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570号 診療報酬改定2016、本体0.49%プラス改定、全体1.43%のマイナス改定で決着本体プラス改定分は、薬剤費の適正化などから財源捻出

2016年01月15日

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■診療報酬全体ではマイナス改定、診療報酬本体はプラス0.49%に

 2016年度診療報酬改定は、2015年12月21日に行われた塩崎厚生労働大臣と麻生財務大臣との閣僚折衝で、診療報酬本体は0.49%引き上げる一方、薬価(1.22%)と材料(0.11%)を通常改定で1.33%、加えて薬価の市場拡大再算定で0.19%、合計1.52%引き下げることで決着した。さらに別途、2016年度改定で新たに導入する薬価の「特例市場拡大再算定」、後発医薬品の薬価引き下げや使用促進、大型門前薬局の調剤報酬の適正化、湿布薬の使用制限などで、合計0.4%の引き下げを行う。厚生労働省はこれらの引き下げを「制度改正に伴うもの」という理由から、「外枠」として扱い、改定率の計算に入れない方針だが、これらを含めて改定率を試算するとネット(全体)1.43%のマイナス改定となる(図1)。

 ネットのマイナス改定は、2014年度改定に続き、2回連続となる。2014年度改定では消費増税対応分を除けば1.26%のマイナス改定だった(対応分を含めれば、0.1%)。日本医師会など診療側は、「ネットでプラス」を要求していたが実現しなかったものの、診療報酬本体では前回改定の0.1%プラス改定を上回る0.49%プラスとなった。

 

 当初、財務省や経済財政諮問会議は、診療報酬本体についてもマイナス改定を主張していたが、与党や官邸は今夏の参議院選挙で有力な票田となる日本医師会など医療界に配慮する形で本体プラス改定に至ったようだ。今後、具体的な改定内容については、1月中旬から中医協で審議が行われ、2月中旬には改定案が示され、3月上旬には診療報酬改定に係る告示・通知が出される見込み。

 

■診療報酬本体プラス改定の「財源確保のターゲットとなった薬剤費」

 診療報酬本体の引き上げ率は、医科0.56%、歯科0.61%、調剤0.17%で、「1:1.1:0.3」の割合。当初、調剤については引き下げ圧力もあったが、結果的にはプラスを維持した。その財源確保のターゲットとされたのが、薬剤費だ。

 

 今回の改定では、「外枠」扱いとされた部分に注視する必要がある。薬価の「特例市場拡大再算定」は、年間販売額1000億円超1500億円以下、かつ予想販売額の1.5倍以上」「年間販売額1500億円超、かつ予想販売額の1.3倍以上」の医薬品の薬価を引き下げるルールとして2016年度改定から導入される。その額は約280億円。そのほか(1)新規後発医薬品の薬価引き下げ、後発医薬品への置き換えが進まない長期収載医薬品の特例的引き下げ(国費ベースで約20億円)、(2)大型門前薬局の調剤報酬の引き下げ(約40億円)、(3)経腸栄養用製品の給付の適正化(約40億円)、(4)湿布薬の1処方当たりの枚数制限など(約30億円)を合わせ、約410億円、約0.4%相当の引き下げになる。

 

 厚生労働省は、2016年度予算概算要求の段階で、社会保障費の約6700億円の増額を要求。これに対し、財務省サイドは5000億円弱への抑制を求めていた。これらの目標達成の一環として、「外枠」扱いの引き下げが実施された。「外枠」扱いの部分を勘案すれば、(2)の引き下げ分を調剤報酬の引き上げ率0.17%から差し引くと、マイナス改定になると推計される。

 

 2016年度診療報酬改定の基本方針は、既に社会保障審議会で決定。特に、今回の診療報酬本体プラス改定の財源確保のターゲットなった薬剤費については、後発医薬品を使用促進するほか、「残薬や重複投薬、不適切な多剤投薬・長期投薬の削減」を推進。これを受けた具体的な診療報酬点数の設定が注目される。

診療報酬改定率決定について関係者のコメント

 

