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No.659 武久日慢協会長、病院病床の「基準介護」新設を提案

2019年09月15日

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■看護業務の相当部分が「介護・介助」の実態を踏まえ、病院病床に「基準介護」を

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は8月8日開いた定例記者会見で、高齢化が進む中、急性期病院でも介護ケアが必要な高齢者が急増し、看護師の担う業務の相当部分が「介護・介助」となっている実態を踏まえ、病棟への「介護福祉士」配置を義務化し、看護師は「看護師資格を保有していなければ実施できない高度な業務」に特化し、「介護業務」は介護福祉士が担うべきではないかと、病院病床に「基準介護」を設けることを提案した。

 

 医療法では、「一般病院の一般病床は3対1以上(患者3人に対し1人以上)」「同じく療養病床は4対1以上」「特定機能病院は2対1以上」の看護師を配置する義務が定められている。さらに診療報酬では、入院医療における看護職の重要性を勘案し、看護配置等に応じた入院基本料(例えば急性期一般病棟では看護配置7対1以上)が設定されている。しかし、高齢化に伴い入院患者に占める高齢者の割合、要介護者の割合が高まり看護師の担う業務のうち、相当部分は「介護・介助」に移ってきている。

 実際に、厚生労働省の研究事業では、「排泄介助(総看護業務時間に占める割合5.2%)」「食事の世話(同3.5%)」「体位交換(同2.8%)」「身体の清潔(同1.8%)」「身の回りの世話(同1.6%)」「話を聞く、寄り添うなどの心理的ケア(同1.2%)」などが一定の時間を占めている(図1 病院における看護業務の実態)。

 

■働き方改革のタスクシフティングの論議で、看護業務の他職種への移管の検討も

 一方で、2017年度に実施された「効率的な看護業務の推進にむけた看護師のタイムスタディ調査」では、現場看護師が「他職種に移管(タスク・シフティング)可能」と考える業務として、「リネン交換(看護師の77%が移管可能と考えている)」「環境整備(同75%)」「更衣(同75%)」「身体の清潔(同75%)」「排泄介助(同75%)」「食事の世話(同75%)」「体位交換(同73%)」「身の回りの世話(同72%)」「患者の搬送・移送(同70%)」「安楽のための世話(同64%)」「話を聞く、寄り添うなどの心理的ケア(同61%)」など、患者のケアに関する業務をあげている(図2 看護業務の他職種への移管の可能性)。

 

 

 このような現状を踏まえ、記者会見で武久日慢協会長は、「高齢化の進展で純然たる看護業務が相対的に減ってきている」と指摘。多忙な看護師の業務を整理し、看護師資格保有者(看護部長など)の指示の下、①看護師は「看護師資格を保有していなければ実施できない高度な業務」に特化する、②「介護業務」は介護福祉士が担う―という切り分けを行い、回復期や慢性期の病棟はもちろん、急性期病棟においても「介護福祉士配置を義務付けるべきだ」と提案した。

 その上で、同氏は「看護師のレベルはどんどん上がっている。認定看護師や特定看護師、ナースプラクティショナーなど、スキルの高い看護師が誕生している。看護師は、看護師にしかできないレベルの高い業務に専念するとともに、医療の高度化に努めてもらうべきである」などと、看護師から介護福祉士へのタスクシフティングを進めるべきと強調した。

 

 2019年秋からは、中医協で2020年度診療報酬改定に向けた第2ラウンドの論議が行われる。その中で、働き方改革と関連したタスクシフティングの論議で、「病棟への介護福祉士配置の義務化」が検討される場面が出てくるかもしれない。

 

【事務局のひとりごと】

 

 プロ野球選手が本来すべきことは何か?

 当然、試合に出て結果を出し、チームの優勝に貢献すること。そしてそのためにあらゆる努力を惜しまないこと なのだろうと思う。

 先日、野球に関わる講演を聞いた際、とても分かりやすいたとえ話を聞いた。

 

 野球の技術はすばらしいが、横柄で自分のことばかりを優先しているような選手

 

 野球の技術は今ひとつだが、努力を惜しまず、誰に対しても分け隔てなく、進んで縁の下の力持ちとなりひたむきに野球に向き合う選手

 

 皆さんならどちらの選手を応援したいですか?

