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562号 介護に「2割」がやってきた! ー 今年8月から介護サービス負担増に ー

2015年09月15日

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■改正介護保険法施行で所得に応じて1割から2割負担に
 改正介護保険法の施行で今年8月1日から、一定以上所得者の負担割合を1割から2割に引き上げるなど費用負担の見直しが行われた。この負担増、利用者と介護現場で困惑と混乱が広がっている。今回の改正は昨年6月に成立した「医療・介護総合確保推進法」の施行に伴う措置で、利用者負担の引き上げは2000年の介護保険制度発足以来、初めて。2割負担の対象者は60万人で、介護サービス利用者506万人(2015年4月時点)の約12%に相当する。背景には、少子高齢化で保険財政が逼迫しており、負担能力に応じて適切な負担をしてもらうことは避けられない国の財政事情がある。

 具体的には、①一定以上所得の利用者負担2割への引き上げ、②高額介護(予防)サービス費の基準の見直し、③介護保険3施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設)及びショートステイの補足給付の支給要件の見直し、④特別養護老人ホームの多床室の室料相当の自己負担化、が実施された。「費用負担の公平化」の観点から、低所得者の保険料軽減を拡充する一方で、保険料上昇をできる限り抑えるため、所得や資産のある人の利用者負担を見直す

 2割負担の対象になるのは、65歳以上で合計所得金額が160万円以上単身で年金収入のみの場合で年収280万円以上)が該当する。これは65歳以上のうち所得が上位20%に該当する水準。合計所得金額は収入から公的年金等控除や給与所得控除、必要経費を控除した後で、基礎控除や人的控除等の控除を行う前の所得金額。ただし、合計金額が160万円以上でも実際の収入が280万円に満たないケースがあり、世帯の65歳以上の人の「年金収入とその他の合計所得金額」の合計が単身で280万円、2人以上で346万円未満の場合は1割負担となる(図1)。

 介護保険では月額の利用者負担が一定以上となった場合、それを上回るオーバーした分は還付(払い戻し)となる「高額介護サービス費」の限度額が、2割負担のスタートに伴い、現役並み所得者に相当する人がいる世帯の人は負担上限が月額3万7200円から4万4400円へと引き上げられる。

波紋広がる施設の食費や居住費「補足給付」の見直し
 介護保険3施設などに入所している人のうち、所得が低い人に食費や居住費を補助する「補助給付」の基準も見直された。従来、補助給付は住民税が非課税となる低所得者であれば対象となった。しかし、8月以降は、住民税が非課税でも預貯金等の合計が、配偶者がいる人で2千万円(いない人で1千万円)を超える場合は対象外となる(図2)。

 配偶者の所得状況も厳格に勘案されることになった。従来は所得の少ない妻が施設に入所した場合、その妻の住民票を施設所在地に移したりして世帯を分離すれば、夫に一定以上の所得があっても妻は補助の対象となってきた。しかし、8月からは補助を受けられなくなった。

 もっとも現状では、介護保険を運営する自治体が利用者の資産を把握する有効な手立てはない。利用者やその家族に通帳の写しなどを提出してもらうことになり、手間がかかり、一部の自治体では混乱も起こっているようだ。こうした状況を解消する有効な手段としてマイナンバー制度の活用も検討されている。

 厚労省では、補助給付は福祉的な性格や経過的な性格を有する制度であり、預貯金を保有するにもかかわらず、保険料を財源とした給付が行われることは不公平であるという観点から、今回資産を勘案する見直しを行ったと説明している。しかし、相当の年金収入で生活している「普通の」高齢者、資産があってもすぐには取り崩せない人や、夫婦といっても生活の感情はまったく別という人にとっては、厳しく納得しがたい改定と言えそうだ。

「今後の生活が不安」と2割負担対象となった年金生活者の声
 厚労省によると2割負担の対象となる人は、65歳以上の5人に1人。その2割負担となった都内のある年金生活者。「今は介護保険のお世話にはなっていないが、介護を受けるようになったら、預貯金を取り崩していくことになるのかと心配」と、今後の暮らし向きに不安で一杯だ。

 一方、既に介護サービスを受けており、今回2割負担となった高齢者は、「費用が安ければ、介護保険サービスではなく、より制限の少ない家事代行業者や自費ヘルパーにお願いすることも考えたい」と述べる。さらに、「預貯金がなくなれば、NHK番組で話題となった老後破産の世界です。むしろ、生活保護のお世話になったほうがいいと思うようになりますね」と、自嘲気味に語る。