<塩崎厚生労働大臣「診療報酬本体改定率が一番重要だ」

 塩崎厚生労働大臣は閣僚折衝後の記者会見で、マイナスとなったネットの改定率よりも、今回0.49%のプラスになった「診療報酬本体の改定率が一番重要だ」と指摘し、「厳しい財政状況の中で、より良い医療の実現に向けて財源を確保した。大きな成果があった」と強調した。

 

<横倉日医会長「本体プラス0.49%はギリギリ合格点」>

 一方、改定率の決定を受け、日本医師会長の横倉義武会長は12月21日の記者会見で、「少し厳しいが、財政全体を考えると医療崩壊が起きないような配慮はされた。安倍首相をはじめ閣僚、自民党の方々に深く感謝したい。ギリギリ合格点だ」とコメントした。

 

<都内のある調剤薬局チェーンの声「努力する調剤薬局が生き残る時代に」>

 一方、診療報酬本体プラス改定の財源確保の1つとして「大型門前薬局の調剤報酬の引き下げ」が行われる。都内の調剤薬局チェーンの経営者は、「事前の議論では調剤薬局の技術料をゼロベースで見直す案が出て、調剤報酬率の大幅な落ち込みが予想されていたが、調剤0.3の配分が維持されたことで安心した」と述べる、

 

 その一方で、後発医薬品の使用促進、湿布薬の使用制限、薬価の大幅マイナス改定など医薬品市場規模の縮小は、調剤薬局経営に大きな影響を及ぼすとした上で、「患者さんへのさらなる服薬管理の推進、調剤報酬の加算要件を着実に行うなど、努力する調剤薬局が生き残る時代となりそうだ」とコメントした。

■主役である国民の声「診療報酬マイナス改定は歓迎」、「パブリックコメントは国民本位であるべき」

 

<患者負担が減るから「診療報酬マイナス改定は歓迎」だが…>

 診療報酬のマイナス改定は、患者の自己負担が減ることから歓迎します。しかし一方で、2017年度に患者の自己負担を軽減する「高額療養費制度」を見直して財源確保する代わりに、診療報酬の医師らの技術料にあたる「本体部分」がプラス改定となったという話を聞いています。さらに、高額療養費制度の具体的な見直し内容の決定は、世論の反発を避けるため今年夏の参院選後に先送りにされました。当面は患者負担が減ったと思いますが、数年先の患者負担増に不安を感じます。

 

<診療報酬改定の「パブリックコメントは国民本位であるべき」(沖縄県・男性60代)>

 公聴会やパブリックコメントは広く国民の意見を聴くはずでしたが、最近ではいわゆる「やらせ」による形骸化が問題視されています。例えば、2014年1月に行われた中医協公聴会でも、発表者の多くは医療関係団体関係者です。彼らはその代表者が、中医協の場で十二分に意見や要求の発言をしています。

 

 広く国民の意見を聴くという公聴会の趣旨からも、発言者は一般国民と中医協での発言ができない看護師、歯科技工士や介護福祉士などに限るとしてほしいです。また、パブリックコメント募集でも、医療費を税金・保険料・一部負担金で支払う一般の国民が主役であるべきなのに、診療報酬改定に対する意見は診療側である医療関係者の意見が多く提出されます。このように、一般国民と医療関係団体関係者との情報の非対称性が大きい現状では、パブリックコメント募集や公聴会のあり方を見直すべきです。(平成26年度国政モニターより)

事務局のひとりごと

 ミスディレクション。手品で観客の注意をそらすためによく使われる技法だ。手品師は観客の注目を惹きながら、タネがばれないようにこの技法を使用する。観客は手品師が誘導するものだけを見ているので、タネに関する肝心の部分を見逃してしまうという寸法だ。

 

 年末の消費税増対策の軽減税率に関する攻防は、報道の論調からすれば、公明党の要求が丸呑みとなり、加工食品も軽減税率の対象とされ、官邸が財務省を押し切ったような格好に見える。果たしてそんな単純な構図なのだろうか。財務省からしてみれば、最初から「財源がない、財源がない、」と言っているので、3,000~4,000億円から、場合によっては1兆円の税源が必要だという、その幅だけを見せられた国民としては、1兆円=押し切られた、と捉えてしまいがちだ。確かにそうなのかもしれない。が、そうでないかもしれない。

