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No.579 「骨太の方針2016」で保育環境整備など少子化対策け 厚労省が介護施設内保育所の整備に助成

2016年05月15日

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「ニッポン1億総活躍プラン」「骨太の方針2016」に盛り込まれる少子化対策

 「保育園落ちた 日本死ね!!!」と題したブログをきっかけにした保育所の入所待ち待機児童問題。わが国の少子化対策の問題点が指摘され、大きな社会問題に発展した。政府は小規模保育所の定員を増やすなどの緊急対策を打ち出し、5月に策定される「ニッポン1億総活躍プラン」でも改善策が盛り込まれる。さらに、今年6月に策定される政府の「経済財政運営と改革の基本方針2016」(骨太の方針2016)でも少子化対策が重要課題として取り上げられることになった。

 4月18日に開かれた「骨太の方針2016」について検討している経済財政諮問会議の平成28年第6回会議では、「骨太の方針2016」策定に向けた議論で、「少子化対策・女性活躍」を議題にあげ、意見が交わされた。この日の会議では、一億総活躍社会の実現に向けた施策による経済効果を示す試算が内閣府から提示。それると、同一労働同一賃金の実現、保育や介護の受け皿確保、最低賃金の引き上げなどによって働く人の可処分所得が増加することで、2020年度の個人消費は13兆円余り押し上げられ、最終的に「GDP=国内総生産600兆円」の実現に寄与するとしている。

 

 さらに、伊藤元重東大大学院教授ら民間議員は「骨太方針に向けて~結婚・出産・子育て支援の総合政策パッケージ策定を~」を提出。GDP 600兆円を達成するために、安倍政権発足当初の見積もりを上回る税収の「底上げ分」を財源として、少子化対策の予算を倍増させ、保育士の処遇改善や保育サービスを受ける際に使えるクーポンの支給などを行うよう提言した(図 結婚・出産・子育て支援の総合政策パッケージ)。これに対して、麻生財務大臣は、「税の底上げ分がただちに安定財源になるかは疑問がある」と、反論。

 これら議論を受けて、安倍首相は「アベノミクスによって、経済再生と財政健全化の双方が着実に前に進んできている。人口減少や少子高齢化という構造的課題には、アベノミクスの成果も活用しつつ対処する必要がある」と述べ、1億総活躍社会の実現に向けて、保育士の処遇改善などの少子化対策の財源に、当初の見積もりを上回る税収の「底上げ分」を充てる考えを示した。

厚労省、介護施設内の保育所の整備費・運営費の助成を拡大

 一方で、安倍政権が掲げる「介護離職ゼロ」は、介護現場を支える人々の存在があって初めて成立する政策。昨年11月末に塩崎厚生労働大臣は、大分県中津市の介護施設などを視察後、「介護基盤の整備促進はもちろんだが、介護サービス自体を支えていく人材の確保が重要な課題だと認識している」などと発言。平成27年度の補正予算で介護施設内に設置する保育所の整備費や運営費への助成を拡大する意向を表明した(図 介護事業所内保育所運営・施設整備補助の概要)。

 厚労省の調査によれば、介護職員の離職理由では「出産・育児のため」が約30パーセントで第1位を占める。女性スタッフが多い介護の現場で、出産後に育児をしながらでも働きやすい環境を整えるため、介護施設と同じ敷地内、または同一の建物内に保育所を設けるケースも、少しずつ増えてきている。また、介護施設の従業員だけではなく、地域の子供たちを預かることで施設が地域に開かれた存在となるなど、メリットも多いといわれている。

 補正予算による支援策では、介護施設で働くスタッフが自分の子供を安心して預けられる労働環境の構築として、施設内に保育所を設けるための助成を拡大。介護施設内保育所に関する助成を以外に、離職した介護人材の再就職を後押しするための貸付制度や、復職情報を離職者向けに提供する届出制度などの新設など。

 

 

関係者のコメント

 

<塩崎厚労相のコメント:「60万人の潜在保育士が保育の現場で活躍するよう待遇改善を」>

 塩崎厚生労働大臣は4月7日の参院予算委員会で、保育士確保対策として、保育士の資格を持ちながら働いていない60万人ともいわれる「潜在保育士」について、「ベビーシッターを含めた保育の現場で活躍してもらうことが重要だ」と述べ、保育現場に復帰するインセンティブが働くような保育士の待遇改善など必要な施策を急ぐ考えを示した。