「所得や財産に係る個人情報の扱いに困る」と、都内のあるケアマネ
 今回の制度改正で、介護サービスのプランを作成する現場のケアマネージャーは、頭を抱えている。「費用が倍になるなら、介護サービスを減らしたい」という利用者の声もあるからだ。
 また、厚労省は6月末にケアマネの団体「日本介護支援専門員協会」に今回の制度改正を理解してもらい、利用者が高額介護サービス費や施設の食費・居住費の減額申請を作成する際の助力を求めた。しかし、都内のあるケアマネは、「所得や財産などの個人情報となり、扱いに困る。資産にかかる情報は成人後見の仕事であり、私たちは扱わないのが原則。そういう情報を記載する書類作成に協力を求められても困る」と当惑を隠さない。

【介護ジャーナリストの声あれこれ】
・「大変困った!」との声が周辺に非常に多く聞かれる。
・厚労省(というより安倍さん)への評価はガタ落ちで、そちらを向いた仕事はやりたくもない思いだ。
・高齢者の年金を吐き出させ、社会保障は何でも削り、表面的な言葉でつくろっている。
・「みんなが憤っているぞ!」との声に、厚労省の職員たちは、「俺たちもそうだ。だけどどうにもならない」とやり場のなさを語る。いわば冷や飯を食わされているようだ。心なしか最近の同省内の雰囲気は元気がない。多くが委縮してしまっているのだろうか。

事務局のひとりごと
 2025年問題といわれている中、ともすれば2025年を境に、どんどん市場が狭まってくるかのような印象を受けてしまうが、対象人口の見通しからすると、実は2040年までは、高齢者市場はまだ伸びる市場なのだ。

 日本に人口ボーナスをもたらした団塊の世代が、今度の人口オーナス(※1)に向け、社会保障費をたくさん使う可能性が高い存在として扱われ、できるだけ一人あたりの給付が無駄になることなく、多くの人に配分できるように各報酬の「あそび(余裕・利幅)」部分が徐々に減っている

 お役人的にいえば「報酬は減ってきたけど、でも業界はこれまで生きてこられたんですよね。」などという底意地の悪い逆説的な理屈により「効率化」「見直し」(※2)という名のメスが何度も入ってきた。

   とかく我が国においては、他国に比して「つつましやか」というべきか、「もったいない精神」とでもいおうか、とにかくあまりお金をかけずに物事を進めることが美徳であるという考え方が根底にある。だからという訳でないかもしれないが、税金や保険料は少ない方が良い、と一般論としては考えられがちだ。
「お・も・て・な・し」と国際的に代表されるようになった我が国の、痒いところに手が届くようなサービスが日進月歩で次々に出てくる、いわば「国を挙げてのサービス精神」は、住んでいる国民をして自らが享受すべきは、「安価だがしかし良質のサービスであるべきだ」と、これまた一般論として考えられていることだろう。
 であるから、税金も払っている、保険料も払っている、年金だって納付している、平たくいえば「高い金を払っているんだから、サービス(この言葉のもつ魔力か?)を受けることができて当たり前、国がちゃんと面倒見てくれよな。」という考え方になってしまうのだろうか…。
 我が国の社会保障費はどんどん膨らみ、この伸び幅を如何に抑えるかが課題だというのは、結構浸透してきた考え方となっており、客観的に冷静な判断をすれば負担増という結論にたどり着くのはそう難しくない。
 しかし一人一人の個人に当てはめるとなると、なかなかそうはならない。非常に難題だ。

   来年度は診療報酬改定の年である。以前とりあげた話題でもあるが、これから年末にかけて、紙面ではもはや財政面で完全に槍玉に挙げられている「門前薬局」や「薬価そのもの」からの財源吸い上げ論と、さらにはその財源を診療報酬本体に持っていこうとする苛烈な駆け引きが繰り広げられることになるだろう。
 門前薬局、というか、薬局も、薬品メーカーだって、これからもどんなことをしてでも生き残ろうとするだろう。生き残ったら生き残ったで「やってこられたのだからまた下げても生きていけますよね?」という悪循環だ。真っ当に行くなら自己負担増、増税、保険料アップ、などの方策なのだろうが、次に槍玉に上がるのは一体何なのだろう。政権が安定してしまうと、お役人の描いたストーリーの実現性は高くなる。そう感じずにはいられないような情報操作(?)である。

<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

※1…人口構成の変化が経済にとってマイナスに作用する状態。オーナス(onus)とは、「重荷、負担」という意味。逆に、人口構成の変化がプラスに作用する状態を「人口ボーナス」という。<知恵蔵2015より>
※2…呼称はともかくとして、とにかく報酬を下げるために用いられる用語。<WMN事務局>

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