 言われるまでもなく、誰もが後者を応援するでしょう?そういうことなんです。“超”がつくほどの一流選手が、例えばアウトになってバットをたたき付けたり、ベンチにドカッと座ったり、そんな振る舞いを見ると何か言いたくなるでしょ?それはファンが知らず知らずのうちに、一流の選手には一流の振る舞いや考え方を求めてしまうからなんです。ただ野球が上手いから応援するというのではなく、その人の“ひととなり”を応援するんです。だから、野球選手は皆から尊敬されるために(憧れの選手の背中を追いかけて、あるいは自らが自らを尊敬できるように)野球の技術だけでなく、振る舞いや言動、奉仕活動、ファンサービス、そういった野球以外のことにも精一杯、情熱を傾けるんですよ。

 

 こんな話である。誰もが知っている複数のトッププロ選手が、あらゆる努力を惜しまず、その結果としていかに皆から尊敬される姿勢で野球に臨んできたか、あらゆる角度から話をされていた。知らず知らずの間に、何度も涙が出た。夏だというのに、一緒に鼻水も出た。

 

 今回のテーマは、病院病床の患者像が、医療行為よりも介護ケアが必要な高齢患者が増えていくという現状の中、その実態を踏まえて看護師には看護の仕事に傾注してもらい、ケアには介護福祉士を配置することで業務分担を行うためにも、病院病床に基準介護」という考え方を設けるべきだ、という提言についてである。

 

 コメントを紹介したい。

○慢性期医療を担う民間病院長:「介護のプロである介護福祉士を病棟介護業務に配置することは、まさに時代の要請」

 急性期病院での入院治療中に十分な介護ケアやリハビリが行われていないことが要因で、寝たきり状態になり、さらなる介護ケアが必要となった高齢者が、我々慢性期病院に紹介されている。介護のプロである介護福祉士を多くの病棟介護業務に配置することによる「基準介護」の導入は、まさに時代の要請であると思う。

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 テーマを取り上げた事務局としては、とても嬉しいコメントである。日慢協としてもそういった声が現場から上がってきたことでの今回の提言でもあるのだろう。

 

 病院団体からのコメントである。

○四病協:「看護補助者と介護福祉士、病棟で勤務する際の業務区分けを検討する必要がある」

 6月19日開かれた四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会)の総合部会で、「看護補助者の位置づけを検討していく必要がある」とし、特に、『病棟で働く看護補助者』と『病棟で働く介護福祉士』について、業務の区分け、評価のあり方などを今後詰めていくことになった。

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 急性期看護補助体制加算 は、病棟に看護補助者を配置することで、看護師の負担軽減を行おうとする取組みを評価するという名目で点数が設定された。さらにその効果はかなりある、とみた厚労省により、より高い点数設定もなされてきた。雇用した看護補助者の人件費全てを点数でまかなうことはできないが、副次的効果として、業務の棲み分けが上手くいくことで看護師があまり辞めることなく定着するようになった。そういう意味ではこの加算は、各医療機関からおおよそ好意的に受け止められている

 

 が、そこへ来て今度は「医師の働き方改革」である。

○医政局長:「どの業務をどの職種に移管することが可能か、具体的な業務移管方法などの検討を年内にもスタート」

 厚生労働省が7月26日に開催した「医師の働き方改革を進めるためのタスクシフティングに関するヒアリング」で、吉田厚生労働省医政局長は、関係学会・団体(30の医療関係職能団体や関係医学会など。三師会、四病院団体協議会、新専門医制度の基本領域学会、日本専門医機構、日本看護協会ほか)から示された意見を踏まえ、「具体的な業務移管方法などの検討を年内にもスタートさせる」考えを明らかにした。

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 働きすぎの医師の業務を緩和させるために医師以外でも可能な業務は看護師に(看護師以外にも)、今度は看護師でなければできないこと以外は他の職種へ、“タスクシフティング”とはそういうことを指すのだろう。

