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568号 財務省のペースで進む平成28年度診療報酬改定 10年ぶりの「診療報酬本体マイナス改定」が濃厚に

2015年12月15日

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- 今原稿、ならびに事務局のひとりごとは12月3日までの議論をもとに作成されています。-

 

■「診療報酬本体マイナス改定」を主導した財務省

 平成28年度の次期診療報酬改定に向け、厚生労働省の社会保障審議会は12月2日、4日に開いた医療保険部会と医療部会で、「改定の基本方針案」を了承した。「改定の基本方針」の正式策定を経て、12月末の平成28年度政府予算案の編成過程で、内閣が診療報酬の改定率を決定する。診療報酬のうち薬価が1%超引き下げられ、2008年以来8年ぶりの「診療報酬全体のマイナス改定」がほぼ決まり、後は、「診療報酬本体マイナス改定」が焦点となった。


 「診療報酬マイナス改定」がほぼ決まったが、さらに切り込んで「診療報酬本体マイナス改定」を主導しているのが、財務省
だ。財務省の財政制度等審議会(会長=吉川洋・東京大大学院教授)は平成28年度予算編成に関する建議をまとめ、11月24日に麻生太郎財務大臣に提出(図1「平成28年度予算の編成等に関する建議のポイント)。社会保障関係費の伸びについて、厚労省は今年8月の概算要求時点で6700億円増と推計したが、建議は「骨太の方針2015」を踏まえ、財務省が高齢化に伴う増加分として見込む5000億円弱に収めるよう要求。診療報酬改定については、本体部分の一定程度のマイナス改定が必要だと主張した。これまで5000億円程度としていたものを、一歩切り込み、差額分の1700億円超を薬価の引き下げや診療報酬改定以外に、調剤報酬の抜本的見直しや、後発医薬品の価格引き下げなどで賄う方針だ。


 診療報酬のうち薬価が1%超引き下げられ、診療報酬全体ではマイナス改定がほぼ決まったが、「診療報酬本体のマイナス改定」には日本医師会など診療側の強い反発が予測され、改定率をめぐる議論は与党自民党などを巻き込んで12月中下旬に予定される平成28年度予算案の財務省原案内示までもつれ込む可能性が高い。


 改定率が決まると、年明けの1月中旬には、厚生労働大臣が中医協に対し、予算編成過程を通じて内閣が決定した「改定率」、社会保障審議会で策定された「基本方針」に基づき改定案の調査・審議を行うよう諮問。諮問を受け、中医協で個別の診療報酬項目に対する点数設定や算定条件について審議を行い、来年3月上旬には改定内容が告示される予定だ。

■次期改定では「かかりつけ医」「かかりつけ薬剤師・薬局」がキーワードに

 社会保障審議会の医療部会と医療保険部会に厚労省側が示した次期診療報酬の基本方針案は、「地域包括ケアシステムの構築」と「医療機能の分化・強化、連携」を重点課題に位置づけた、次の4つの基本的視点が示された。(1)地域包括ケアシステムの推進と医療機能の分化・強化、連携(重点課題)。(2)患者にとって安心・安全で納得できる効率的で質が高い医療の実現。(3)重点的な対応が求められる医療分野を充実する視点。(4)効率化・適正化を通じて制度の持続可能性を高める(図2「平成28年度診療報酬改定の基本的考え方」)。改定の重点課題とされた「地域包括ケアシステムの推進と医療機能の分化・強化、連携」では、「医療機能や患者の状態に応じた評価による機能分化の推進」や「多職種の活用によるチーム医療の評価」「かかりつけ医機能などの評価」「退院支援や医療機関間・医療介護の連携強化」などが盛り込まれた。


