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No.594 厚労省が来年4月の介護報酬「期中改定」の具体案。 経験・資格に基づく定期昇給要件の新処遇改善加算。

2016年12月15日

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介護職員の処遇改善に向け、2017年度に臨時の介護報酬改定

 厚生労働省は11月16日開いた社会保障審議会・介護給付費分科会で、来年4月に予定している介護人材の確保に向けた介護報酬の「期中改定」について提案し、分科会の了承を得た。経験年数、資格、事業所内での評価のいずれかに応じて定期昇給制度等を導入した事業所に対して、介護職員の平均給与が月額1万円相当上がるように新処遇改善加算を設けることになった。これにより、介護人材の確保に向けた介護報酬の「期中改定」の大枠が固まった

 

 介護人材の確保・定着を巡って厚労省は、「2009年度の介護職員処遇改善交付金(その後、加算に組換え)「2012年度の介護報酬改定で介護職員処遇改善加算の創設と、その後の拡充」などの対応を進めてきた。しかし、安倍首相は処遇改善が不十分であるとし、「技能や経験に応じた給与アップの仕組みを創る」など処遇改善を進め、さらにアベノミクスの新3本の矢の1つに、「介護離職ゼロ」の実現を掲げた。今年6月に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」では、介護人材の処遇について「2017年度からキャリアアップの仕組みを構築し、月額平均1万円相当の改善を行う」方針を明らかにした。これを受けて、厚労省は、「2017年度に介護職員の処遇改善に向けた臨時の介護報酬改定を行う」ことを決めた。

 

■事業所内で、経験年数、資格、評価に応じ昇給する仕組み

 これまでの介護給付費分科会では、多くの委員から「改定に当たっては、定期昇給の実施を要件とすべき」「介護福祉士の評価を充実すべき」などの意見が出された。こうした意見を踏まえ厚労省は16日の分科会に、①現行の処遇改善加算(ⅠⅡⅢⅣ)の上に、月額3万7000円程度の上乗せを行うことを要件の1つとする加算区分の新設、②新加算区分では、現在の加算Ⅰの要件(キャリアパス要件Ⅰ、キャリアパス要件Ⅱ、職場環境要件のすべてを満たす)に加えて、新たな「キャリアパス要件Ⅲ」をも満たすことを求める、③「キャリアパス要件Ⅲ」は、事業所内で①経験年数、②資格、③事業所内での評価のいずれか(組み合わせも可能)に応じた昇給(基本給、手当、賞与などを問わない)の仕組みを設け、これを就業規則等の明確な根拠規定の書面での整備・全ての介護職員への周知していることとする-提案を行った(図3 処遇改善加算(拡充後)のイメージ(案))。

 

 

関係者のコメント

 

<厚労省老健課長:「介護人材の賃金改善に確実に結びつくことが重要」>

 分科会で厚労省老健局の鈴木健彦老人保健課長は、「介護人材の賃金改善に確実に結びつくことが重要。このため、処遇改善加算の対象職員や対象費用の範囲については、対象職種などは拡大しないなど現行の取り扱いを維持する」との考えを示した。

 

<分科会の学識経験委員の意見:「経験年数や資格が必ずしも質の高いケアに結びつかず」>

 分科会の学識経験者委員である堀田聡子国際医療福祉大学大学院教授は、「経験年数や資格が必ずしも質の高いケアに結びついているとは言えない」とコメント。委員の鈴木邦彦日本医師会常任理事も「勤続年数や資格取得を給与に確実に結びつけることは難しい。人事考課を行い昇給に結びつけている事業所を優先的に評価すべき」との意見を示した。

 

<全国老施協調査:特養の経営悪化、介護職員処遇改善加算区分Ⅰの算定実績は77.0%にとどまる>

 全国老人福祉施設協議会(全国老施協)は11月15日発表した2015年度の特別養護老人ホーム(特養)の収支状況の速報値の中で、昨年4月の介護報酬改定で拡充された介護職員処遇改善加算の区分Ⅰの算定実績は77.0%にとどまり、改定前の同加算(現在のⅡに相当)の算定率に比べて18.0ポイント減少したことを明らかにした。その理由について、算定要件の厳格化や手続きの煩雑さをあげている。全国の特養の平均収支差率はマイナス1.1%で、2002年度の調査開始以降で最悪の赤字となった。その原因として、介護報酬改定に伴う基本報酬の減額と、加算の算定要件の厳格化をあげている。

 

<利用者の自立度向上に熱心な介護施設の職員:「利用者さんの自立度向上の結果、給与が上がれば、自らの励みになる」>

 介護施設の高齢者等の自立度が上がると、自治体が事業所を表彰し、成功報酬を出す試みが各地で広がっている。日本海側のある県の特別養護老人ホームでは、県から「他の事業所の模範となる介護を実践した」として表彰され、12万円の奨励金を受け取ったという。この動きに対して、中部圏のある特養の職員も「利用者さんの自立度向上の結果、給与が上がり、処遇が改善されれば、自らの励みになる。そのために、研鑽に努めたい」と述べている。