 

 先述の講演。リトルリーグに入る小学生には、希望して入るみんなに問うていくのだという。今や将来プロを目指そうという志の高い人(子どもであるが)も、何かを強制してさせるなど、教育の手法では採用されないという。

 

将来どんな選手になりたいの?→○○のような選手になりたい。

 じゃあ、その憧れの選手はどんな行動をしているの?→練習開始前にはグランド整備したり、きれいにトンボやバットを揃えたり、練習が終わったらボール磨き、道具磨きなどしています。

 

 みんなはそれをできてる?→できていません。

 

 みんなが目指す選手になるためには、今みんなが言ってくれたことをみんなが進んでやるようにならないと、多分憧れの選手に近づくなんて無理だよね?どうすれば良いと思う?→みんなが次々と目標を口にしていく。

 

 分かった。みんながなりたい選手に向かって、みんなで決めた目標だよ。絶対にやっていこうね。

 →納得感のある、一人ひとりの腑に落ちる目標となり、最初はグランド整備やボール磨きすらしようとしなかった小学生たちが、どんどん礼儀正しい、後輩から憧れを受ける野球人になっていく…

 のだそうだ。

 

 実に尊い話であり、それを常に実践されてきた教育者でもある演者は素直に素晴らしいとても共感できた

 これも現実であるが、どういう取り組み方が尊いのか、突き詰めれば皆同じ。野球だけでなく、あらゆる仕事に通じる根底は、筆者は実は一緒なのだろうと考える。ただ、この尊い話に“時間の概念”はないのだ(※1)。

 

 看護師からのコメントを紹介したい。

 

○民間病院の看護部長:「看護師の観察力を養うには、患者の療養上の世話は大切」

 看護師の仕事は大きく分けると、「診療の補助」と「療養上の世話」がある。患者さんの「療養上のお世話」の一部を、介護福祉士に移管することは、看護師のキャリアアップのために良くないと思う。単に補助や介助だけなら誰でもできる仕事である。しかし、看護師は違う。排泄物の量、発疹が出ているなどいつも様子が違うなど、ちょっとした変化にいち早く気づき医師等に報告し処置をすることができる。これは、患者と接する時間が長い看護師の観察力があるからこそ。その観察力を養う上でも、看護師にとって「療養上のお世話」は大切であり、単純なタスクシフティングには疑問を感じる。

 

○急性期病院勤務の看護師:「病院勤務の看護師と介護施設勤務の看護師では5万円もの給与格差。介護福祉士の給与が上がれば、我々看護師の待遇にも大きな影響が出るか心配だ」

 日本看護協会の調査では、介護施設等に勤務する看護師は病院で働く看護師よりも賃金水準が低く、病院から介護分野への労働移動が進みにくい一因になっていると指摘している。実際、介護施設で働く友人の34歳の看護師は約29万円で、同年代の私は約34万円で5万円もの格差がある。介護福祉士の給与が上がれば、我々看護師の待遇にも大きな影響が出るか(介護福祉士の給与水準に抑えられるか)心配だ。

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 続けていこう。

 こんなコメントである。

 

○准看護師:「准看として看護師から低い立場から見られていると感じていたが、介護福祉士とチームで患者さんをケアしたい」

 父親の看病をしながら病院で看護助手をして父親を看取った後、20代後半に働きながら准看護師養成校に通い、准看護師の資格を取得。民間の中小病院に就職した。最初は、准看として看護師から低い立場から見られていると感じていたが、積極的に患者さんと接することができる環境に身を置き、医師や看護師の会話を聞き、ケアをする様子を間近で見たりしたことで、知識と実践をつなげて考えるようにした。今では、准看護師として誇りを持って患者さんに接している。今後、介護福祉士さんと一緒に働くようになれば、自分の体験を生かしてチームとして患者さんのケアに当たりたい。

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 今度はこんなコメントだ。

 

○看護補助者:「待遇を含めて誇りを感じる看護補助者として扱って欲しい」

 地域包括ケア病棟で働く看護補助者。当院は病院長の経営的判断で、病棟配置看護師が逓減していく中で看護補助者の活用に注力し、看護補助者の増員と看護補助者による休日・夜間勤務開始や業務拡大(タスクシフティング)をしている。私の本音としては、辞めていく病棟配置看護師の単なる代替としての看護補助者ではなく、待遇改善を含め、誇りを感じる看護補助者として扱って欲しい。

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 見事なまでにコメントがタスクシフティングしていると感じたのは筆者だけだろうか?