 

<保坂世田谷区長「民間地を保育施設に活用するため税制優遇策を」>

 塩崎厚生労働大臣は4月18日省内で、大阪市や東京・世田谷区など、待機児童が100人以上いる自治体の長と会合を開き、待機児童の解消に向けて意見を交わした。この中で、東京・世田谷区の保坂区長は「民間の土地を保育施設の用地として活用することを推進するため、固定資産税など税制の優遇措置を設けるべきだ」といった意見が出された。

 

<息子を預けている訪問看護師の声:「時間延長がしやすく、病児保育の充実を」>

 「何度も抽選を重ねて長男が入れた公的保育所は、意外と使い勝手が悪い。預かってくれる時間も原則9~18時で、時間延長も難しい。訪問看護師として勤めているが、患者さんの具合によっては仕事が終わるのは、18時過ぎになり、保育所に息子を迎えるのに苦労している。使い勝手のよい保育所の整備と、息子の急な発熱で苦労したが、病児保育の充実も必要」

 

<介護施設で働く母親の本音「期待されるのは給与面の支援」>

「施設内保育所助成で国の支援策で期待するのは、介護現場の最前線で働く人々の賃上げです。給与面での支援は、運営事業者一人ひとりの努力に任せていくということでしょうか。介護現場で働く人々すべての労働環境を改善していくことが大切だと思うのですが…」などと本音を語る。

 

<保育士のコメント:「地域で子供を育てる意識を」>

 千葉県市川市で今年4月にできるはずだった保育園が、「静かに暮らす権利が阻害される」という地元住民の反対によって断念したという報道がありましたが、あまりにも住民の身勝手ではないでしょうか? 私の勤務する保育園でも近隣住民の中から、度々「園児の声がうるさい」とクレームが来ますが、自分たちも幼稚園児、保育園児の頃があったはず。地域で子供を育てるという意識が必要ですね。

 

<保育園園長の声:「園長の給与だって手取りで24万円程度」>

 埼玉県ベッドタウンにある認可保育所の園長は、保育の質確保のためベテラン保育士の再雇用を積極的に進めているが、そのしわ寄せが若手保育士の給与に影響すると指摘する。「どうやってベテランから若手までまんべんなく人件費を手当できるか。老朽化してきた園舎の修繕も必要であり、お金のやり繰りで綱渡り状態。給与はなかなか上げにくく、私の手取りは24万円程度」と保育園の経営の厳しさを語る。

 

※…国・自治体は年間360万円分/人を予算として保育所に支給しているという(関連記事 日本経済新聞 5/9付 3頁「保育所の経営実態調査」)。仮に手取りを総支給額の8掛とすれば、上記園長の手取りが24万円とするならば、24万円÷0.8=30万円 12倍すると360万円となる。<WMN事務局>

 

<保育所運営会社のコメント:「社会福祉法人と同じ優遇を」>

 保育所運営の規制緩和により、2000年に株式会社による運営が認められたが、自治体によっては株式会社の参入を認めていない所もある。補助金や給付費に関しても、社会福祉法人を優遇している自治体が多くみられる。また、市有地を活用した保育所運営を社会福祉法人に限定している自治体も多い。保育所整備にはある程度の広さの土地が必要となるが、運営する法人が限定されることで株式会社が参入できないため、公平な競争条件を整備してほしい。保育所運営や保育の質に関しては、株式会社と社会福祉法人は大きな差はないと感じるが、株式会社に対する自治体の風当たりは厳しいのが現状である。

 待機児童が昨今問題になっている中、保育所を整備し易い仕組みを構築し、運営後も株式会社を社会福祉法人と同じ優遇にすれば、保育所の数も増え待機児童も解消していくであろう。

事務局のひとりごと

 

 今テーマに関しては、別冊として子育て世代からのコメントを是非ともご一読いただきたい。そしてこのテーマの抱えている問題が生活に密接に関係しているだけに、本文を含め相当のボリュームがあることをご寛恕願いたい

 