 

 <介護施設の施設長の声:「処遇改善はさることながら、介護報酬体系の見直しが必要」>

 経営者の立場からある介護施設の施設長は、「介護職員に積極的な介護によって利用者さんの要介護度が下がると、かえって介護報酬が減り、事業所の収入が下がるという介護報酬体系自体がおかしい」と指摘。「単純に月1万円相当の処遇改善ではなく、利用者さんの自立度が向上すれば、厚く報酬を出す仕組みをきちっと確立すべきだ。その結果、職員の処遇が改善されれば、職員のやる気が高まり、結果的に定着してくれることになる」と、処遇改善はさることながら、介護報酬体系の見直しが必要だと強調する。

 

事務局のひとりごと

 

 高額療養費の限度額の見直しの議論が大詰めを迎えている。現役世代並みの収入を得ている(夫婦計で370万円/年なのだそうだ)高齢者の限度額を引き上げる、という内容だ。今回のテーマは介護人材の処遇改善に関する内容なので、高額療養費については割愛するが、筆者が感じたのは、現役世代並みの収入が年間370万円とされているということだ。仮に年金生活であるご夫婦であるとすれば、月額で約30万円の収入(一人当たり15万円程度)があるという計算になる。国民年金に加入しているだけでは実現できる金額ではないので、厚生年金、厚生年金基金など、現役時代に手厚い福利厚生制度があったであろう高齢者をターゲットとしているのだろう(国民年金は国民年金基金等による上積が全くない場合、6.6万円/月:2ヶ月分がまとめて支給される)。

 では、今回のテーマである介護人材の現役世代の収入は、高額療養費のターゲットとされている高齢者に比してどうなっているのだろうか。

 

 厚生労働省の統計によると、福祉施設の介護員の月給は2014年の全国平均が常勤で21万9700訪問介護員(ホームヘルパー)は22万700であるという。全産業平均の32万9600より約11万円低い結果になっているのだそうだ(※2)。

 これを高いと見るか。低いと見るか、考え方はそれぞれあるだろうが、国が「改善しよう」、といっているわけだから、高いとは言いがたいのだろう。今後ますます不足していくことだけは予想される介護人材の収入が低ければ、当然人も集まりにくい。非常に難しい問題だ。

 話は少し変わるが、編集協力をお願いしているヘルスケアNOW様に、「病院、介護施設の勤務者による窃盗問題を考える」と題して取材をお願いした

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病院、介護施設の勤務者による窃盗問題を考える

 

 医療・福祉施設内の盗難が多発している。外部からの侵入者、患者や利用者、施設内部職員等によるものなど犯人はさまざまであるが、ここでは、高齢者介護施設内部の勤務者による窃盗の増加に注目した。

 ニュースでしばしば報道されるなど、施設における窃盗犯罪は確かに増えている状況が実感される。この問題に関する行政の確かなデータは、まだ殆どない。

 厚労省は、問題視はしているものの、事件の性質上、表面化しにくいこともあって、まだ確実な全般状況として把握していないのが実情だ。

 そうした中で、テーマへの取り組みには限界もあるが、関係各方面の関係者の話や体験をもとにまとめてみた。

 特に多いのが現金の窃盗である。

 入居者の現金がタンスや財布から盗まれた。入居者のキャッシュカードが勝手に使われ、気が付いたら現金が何度も引き出されていた。事務室の金庫内の現金が盗まれた・・・などの被害をしばしば耳にする。

 現場関係者によると、現金を財布などから盗む際には、札を何枚か残して抜き取るという、発覚を遅らせたり、逃れたりするための巧妙な“ノウハウ”も使われたりするという。

 盗難がおきる原因は、

*人の出入りが多く、夜間でも訪問者に紛れて居室内まで入りやすいこと。

*入居者の居室には、ケアや安全上、施錠ができないこと。

*人材不足や業務繁忙から、目が届かないことがあること。

*夜間の警備が手薄になること。

*犯人が常時いること。

*施設勤務者の給料が安いこと。

*経営者や職員の油断があること。

 などが一般的である。

 こうした現象や盗難の背景には、何といっても認知症の急増という社会問題がある。「今や高齢者介護施設入居者のほとんどが認知症の人といっても過言ではありません。それが施設内の問題発生を増長し、複雑化しています」(医療・介護施設勤務の医師)

 「認知症の症状のひとつとして、被害妄想になりやすく、作話(作り話)をすることもよくあります。ヒントを与えても身辺の出来事を思い出せないため、身近かな介護者が疑われることがあります。それを逆説的に介護者が利用して、盗みなどを働きやすくしている一面もあります。患者は時々記憶が抜け落ちてしまうので、証拠がないわけです」。(施設幹部職員)