 ここで注目されるのが、「かかりつけ医」という表現
。社保審の論議の一方で、具体的な診療報酬項目について議論する中医協では「主治医機能」の評価に関する議論が行われている。基本方針案で「かかりつけ医」といった表現が出てきた背景には、まず「かかりつけ歯科医やかかりつけ薬剤師といった表現との統一性」という点がある。厚労省保険局医療介護連携政策課の城克文課長は、「『主治医機能』という表現を用いると個別診療報酬項目に直結する可能性がある。基本方針の中では個別項目に言及すべきではないという役割分担がある」とも説明。また、「かかりつけ医」のさらなる普及とより適切な在宅医療の評価について、塩崎厚生労働大臣は11月24日の経済財政諮問会議で、「かかりつけ医のさらなる普及を図り、地域のかかりつけ医が患者の状態や価値観も踏まえ、適切な医療を受けられるようサポートする『ゲートオープナー』機能の確立」が目指す方向であると強調。平成28年度改定では、①「かかりつけ医機能」の一層の強化のため、認知症への対応を重視する等の見直し、②重症患者や小児への在宅医療を強化する方向で検討、③平成28年度から紹介状なしで大病院を受診した場合の定額負担を導入していくことなどを表明した。


 平成28年度改定の焦点の1つある「調剤報酬の見直し」「医薬品の適正使用の推進」では、患者本位の医薬分業の実現のため、かかりつけ薬局の薬剤師が専門性を発揮して、一元的・継続的な服薬管理を実施することを診療報酬で評価される。具体的には、①かかりつけ医と連携して、「かかりつけ薬剤師」が患者の服薬状況を一元的・継続的に把握、薬剤師による在宅訪問等の推進する「かかりつけ薬剤師・薬局」の評価、②「かかりつけ薬剤師」による一元的・継続的な服薬管理指導を推進するため「薬剤服用歴管理指導料」の見直し、③薬局と医療機関が連携して、残薬解消や多剤・重複投与の削減に取り組むことを推進、④後発医薬品の使用促進、⑤大型門前薬局の評価の適正化のため、調剤報酬における対応を検討するとしている。ここでも「かかりつけ」がキーワードとなりそうだ。

10年ぶりの診療報酬マイナス改定の動きへの関係者のコメント
 

<横倉日医会長「財務省による機械的削減は大問題」>

 

 「診療報酬本体マイナス改定」の流れを作った財務省・財政制度等審議会の平成28年度予算編成に関する建議。その中で「社会保障費の増加を高齢化による伸びの範囲内(5000億円弱)に抑えるべき」との見解が示されたことに対して、横倉日本医師会長は11月25日の定例記者会見で、「機械的な削減を示唆する内容なのは大きな問題。到底容認できない。マイナス改定になれば、医療崩壊を招く」と批判するとともに、危機感をあらわにした。

 

<民間議員は「診療報酬の引き下げは不可欠」

 財政制度等審議会と共にマイナス改定を主導してきた政府の経済財政諮問会議のサントリーホールディングスの新浪剛史社長ら民間議員は、11月24日開かれた会合で、「診療報酬の引き下げは不可欠」とする提言を表明。合わせて、慢性期の患者への対応も検討課題にあげ、療養病床を医療の必要度が高い患者の受け入れに限定させ、医療の必要度が低い患者を受け入れる療養病床については「医療従事者の配置基準を緩和し、診療報酬を引き下げるべき」と指摘した。また、医療の一層の効率化を促すためDPCを適用する病院や治療の範囲を拡大する必要性も強調した。

<塩崎厚労相は「マイナス改定は物価・賃金の動向や医療機関の経営状況を踏まえて検討すべき」

 11月24日の経済財政諮問会議で診療報酬改定について「引き下げが不可欠」という意見が民間議員から出たことに対して、この日の会合に出席した塩崎厚生労働大臣は、マイナス改定にするかどうかは、物価・賃金の動向や医療機関の経営状況を踏まえて検討すべきだとの認識を示した。

<医療機関の声「診療報酬マイナス改定。人件費のことを考えると頭が痛い」

 都内の中小病院の経営者は、「ある程度予想はしていたが、8年ぶりの診療報酬マイナス改定にはショック。さらに、人件費を賄う診療報酬本体がマイナス改定が心配だ。診療報酬本体の小幅なプラス改定でも人件費の事を考えると、頭がいたい」と語る。

<患者の声「診療報酬マイナス改定は患者負担が減り、患者にとってはプラスだが…」

 ある患者団体の関係者は、「診療報酬本体のマイナス改定は、結局、医療費の患者負担が減ることになり、患者にとってはプラスとなる」とマイナス改定を評価する。

事務局のひとりごと

 世界に冠たる制度といわれている我が国の医療保険制度。国民皆保険、フリーアクセス、安価な医療費(本人負担)で高度な医療の提供(現物給付)、特徴を挙げるならばその3つが顕著だろうか。