 「待機児童問題」。新聞紙面などによれば公式には約23,000人とされているが、隠れ待機児童を含めると8万人いるともされるこの問題、潜在保育士の問題も含め厚労省のお役人にとってはさぞかし頭の痛い問題だろう。こちらの「見える化」は実現しないのだろうか。保育士は医師、看護師、薬剤師同様、「国家資格」だ。しかし保育士の待遇、はっきりいえば給与がその国家資格に相当し、医師や看護師と同様な処遇かといえば、決してそうではない

 

 「認可保育所」と「無認可保育所」。この、「無」がつくかつかないかは保育所運営にとって重要だ。ただ、「無認可」などとよく報道などで使用される表現だが、「認可外」という表現の方が正しい保育人員の配置などは、認可保育所同様の基準が求められる0才児に対する保育人員の配置基準は3:1(乳幼児3人に対して保育人員1人の配置が必要)、1~2才児に対する配置基準は6:1など、看護配置より実は手厚いケアが必要なのだ。ところで子育ての経験がある方々、3人の0才児相手に1人で世話をすることが可能だろうか?自身の経験に照らしてご一考いただきたい。かなり厳しいということが想像できるのではないだろうか

 「認可」と「認可外」の差は、建物のハード面や園児の定員の規模など、実際には大いに異なる部分もあるし、さらに認可保育所では、保育を行う人員は、全員保育士である必要があるという大きな違いもある(認可外保育所は保育人員の60%以上が保育士である必要がある)が、たとえ「認可外」といえども、「保育所」と名の付く限り、法令を遵守した上での行政へ届出が必要なことに変わりはないのである

 

 「保育に欠ける」という定義をご存じだろうか。保育所は法律上、次のように規程されている(児童福祉法第39条)。

 

 「保育所は日々保護者の委託を受けて、保育に欠けるその乳幼児又は幼児を保育することを目的とする施設とする。②保育所は前項の規程にかかわらず、特に必要がある時は 日々保護者の委託を受けて、保育に欠けるその他の児童を保育することが出来る 」

 

 この法律に出てくる「保育に欠ける」とは、児童福祉法施行令で以下のように定められている。

①昼間労働することを常態としていること
②妊娠中であるか又は、出産後間がないこと
③疾病にかかり、若しくは負傷し、又は精神的若しくは身体に障害を有していること
④同居の親族を常時介護していること
⑤震災・風水害・火災その他の災害の復旧に当たっていること
⑥全各号に類する常態であること

 のいずれかに該当し、かつ同居の親族などがその子供の保育が出来ない場合。

 

 この条件が満たされて、待機児童の多い自治体では審査等などによる結果、保育園への幼児の入園がかなう。働くお母さん(便宜上こう書かせていただく)でも、昼間常時働かない形のパートタイム労働では「保育に欠けない」し、常時介護の必要でないおじいちゃん、おばあちゃんなどの、面倒を見てくれる人が同居していればこれまた「保育に欠けない」と判断をされてしまう。場合によっては面倒を見てくれる人が同居していなくても、近隣に住んでいるだけで認可保育園に入るのが難しい自治体もあると聞く。

 そして「保育に欠け」、認可保育所への入園がかなった両親の保育料は、その世帯の収入によって異なるが、契約主体は保護者と自治体となる。保育の延長料金などの一部例外を除き、保護者は自治体に保育料を支払うわけだ。認可保育所は自治体から園児数(園児の年齢による単価設定)によって自治体から支払われる給付金により保育所を運営する

 

 一方で認可外保育所は保護者と保育所の相対契約だ。保護者は保育所に対し、保育料(保育所の定めによる)を支払う。認可外保育所といっても、自治体から何らかの助成金を受けている場合がある。その助成金の単価は園児の年齢によって単価が設定されているという点において認可保育所同様であるが、その絶対額は全く異なる。おそらく認可保育所の1/3程度もあればよい方ではないか。認可外保育所は、定員数と助成金を見越した収支計画、投資とのバランスを見ながら、自治体の定めるテーブル内においてその差額を保護者の自己負担金として設定するわけだ。仮に助成金を受けていないのであれば、投資対効果を見据えた自由な保育料設定になるだろう。