 さらには、「内部の人間で、犯人はおよそ分かっていても刑事事件にせずにおさめてしまう。また、チームワークが不可欠な介護の職場で、同僚に疑心暗鬼になっている状況では、ストレスがたまりケアに悪影響が出てしまうことにつながります。」「上司が犯人だと知っていても、それを口にだすことができない」(介護福祉士)などの声もある。

 もう一つの背景として、介護職の収入の低さがあげられる。一般の企業の給与ベースと比較しても明らかだ。

 社会的にも問題視されていながらも、まだ重労働の割に低賃金の改善がなされる経済環境にない中で、介護職は精一杯の努力と使命感で日々を送る。

 その一方で、入居者のなかには経済的に比較的恵まれた人もいる。患者や入居者を守る立場のこれら職員には、職務上、当然強い倫理観が求められる。ところが現場で相手が認知症で分からないとなると、自制心が揺らぎ事件となる。いわば“出来心”の仕業である。

 では、高齢者介護施設での盗難をいかに防ぐか。

 盗難防止の基本はまず組織の、安全管理に向けた緻密なルール作りである。

 例えば

  * 現金・貴重品は原則として、居室内にはもちこまない。

  * 現金、貴重品は金庫等で施錠保管する。

  * 入居者の私物には、氏名を大きくはっきり書く。  

  * 入居者の私物は、リストを作り、写真と一緒に保管する。

  * 防犯カメラ、防犯システムを導入する。

  * 現金、貴重品の管理規定を作成、入居者側の委任を得た上で、厳正、的確に運用していく。

  *入居者、家族から預かった時に預かり証を発行する

  *預かった現金貴重品は速やかに出納帳に記載し、領収書セットで保管する。

  *現金、貴重品の出し入れは、必ず2名以上の職員で行いサインを残す。等。

 

 なお、盗難が起きてしまい、残念ながら内部犯と思われる場合の対応としては、入居者や家族の協力を得て、紛失した日付や場所、金額、物品の形状、等を書き出し、施設の共有部分に掲示する。必要に応じて警察への相談の意向も示すことで、盗品が返還される可能性もある。

 重要なのは、黙っていないこと。問題にする姿勢をみせること。なおかつ困難な状況があればさらに上層部に報告、民生委員に相談、警察に相談するなども選択肢となる。

 

 これらは介護施設に限ったことではなく、多様な人が集まるところどこにでも 発生する問題である。

 社会や地域の周辺環境が急速に変化しており、国による状況把握もまだ不十分な中で、医療、介護施設における盗難対策には、試行錯誤的な努力が求められるだろう。

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 一方、介護施設運営事業者からは、今テーマに関して以下のコメントを頂戴した

 「キャリアパス環境を整えるためには一定以上の事業規模が必要であり、地域によっては、今後、ますます大手事業者による介護保険事業の寡占化が進むと思われる。一方で、専門性の低いサービスについては人員(資格)基準が緩和された総合事業に移行するため、資格を問わない幅広い雇用も期待できる。今後、どちらを中心に据えた事業展開を行うか、各事業者の検討が必要と思われる。」

 

 また、介護ではないが病院等の定期昇給問題に関連して、「病院等では一般的に1%~5,000円/月ほどの定期昇給を毎期おこなっているが、診療報酬のアップが期待できない中、病床数は基本的に増えない(というより削減傾向)。このため、入院収益が大きく増加することは、期待できない状況下にある。今度の昇給問題は、事業者側が財務的に果たしてどこまで耐えられるだろうか・・・?」という、ヘルスケアNOW様のコメントもいただいている。

 

 ここまで、介護人材の処遇改善について考えてきたが、最後にこのコメントを紹介したい。

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 他業界の声(コンビニのアルバイト経験者)

 「介護業界は公的保険で保証されているが、競争激しいコンビニ業は過酷な労働環境」

 介護業界は、ブラックとは思わない。私の経験ではコンビニ業界のほうがひどい。クリスマスケーキやおせち料理などの季節商品は、余ればアルバイト、社員に関わらず強制的に購入。拒否すれば最悪、解雇。レジの違算も不足が出れば、経営者やチェーン本部社員以外が弁償する、そんなブラックな業界だ。介護業界は、待遇が悪いとは言いながら、公的保険で保証されている業界ではないか。一方、24時間で競争が激しいコンビニ業界は、かなり過酷な労働環境にある。

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 処遇改善は、業界団体の声の大きさ、国政に意見が通るルート、さまざまことを経られて初めて実現するのだ。コンビニアルバイト経験者の生々しいコメントをみて、そう感じずにはいられなかった


<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

(※2)…してみると、先程の現役世代並みとされる370万円/年は全産業平均の32~33万円/月というのがベースになっているのだろう。


<WMN事務局>

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