 いよいよやってきた2年に一度の診療報酬改定にまつわる改定率の議論。年の瀬も押し迫ったこの時期は、新聞紙面に「診療報酬」という言葉がよく出てくるタイミングだ。

 現時点では「薬価はマイナス」、がほぼ決定しているようだが、あとは「本体」がどうなるかが焦点となってきた。

 財務省の考え方は「本体もマイナス改定」であり、日本医師会をはじめとする病院団体の考え方は当然のことながら「プラス改定」だ。

 中医協では支払い側の意見は「マイナス改定+薬価等の引き下げ分を本体に充当しない」、であり、診療側の意見は「本体部分はプラス改定、でないと医療崩壊の再来を招く」としている。全く相容れない意見の対立である。

 そして改定率が決まった後、「ギリギリの決断だった」などという大臣の後日談や、「あれと引き換えにこちらを飲まざるを得なかった」などという医師会関係のコメントが必ず出てくることだろう。どれだけデータで実証されたエビデンスを以って積み重ねられた議論も、結局のところは政治決着となってしまうのだ。

 近年の改定率を振り返ってみると、前回改定はプラス改定といわれているが、消費税増税分の補填を考慮に入れなければ実質マイナス改定、前々回改定はわずかのプラス改定、前々々回もプラス改定だった。

 時の政権を見てみると、前回改定は自民党政権、前々回、前々々回ともに民主党政権である。今となってはさんざんいわれる(というか話題にも上らない)民主党だが、医療界にとってはよい政権だったのかもしれない。といったら語弊があるだろうか。

 多くの議論のために現場では様々な調査が実施される。そして積み上がったデータも当然意味はあるのだろうが、最終的に「マイナス」という方向がすでに決まっているならとても空しい。どうせマイナスが決まっており、財政論ばかりに終始するなら、1点単価=10円を例えば2%下げてしまうとか、国保連や支払基金から医療機関へ支払うサイトを少しずつ延ばし、資金繰りで実質のマイナスとしてしまう方が楽ではないか、そんな短絡的な考えや議論がおこってこないことが不思議である。

 また、マイナス改定にしなくても、「かかりつけ」という言葉を浸透させていこうとする方向性からすれば、フリーアクセスを制限した方がよほど医療費抑制の効果につながるだろう(でもそうはならないのだろう)。

 いつも(都合の良い時だけ?)「主役」といわれている「国民」だが、その国民は本当にマイナス改定を切望しているのだろうか(※1)。仮にそうだとするならば、その結果がもたらす何らかの影響についても納得してもらう必要がある。なんでもかんでもこれまでと同様かそれ以上の内容で、さらにこれまでより安く手に入る、などということは医療や介護の考え方にはなじまないのかもしれない。そこにはとても多くの人が関与しているからだ。

 「人への投資」が質の向上につながるのは、いろいろな補助加算が設定されてきているだけに、厚労省も認めているのではないか。その上でマイナス改定を続けていくのであれば、これはもう、「一人一人の人件費の取り分を抑制してほしい」というメッセージなのだろう。はっきり言わないのは奥ゆかしさ故か。そんな中で介護人材を50万人も増やそうとしているというのだから、医療から介護へ鞍替えしようという気をおこさせるためには医療と介護の収入の均衡化を図るくらい、若しくは逆転させるくらいの思い切りが必要だ

 医療を下げることでの均衡か、介護を上げることでの均衡か。財政論なら当然前者なのだろうが。

 話は変わるが今月号の短信では、地域包括ケアの壮大な社会実験として、「柏プロジェクト」をとりあげた。国を挙げての超高齢社会の課題解決に向けた取り組みとして、大きなヒントになるべき研究活動である。是非、ご一読いただきたい。


<ワタキューメディカルニュース事務局>

※1…国民が本当に切望しているのは負担率が上がらないことや、透明化、患者サービスの向上、などで、本来ならば改定率が上がる方向になってしまう内容ではないだろうか。(国が面倒を見てくれるならば、)プラスもマイナスもあまり関係ないとさえ感じているのではないか。(WMN事務局の私見)

 

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