 

 財務省からしてみれば、8%に上げる議論の時にもあったが、増税(当時は+3%)がかなっただけでも十分な結果であったという後日談が出たと記憶している。今回も、思いのほか景気が低迷し、増税が景気に冷や水を浴びせる結果となってしまいかねない、という風潮が蔓延してしまうと、(選挙に関して)機を見るに敏な政治家により、「増税先送りの大合唱」が起こってしまう。財務省が最も好まないのはこのシナリオではなかったのだろうか。という意味では立派に財務省のミスディレクションは成立していたのではないか。

 

 手品では派手な動きをする片手に観客が見とれているうちに、もう一方の手ではタネが準備され、気づいた時には帽子からたくさんのハトが出てくる。財務省のミスディレクションは、どんな結果をもたらすのだろうか。

 

 診療報酬改定も、「本体もマイナス」とさんざん脅されていただけに、ネットではマイナス改定は免れなかったが、「本体はプラス」という結果に医療界ではほのかに安堵感さえ漂った。これも損税問題で経営数値が悪化しているデータを勘案された結果か。それとも我々の知り得ない政治的な決着があったためか。もちろん、財源確保のために大幅なマイナスとなってしまうであろう薬剤費の存在もあってのことではあるのだが。

 

 しかし、年が明けてしまえば、そんな安堵感も一時的なものに終わることになるだろう。いわゆる「短冊」の議論が展開していくことになるからだ。

 

 もっとも焦点を浴びそうなのは、大病院(200床以上)の外来での初診時における紹介状なし患者の自己負担増(保険外併用療養費:混合診療が認められている収入)や、入院関係では7:1病棟の重症度・看護必要度の要件の厳格化の議論だろう。この看護基準が世に出る前は、10:1の看護配置(昔風にいうと2:1)こそが急性期病院としては最高の単価を獲得できる看護基準であったはずだ。しかし、今や急性期病院の代名詞といえる看護配置は7:1に取って代わられてしまった。

 

 しかし、ここで誤解しないでいただきたいのは、「看護配置が高くなければ急性期に非ず」などということは決してない、ということだ。であるから、7:1を算定できなくても、医療の内容は十分に急性期と呼べる病院は必ずある。現に7:1が登場するまでは急性期病院算定できる最高の配置基準だったのだから。

 

 しかし、仮に10:1の算定に戻ってしまうともなれば、7:1の看護基準を算定するためにもろもろの投資を行ったこと、看護師の人件費、看護師の寮、看護師のユニフォーム、ロッカールーム増設、求人に要した費用・・・等々、それらを回収することが困難になってしまう、ということこそが病院経営における問題だ。

 

 また、7:1と10:1との最大の違いは、夜間の看護配置にあるともいえるだろう。1看護単位あたり、3名配置と2名配置、この差はシフトを組む上でも大きいが、看護師の負担感の差はとても大きいことだろう。仮に7:1を算定していた病院が、10:1しか算定できなくなってしまったら、経過措置はあったとしても、経営上段階的に夜勤は2名体制ということになっていく(逆行)だろう。看護師は7:1病院を求めて瓦解する氷山のように自院を去って行ってしまう、そんな負のスパイラルになってしまいかねない、という恐怖感が病院経営側に起こってしまいかねないというのも重要な問題だ(※1)。

 

 財務省が登場したのは改定率が決定するまでのこと。これからは中医協において厚労省が全面に出て、支払側と診療側の攻防が始まる。塩崎大臣のおっしゃった、「より良い医療の実現に向けて確保」された財源は、どう振り分けられて行くのか

 

 動いている派手な動きの手だけではなく、もう一方の隠れた手の動きもしっかり見据えられれば良いのだが・・・。


<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

※1…そういった背景も踏まえ、病棟単位毎で7:1を算定可能にしようとする議論も行われている。
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