ、多くの課題も生まれてきた。地域に突然開業し、かかりつけ医と連携のない往診や訪問診療が行われ、高齢者住宅や有料老人ホームの専属となり、居宅として丸抱えの訪問診療を行っている事例などである。また、一般病院の一部には、門前診療所を作り、親病院とタイアップして機能強化した在宅療養支援診療所となり往診、訪問診療に特化して在宅医療に参入している例がある。

 このように、ある種の患者囲い込みのような事例が散見される。患者中心、利用者中心の理念を持って医療提供を行う在宅専門診療所が開設されることを期待したい。

 

 

<横倉日本医師会長「在宅医療専門診療所は、医師会と連携して地域医療を」>

 2016年度診療報酬改定の中医協答申を受け、2月10日記者会見で日本医師会の横倉会長は、在宅医療専門診療所について、「かかりつけ医のバックアップとして活用を視野に入れる必要がある。排除するのではなく、医師会と連携して地域医療を守って欲しい」と、開設要件である「外来診療が必要な患者が訪れた場合に対応できるよう、地域医師会から協力の同意を得ている」ことを強調した。

 

 

<へき地の患者のコメント「在宅医療専門診療所の“地域偏在”が心配」>

 これから在宅医療専門の診療所が増えてくるが、開設の要件に「診療地域内に2か所以上の協力医療機関を確保していること」などがあり、結局、医療提供体制が整備され、採算が取れる都市部に集中し、へき地は後回し。地域偏在が心配だ。

事務局のひとりごと

 有限会社 メディカル・サポート・システムズ取締役社長、細谷邦夫氏(※1)によれば、2016年診療報酬改定のキャッチフレーズは、『「治す医療」から「治し、支える医療」へ』であるという。

 

 昨年、ある方が亡くなった。その方は最期まで在宅で過ごして息を引き取った。それを可能にしたのは、その方の身内に複数の看護師がいらっしゃったからだ(と筆者は考える)。その自治体は住所に「町」がつく、人口の少ない地域であり、あらゆるサービスは都会に行かなければ享受することができない場所である。そんな中、自宅で看取りまでできたということは、これはある意味幸運だったというべきかもしれない…。

 

 我が国の今後の社会保障における重要な課題である「地域包括ケアシステムの構築」のためには、地域完結型の医療、そして患者が看取りまで在宅で過ごすことのできる環境を整えることは必須だ。

 そして認知症高齢者に対する問題。2007年、愛知県で徘徊中に電車にはねられ死亡した認知症の男性の家族に鉄道会社が損害賠償を求めた訴訟の上告審判決が、鉄道会社の逆転敗訴になった訳だが、このような問題は、もはや誰にとっても他人事ではない。社会保障制度だけに頼るという構図での解決は難しいだろう。地域ぐるみの認知症高齢者に対する取り組みの必要性(患者を、家族を、みんなで“支える”)も待ったなしだ。

 

 これまで、保険医療機関(保険請求できるよう届出を行った医療機関)として医業という生業を行うためには、開業のためにはやはり設備投資が必要であった。「在支診」という存在の出現や、今回新設された在宅医療を専門とする診療所への評価(点数新設)は、時代の流れとしては当然と言えるのかもしれないが、投資まで行い、地域との信頼を構築してきた開業医にとって、それはどのように映ったのだろうか

 本文中のコメントにあったが、在宅専門診療所の開設には一定のハードルが設けられ、安易な開設はできないとされているが、ジャーナリストのコメントも参考にするならば、「患者囲い込み」という形でなく、地域の理解を得ながら(信用を確立しながら)診療にあたっていくことも必要だ。その上、医業を成り立たせるための採算面を確保しようと思ったら、地域偏在が生まれることも想像に難くない。

 基幹病院との連携による遠隔診療などのIT活用や、高齢になっておられる医師の活用など、せっかくここまで我が国が築き上げてきた科学技術と、姥捨て山でなく年齢に関わらずこれまでの経験を少しでも生かしてくれようとする人材との融合。今ほどそれが強く求められる時代はないのではないか。新しく設定された点数が、地域包括ケアシステム構築に向けた在宅医療の新たな一歩であることを望む。


<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

 

(※1)…有限会社メディカル・サポート・システムズ( URL http://www.medsus.jp/) 医療機関が正しい診療報酬請求を行い、患者支店での明確な請求と医療機関の経営環境にとってよりよい環境の構築を目指すことによって、ひいては国民医療費の適正化を促すことを目指して起業。医療機関の臨床サイドと経営サイド、患者サイドそれぞれの視点からみるべく、医療法人経営に携わった理事長と病院と診療所の医療事務に永年携わったスペシャリストによって協働開設。理論だけはない、より実践的なコンサルティングを目指し、医療機関の味方として日々活躍中。

<同社HP参考:WMN事務局>

 

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