 

 少し視点を変える。

 

○老健施設を併設している病院長:「介護職の待遇改善が、法人全体の大幅な人件費負担増につながってしまった」

 当法人の老健施設では、政府が閣議決定した介護人材確保策について、看護職員などに還元できない仕組みであると不満も少なくない。経営者にしてみると、「なぜ介護職員の給料だけが上がるのか」という他職種の不平不満は無視できない。そこで、何とかやり繰りして、看護職員や理学療法士等への昇給・手当拡大も行うことにした。その結果、大幅な人件費負担となった。

 

○介護施設運営事業者:「既に介護福祉士の給与が准看より上回り、人手不足とあいまって介護福祉士の確保が難しくなる」

 昨年末、総合的な介護人材確保策の一つとして「勤続10年以上の介護福祉士に月額8万円相当の賃金改善を行う」と閣議決定された。この施策は2019年10月に予定される消費税率10%引き上げの財源を用いて実施される。都市部のある介護事業所の経営者によると、「ウチでは、既に介護福祉士の給料が准看護師よりも高くなっている」という。介護福祉士の給与は准看護師より7500円高く、看護師より2万2500円低い水準だそうだ。今後、人手不足とあいまって介護福祉士の確保が難しくなるのではないか心配だ。

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 うーむ。一部だけに光を当てると、なかなか上手くいかないこともあるということを思い知らされる。

 

 病院病床に福音がもたらされるかのような提言であったが、実になんとも悩ましい現実も見えてきた。

 最後に当の介護福祉士のコメントを紹介して締め括りとしたい。

 

○「介護業界の働き手が高齢化している現実。高齢化する介護福祉士が、若手の看護師の下で働けるのか疑問」

 体力的にも精神的にもハードと言われる介護現場で働くスタッフの年齢が上昇しているという。介護職員の労働組合である「日本介護クラフトユニオン」が発表した就業状況のデータによると、平均年齢は月給制で46.2歳、時給制のスタッフでは51.4歳だった。介護をする側とされる側の年の差が、どんどん狭まってきているのが現状。急性期病院にも介護福祉士配置を義務化すべきとの意見だが、高齢化している介護福祉士が、急性期病院で働けるのか不安だ。

 

○「病院の中で『看護師>介護福祉士』という新たなヒエラルキーが生まれることになる」

 医療・介護界は、資格社会である。看護師から介護福祉士へのタスクシフティングというが、病院の中で「看護師>介護福祉士」という新たなヒエラルキーが生まれることになるのではないか。

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 幼き頃、大人や職業人への憧れ、があったかどうか、遠い昔ですでに忘れてしまったが、仮に、現代を生きる子どもや青少年たちにもそういう憧れが、今でもあるとしよう。将来の日本を背負ってくれる若者たちに、医療・福祉業界も憧れを抱いてもらうような業界であって欲しいと願う。

<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

(※1)・・・「働き方改革」が絡んでくると、時間の概念が付きまとう。仕事が好きで、時間を忘れて打ち込む、みんなのために早く出てきて、準備して、机磨きや掃除、整理・ゴミ拾いなど、どちらかといえばこれまで“美徳”とされていた行動は、労務管理をしなければならない組織からしてみると、これらを全て定時内で行っているならば文句はないが、これが“残業”扱いとなると話が変わってくるのだ…。 本来“有り難い”行為のはずが、全く異なる答えを生み出しかねない、という社会になってしまったのだ。野球の話は自然と涙が出た。働き方改革の話にはなぜか涙は出てこない。仮に出たとしてもそれは“悔し涙”だと思う。とても皮肉な話だ。

<筆者>

 

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