 従って認可外保育所に我が子を入園させる場合、その保育料やそれに類する費用(主食費など)の合計額を聞いて、「高い」と感じる親は決して少なくない。さらに0才児に近づけば近づくほど、その負担額は高くなる

 逆説的にいえば、保育に欠ける幼児を持つ両親は、経済的負担を考慮すれば当然、認可保育所に子どもを預けようと考える。仮に認可外保育所に0才児の子どもを預けようとするならば、月額約6~8万円近くのお金を保育料として負担する必要があるのだ(※2)。都心部では“月額10万円以上”などということだってあり得る。

 

 今回のテーマの発端となったのは、「保育に欠ける」幼児を持つ両親、特に母親の声がブログという形をとって報道され、それが国会に届いたので脚光を浴びる形となった訳だが、「保育に欠けない」状態であったとしても、子どもの面倒を見るに際し、仕事や諸々の都合で大変な両親(特に母親)は当然存在している。

 認可保育所でも、定員が満たされない状態であれば、「保育に欠けない」幼児を預けることも可能だ。但しこの場合、自己負担額は保育に欠ける状態の幼児を持つ両親の負担に比べてかなり高い負担額となる。しかし、これだけ待機児童数が多いとされる世の中では、特に都心部では認可保育所に入園できないとされているのは「保育に欠ける」幼児であるだろう。

 「保育に欠けない」幼児の両親でも、保育所に預けたいというニーズは当然ある。そういう幼児の両親が保育園探しをするならば、結果として認可外保育所を探すケースが大半だろう(※3)。

 

 「子育ては母親の仕事」

 「お金を払っているんだから。保育所が責任を持ってちゃんと子どもを育ててほしい」

 

 こんな意見が当然のような考え方になってしまうほど、どこかで偏りが生じてしまった我が国の子育て事情。保育園の整備が必要と声高に叫ばれる一方で、保育園の騒音(※4)が問題での住民の反対運動が起きているという報道も目にする。

 昨今新たな取組として脚光を浴びている幼老一体型の施設も、一見すると素晴らしい仕組みであるかのように思えるが、居住する高齢者も「子どもの声がうるさい」という理由でいずれ建設反対運動が起きてしまうのだろうか(※5)。

 多種多様な考え方を否定するものではないが、「一億総活躍社会」の看板が下ろされない限り、働く子育て世代への議論は、そして支援は、少なくともこれまでより加速し、良い方向に向かっていくことだけは間違いない、と思いたい


<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

 

(※2)…もっとも、子どもの年齢が上がっていけば自己負担額は下がっていくので、それも子どもが0才児のうちの話ではあるのだが…。

 

(※3)…幸運にも保育に欠けない幼児が認可保育所に入園がかなったとしても、その自己負担額は高くなる。となれば、たとえば勤務先から近いとか、保育方針が気に入った、とか、保育料の高い安いとは別の理由で認可外保育所の方を選択するケースもあるだろう。

 

(※4)…子どもの声が「騒音」とされるのもいかがか、という気がしないでもないが、実際、子育てをしてみると、自分では慣れた(半ばあきらめた)子どもの「やかましさ(あくまで筆者の個人的見解) 」は、高齢世代にとっては、まさにそうなのかもしれない。たまに実家に遊びに来る自分の孫と、全然知らない他人の子ども。同じ子どもであっても捉え方は全く異なるのだろう。きれいごとだけでは済まされないのだろうが、保育所が、今保育を必要としない世代にとって「必要なのは分かっているけれど、いざ自分の身近にあると困る」というような扱いになってしまうのではあまりにさびしい。

 

(※5)…そういった施設で筆者が「子どものうるささ」よりもむしろ心配なのは、空気が乾燥しやすい冬だ。保育所では、冬は子どもたちの病気の温床となりかねない。保育士たちにとって、まさに「命がけの現場」であるといっても過言ではない。自宅で子育てをしていたって、通常は子どもしかかからないとされる、溶レン菌や手足口病などの病気に、親がときどき感染してしまうことだってあるのだ。子どもの感染力の強さには恐れ入る。子どものたくさんいる場所は、免疫力の低下した高齢者にとっては、もしかすると恐ろしい環境なのかもしれない。

 

<WMN事務局>

 

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